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Update on :2024.02.28

「自分らしい働く」を探す旅(前編)

宮津 藍里 さん / 福嶋 剛 さん
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 / アクセンチュア株式会社
金融サービス部門 Business Transformation Manager / テクノロジー コンサルティング本部 アソシエイト・マネジャー

今回のトークセッションのキーワードは「キャリアジャーニー」。学生時代、就職、転職、カミングアウト……社会人の先輩たちは、それぞれの瞬間をどのような気持ちで迎えていたのでしょうか。EY Japanの宮津さん、アクセンチュアの福嶋さんにお伺いしました。



(薬師)ダイバーシティキャリアフォーラム、ご参加いただきありがとうございます。このトークセッションでは「自分らしく働くを考える」について話していければいいなと思います。私自身トランスジェンダーで、元々女の子として生まれて、男性として生活しています。かつADHDという発達障がいもあります。トランスジェンダーで発達障がいのダブルマイノリティであり、「自分って働けないのか」と小学生や中学生の頃から心配でした。でも就活のタイミングで、ダイバーシティに取り組む企業さんや色んな多様性を持つ社会人の先輩に出会うことで、「自分らしく働く選択肢ってたくさんあるんだな」と一歩踏み出すことができたんです。だからこそ皆さんのキャリアジャーニーを聞いて行きたいなと思ったんです。今日はそういったキャリアジャーニー、ご自身の人生の中で「生きる」や「働く」をどう捉えてきたのかを、先輩方に聞いていきたいと思います。

2人のご登壇者を今日はお招きしています、まずはEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社から宮津藍里さんよろしくお願いします。そしてアクセンチュア株式会社から福嶋剛さんよろしくお願いします。では宮津様から、自己紹介をお願いいたします。


自分から壁を作らないためにカミングアウト



(宮津)EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の金融サービス部門に所属しております、宮津と申します。よろしくお願いいたします。私は新卒からコンサルティング会社で働いているわけではなく、最初は金融業界に入っています。日系の大手信託銀行に入社して、外国証券領域のリコンサイル業務をやっていました。その後紆余曲折あって、2017年にEYに転職をしました。今は金融業界のクライアントを対象に、業務改善系のプロジェクトをやっています。EYに入ってからはバイセクシャルであることをオープンにして働いているので、皆さんのご参考になれば嬉しいなと思っています。



(宮津)私のキャリアジャーニーについて画像を作ってまいりましたので、こちらに沿ってお話させていただければと思います。幼少期は転勤族の家族ということもあって、引っ越しがとても多く、小学校は3つ通いました。コミュニケーションがすごく好きな子供として育ちました。

思春期を迎えるにあたり、同じ部活の女の子を好きなんじゃないかという気持ちが出てきました。異性じゃないということもあって「自分のこの感情は何なんだろう?」ということに、モヤモヤしていた時期が2年ほどありました。

高校に入ってからは、クラスが同じ女子に対して「間違いなく彼女のことを好きなんだな」と気づくことがありました。当時は言える友だちもいなかったですし、親にもカミングアウトをしていなかったので、自分の殻に閉じこもってしまい気持ちが落ち込んで、鬱状態の時期を過ごしました。結局心療内科に数年通って、お薬を飲みながら思春期を過ごしました。

その後地元を出て東京の大学に通い始めました。その大学ではオープンにしているクィアの友だちがすごく多くて、「別に隠す必要ないじゃん!」と思うようになり、自分もまわりに話をするようになりました。クィアの友だちだけでなく、アライの友だちが多かったことも嬉しく思っていました。そういった環境で自分の肯定感が上がってきたこともあり、ハタチの時に妹と母親に初めてカムアウトをしました。「実は……」と言ったら「あ、そうなんだ」ぐらいの反応で、「なんだ、もっと早く言えば良かったじゃん!」というのがハタチでの気づきでした。

その後大学を卒業して、銀行に就職をしています。皆さん就活をするときに「こういう企業に入りたい」というのがあると思いますが、私自身は「人柄が勝負」「その人の頭脳が勝負」というところで就活をしようと思っていて、金融業界に就職をすることにしました。外資、日系を問わず広く就職活動をしていましたが、最終的に拾ってもらった信託銀行というのが、専門性を身につけるということを重要視していたので、オタク気質の私に良いかなと思って、就職したという経緯があります。

女性の多い職場で、その当時お世話になっていたチームにも、2人の女の先輩がいたんです。実際のところは誰にもわからないのですが、その2人がすごく仲が良かったこともあり「あの2人は付き合ってるんじゃないか」と社内で噂になっていました。そしてその2人に対する「気持ち悪い」といった陰口を聞いてしまい、「私自身、女性も恋愛対象なのにな」というのを、どんどん言えなくなってしまったことが職場の中でありました。自分から壁を作ってしまい、バレたら拒絶されるんじゃないかとか、自分も陰口を言われているんじゃないかと思い込んで、自分らしさを出せなくなっていったことがありました。

そういった経緯も含めて転職活動を始めましたが、その時の転職活動は金融業界だけではなく、LGBTQ+の社員の活躍に積極的な会社をメインに探しました。コンサルティング業界は金融に手を伸ばしている会社も多いですし、ダイバーシティを重視しているところも多いので、EYに入社したという経緯があります。EYに入ってからは前職での経験を踏まえ、初対面のタイミングで自分がバイセクシャルであることをお話しています。もう自分から壁を作ってしまうことはしたくないという気持ちで、極力社内の人にも社外のお客様にも、オープンにして働いています。

(薬師)ありがとうございます。EYさんを選ばれたのがLGBTQ+の取り組みをしているからと仰っていましたが、その部分について教えていただいて良いですか?

(宮津)私が所属しているLGBTQ+当事者とアライのコミュニティ「Unity」は歴史があり、コンサルティングファームの中でも早いタイミングから活動していていました。私は2017年に入社をしたのですが、その時点で社内の認知度も高く、活動も積極的にやっていました。現在は、毎月のランチタイムミーティングや東京レインボープライドでの出展などをやらせてもらっています。異性の方であっても同性の方であっても配偶者として扱いを受けられる制度も整っていますし、コミュニケーションチャネルをきちんと確立しており、悩みを相談できる窓口も設立されています。

(薬師)ありがとうございます。EYさんの中で、こういうことがあって嬉しかったなということ、こういう反応があって嬉しかったなということってありますか?

(宮津)嬉しかったことはいっぱいあります。私、初対面の方にはバイセクシャルであることをいちいち言うようにしているんです。仕事には関係ないかも知れないけれど、私のキャラクターを知って欲しいので話すようにしています。今のプロジェクトの上司にそれを話したときに、「パーソナルなことなのに、シェアしてくれてありがとね。話してくれて嬉しかったです」と言ってくれて、逆に私が嬉しかったです。セクシュアリティも含めて私のキャラクターを、プロジェクトや対お客様に活かそうとしてくれる姿勢が、嬉しいと思っています。

(薬師)ありがとうございます。福嶋様からはいかがですか?

(福嶋)このキャリアジャーニーを見る限り、私と宮津さんは同年代かなと思います。大学時代にクィアやアライが多かったと言っていましたが、私の大学時代よりも正直いい環境だなと思って聞いていました。国内の大学だったのか、国内の大学だけど国外のカルチャーが入っているような大学だったのか。そもそも日本から出ちゃっていたということは、あったりするんですか?

(宮津)国内の大学なのですが、海外からの留学生も帰国子女の子たちも非常に多い大学でした。画一的な同質性が高い文化で育ってきた子たちが集まるところとはちょっと違ったかなと思います。

(福嶋)日本の文化だけではなくて、違う文化が入ってきているからこそ、そういう状況だったのかなと思います。今の会社の状況も大学の状況と似ているようですし、そういうのが合っているのかもしれませんね。環境はすごく依存しますよね。私も悩んでいたのでわかります。

(宮津)
誰も責める人はいないし、むしろ「支えますよ」と言ってくれる人が社内には多いんです。でも色んな企業で働いている人がいる中で、必ずしも皆が皆そういう扱いを受けられているわけではないんだろうなと思います。EYで働いている人以外も、自分らしさを出して働ける環境にあったら、日本はもっと生きやすくなるのになと感じることが多いです。

(薬師)
宮津さんありがとうございました。続きまして福嶋さん、お願いできますか。


嬉しかった「だからなんですか?」



(福嶋)福嶋剛と申します。よろしくお願いいたします。アクセンチュア株式会社のテクノロジー コンサルティング本部で、アソシエイト・マネジャーという職位に就いています。アクセンチュアには経験者採用、一般的に言う中途採用で入社しました。6年目になります。

経歴ですが、2015年に新卒でコンサルティングファームに入社しました。この会社もグローバルのコンサルティングファームだったので、アクセンチュアと似た状況かなと思っています。私、飽き性なんですよね。好きなものは好きで極めますが、嫌いなものは嫌いなんです。ひとつのプロダクトではなく人に愛を持っていて、人と人との繋がりやたくさんの人に出会うことに、幸せを感じます。どういう仕事をするか、どういうプロダクトを選択するかではなくて、いろいろな業種に関われる仕事をしたいなと思ったときに、学生時代にアルバイト先で「性格的にコンサルティングファームがいいよ」と言われたことをきっかけに、コンサルティングファームに入社しました。

転職をした今でもコンサルティングファームで働いているので、そのアルバイト先の人は私をちゃんと知ってくれていたんだなと思っています。1社目のコンサルティングファームでは、会計監査の補助や、システムのテスター、人事の制度設計をする上での調査など、色んなことをしていました。転職の理由としては、色んなことではなく、人事を極めていきたい、人が好きなので人を活かすことをしていきたいと思ったからです。

現在は人事組織コンサルタントとして、人事業務の改革支援、タレントマネジメントシステムと呼ばれるような目標管理、評価管理、後継者管理をメインとした人事システムの導入支援、保守運用のプロジェクトに携わっています。またEYさんのユニティと同じように、アクセンチュアにも「LGBTQアライ・コミッティ」というボランティア組織があります。そこのメンバーとしても活動しております。

アクセンチュアに入社した理由としては、私の人生を振り返ってTOP3に入るスーパーアライ、「この人がいたから今の私がある!」と思っている人の1人が、アクセンチュアで働いていたからというところがあります。また私がやりたい仕事があったから、人事組織コンサルタントとして仕事をしたいという思いが叶う場所だったからアクセンチュアに入社をしました。



(福嶋)ではキャリアジャーニーに進ませていただければと思います。さっきの宮津さんのキャリアジャーニーに比べると、ハッピーなところとブルーなところの高低差がひど過ぎて、「自分の感情は大丈夫か」と私も思ってしまったんですけど(笑)。本当にこんな感じでグルグルグルグル行ったり来たり、急上昇急降下を繰り返してきているなと思います。

まず学生時代についてなのですが、LGBTQ+に寛容な場所ではなかったので、行ったり来たりが多くありました。そもそも私はゲイなのかとか、ゲイじゃなくてもしかしたらバイなのかなとか、もしかししたら異性愛者なのかなとか、色々考えていました。私が社会人になったときは、まだまだ「結婚してなんぼだ」「子供を授かって社会人として一人前だ」みたいな話があったので、不安にかられていました。今でも覚えていますが、入社日の前日にはいてもたってもいられなくて大号泣しました。

でも実際に入社してみたら、その会社はLGBTQ+にフレンドリーな会社で、アライコミュニティのような活動があったんです。そこでオープンにしているレズビアンの方やゲイの方、寄り添ってくれている支援者との出会いもあって、「この会社に入社してよかった」と思いました。
ですが色々な状況もあり、入社して間もなくコンサルタントとして働くのに、ちょっと疲れちゃったんです。出張がベースで、月曜から金曜は東京から離れないといけなくて、かつハードなプロジェクトだったということもあって、食べた物をすぐに戻してしまったり寝付けなかったりしたことがありました。やっぱり人を大切にしたい、人を勇気づけられる会社に行きたい、そういうことを仕事にしたいという思いもあったので転職活動を始めました。

オープンにしている方やアライの方との出会いがあり、私も少しずつカミングアウトし始めていたので、転職活動をするにあたっても「この環境を全くないものにはできない」という風に思いました。宮津さんと同じように、LGBTQ+にフレンドリーな会社に行きたいと思い、転職活動をしていました。
でも私の思いの丈が高過ぎたのか、何社か受けても自分の希望に合う会社はなかなかなかったんですよ。そんな中、面接でアクセンチュアのオフィスに来ました。そしたら、レインボーの、アライと書かれているストラップをつけている社員の方々が多くいらっしゃったんです。エレベーターに乗った時に、半分ぐらいがそのストラップをつけていたんですよ。

でも「もしかしたら私が乗ったタイミングが良かっただけなのかもしれない」と思って。まだまだ浮かれるには早いと思ったのですが、実際にオフィスの中に入ってみると、2人に1人はストラップをつけている状況で「あ、この状況だったら話せるかも」と思いながら、面接会場で待っていたんです。そしたら面接官もストラップをつけていて、「あ、私もうこの会社で決めます」みたいな(笑)。

一次面接で、内定ももらっていないにも関わらず「ここだ!」と思って、面接時にカミングアウトをしたら「へー、だからなんですか」みたいな感じで、極めて普通に接してくれて。異物に触れる感じも過度な対応もなく、普通に接してくれることがすごく嬉しくて、そのことを面接官にもお伝えしました。2018年の5月に入社をしたのですが、その当時はゴールデンウィークの終り頃に東京レインボープライドが行われることが多かったので、入社直後に東京レインボーにアクセンチュアの社員として参加をする機会があり、パレードにも参加をしました。

そしたら私の目の前にオールバックにした髪をしっかりポマードで固めて、運動靴ではなく革靴をはき、黒いサングラスをした社員と出会ったんです。その人がなんと私が所属する部署のリードの方だったんです。後にその人と1対1の会議があって、そこで言われたのは「アクセンチュアって、正直まだまだなところはあるんだよね。だけど、それを見つけたんだったら是非教えて欲しい。教えてくれたら、一緒に変えていきたい」と言われて、なんて暖かい人なんだと思い、どっぷりとハマっていきました。

カミングアウトは一部の人にしかしていなかったのですが、2020年のダイバーシティキャリアフォーラムに記事(https://diversityworksjp.org/?p=13680)を出していただき、それをきっかけにSNSを通して友人全員にカミングアウトをしました。オープンリーゲイになって3年近く経つのですが、LGBTQ+当事者の方からだけではなく、障がいをお持ちの方やマイノリティマジョリティ関係なく働きにくさを感じている方からも相談が多くなりました。アライコミュニティとしてLGBTQ+を軸に進めているものの「I&Dのテーマが幅広くなってきているな、これこそ1人1人に寄り添うI&Dなんだろうな」と思いながら、今も活動していますし、今後もそういう風な観点でいければいいのかなと思っています。ここまでが私のキャリアジャーニーです。

(後編へ)