稲垣 友貴さん
EY Japan株式会社
Markets部門 データアナリスト
2022年6月に、DAC(Diverse Abilities Center:EY Japanの障がい者雇用の取り組み)1期生としてEY Japan株式会社(以下、EY Japan)に入社。大学・大学院で学んだプログラミングスキルを活かし、社内の業務効率化を担当する。大学院では環境分野(水文学)を専攻し、その研究成果は国際ジャーナルにも掲載された。
2つの条件に合った唯一の企業
稲垣さん「私は2022年の6月にEY Japanに入社しました。Markets部門に所属し、データアナリストとして業務の効率化やデータベースの整備を担当しています。仕事内容はスケジュールによっても変わり、現在は主に顧客満足度アンケート業務の自動化プログラム、そして社内研修システム上の受講状況を確認するためのプログラムを作成しています。今年の10月からは、プログラミングの研修を担当させていただく予定となっています」
なぜ稲垣さんは、EY Japanで働きたいと思ったのでしょうか。
稲垣さん「その経緯の前に、まずは私の障がいについてお話させてください。私は筑波大学大学院の1年生の時、障がいを発症しました。研究にやりがいを感じ没頭するあまり、体調管理を怠ってしまったんです。その結果『身体表現性障がい』という障がいを発症しました。そこで改めてこれからの人生について考え直し、障がい者雇用で働くことを視野に入れるようになりました」
身体表現性障がいは、痛みや吐き気、痺れなどの自覚的な身体症状があり、日常生活を妨げられているものの、それを説明するような一般の身体疾患、何らかの薬物の影響、他の精神疾患などが認められず、むしろ心理社会的要因によって説明される障がい。症状は人によってさまざまで、稲垣さんの場合は運動をすると腹痛などが起こってしまうと言います。
稲垣さん「2021年の3月に大学院の修士課程を修了し、その後障がい者雇用で就職をするために、就労移行支援事業所に1年ほど通所しました。そこでEY Japanに新しく設立されたDACの1期生募集という求人情報を見つけたんです」
Diverse Abilities Center-通称「DAC」は、2022年6月にニューロダイバーシティ人材の雇用や就労状況の改善を目指し、個々が自分に合った柔軟な働き方を試しながら、専門的なスキルとキャリアを習得することができる組織として、EY JapanのMarkets部門内に新チームを組成して支援体制を構築しました。EY Japanは、障がいを「Disability(能力が損なわれている)」ではなく、「Diverse Abilities(多様な能力がある)」と捉え、適切な環境が整えば、特別な能力として発揮されると考えています。DACの第1期生として採用されたのは22名。稲垣さんはそのうちの一人です。
稲垣さん「就活をする際に、どうしても譲れないポイントが2つありました。1つは、フルリモート勤務ができること。私は通勤を伴う運動をすると症状が出てしまうので、まずこの点が最優先でした。そしてもう1つは、自分の専門性を生かせるキャリアを築けること。障がい者のお仕事というのは、簡単な作業を不安定な雇用形態で行うということも多いのですが、EY Japanは、高いスキルが求められる仕事も障がい者に任せてくれる。私は大学、大学院とプログラムの勉強をしてきましたが、ここなら今まで培ってきたものが無駄にならないと感じました」
フルリモート勤務と専門的なキャリアプランの提供。その両方を兼ね備えているのは、EY Japanだけだったと稲垣さん。
稲垣さん「1年間就活をしましたが、この2つの条件に合う企業がEYのDACでした。DACが発足していたことで、私の将来に救いの手が差し伸べられたような気がしましたね。障がい者雇用枠の方に専門的なお仕事を任せる企業は増えていますが、それをフルリモートで、というのは本当に珍しいんです。というのも、フルリモートの場合、障がいがある方の現状を把握するのが困難という問題があります。対面なら手を止める様子や表情を見てすぐにヘルプにいけますが、フルリモートだとなかなか気づけないし気づかれない。よほど手厚いサポートがなければ、実現は難しいと思います」
EY Japanでは、具体的にどのようなサポートがあるのでしょうか。
稲垣さん「例えば、発達障がい専門の支援員との面談があります。1回10分のショート面談が週に2回。それに加えて1回30分の定期面談が2週間に1回。小さな困りごとも相談しやすい、十分なコミュニケーションの機会になっています。また体調や仕事の悩みを知らせるチェックシートも1日2回、始業時と終業時に提出することになっています。長く安心して働ける環境作りをしてくれていると感じます」
稲垣さんは、そういった制度があることを入社前からご存じだったのでしょうか。
稲垣さん「説明は受けていましたし、それが入社の決め手の1つにもなったのですが、ここまで手厚いとわかったのは入社してからです。実際に入社して思ったのは、ここが社員を大事にする会社だということ。EYはフルリモート勤務だけでなく、コアタイムのないフレックスタイム制も導入しています。オンラインでさまざまな講座を受講できるなど、社員教育にも力を入れています。こういった制度の数々は、社員を大事にする文化に根ざしているものだと思います」
人間関係にも恵まれていると稲垣さんは続けます。
稲垣さん「上司をはじめポジションの高い方々からも、優しくフランクに接していただいています。それだけでなく、失敗を悪とせず、誰もがチャレンジできる環境を作ってくれているのはとてもありがたいです。以前上司に『社内のIT人材を増やしたい』と相談したことがあったんです。それに対して上司は、Markets部門を対象に研修をする機会を設けてくれました。またリモート勤務だとどうしてもコミュニケーションが希薄になってしまいがちですが、定期的なランチミーティングやボーリング大会、勉強会などメンバー同士の親睦の機会も作ってくれています」
EY Japanに入社して1年と3ヵ月。稲垣さんはどんな場面で仕事のやりがいを感じていますか。
稲垣さん「私の仕事は、プログラムを作り、そのプログラムをEYのメンバーファームの皆さんに提供することです。『こんなプログラムを作ってほしい』と言う同じ社内のメンバーが、私にとってのお客さまです。『このプログラムよかったよ』『このプログラム使いやすいから、他の部署にもお渡ししていいですか?』といった意見をもらえることが、大きなモチベーションになっています。仕事をする上で常に心がけているのは、社内の誰でも利用しやすいプログラムを開発すること。直感的に扱えるよう、デザインも工夫しています」
障がい者雇用に対する考え方を変えたい
今、稲垣さんが持っている目標を教えてください。
稲垣さん「3ステップあります。まずは、自分自身がプログラミングを用いてさまざまな方の業務を効率化すること。自動化によって単純作業を減らし、人にしかできないクリエイティブな仕事に集中できるようサポートをすることです。次のステップは、EYの中にIT人材を増やすこと。業務を自動化するといっても、一人でできることには限界があります。いろいろな方にITスキルを習得していただくことによって、業務効率化のスピードを格段に上げることができると思うんです。そして最終ステップが、DACのメンバーにITスキルを習得してもらうことです」
DACメンバーにITスキルを。稲垣さんはその目標の裏にある壮大な思いを語ってくれました。
稲垣さん「障がいがある方もプログラミングスキルを身につけることで、キャリアアップを図れるし、EY内でもできる仕事が増えます。DAC内では今、私を含めて2人が業務効率化に携わっていますが、これが5人6人と増えていけば、業務効率化のスピードも質も上がります。そして将来的にはEYの枠にとらわれず、社外の企業の業務効率化にも携われるチームを作りたいんです。私はEY Japanに入社して、こんなグローバルで大きな組織でも、業務効率化の余地があることを知りました。そうであるならば、日本の大部分を占める中小企業には、もっとその余地があるはずです。DACメンバーで、そこにアプローチできるようにしたいんです」
2030年には、IT人材が79万人不足するとも言われています。「今後は採るだけでなく、IT人材を育てることが大事になる」と稲垣さん。
稲垣さん「DACメンバーが社外で活躍できるようになれば、世の中の障がい者雇用への考え方も変えていけると思うんです。日本の障がい者雇用は、『誰を採用した』ではなく『何人採用した』を重視しがち。法定雇用人数の何%達成というところだけが、注目されがちです。私たちが成果を上げ、前例となり、『障がい=能力が損なわれているのではなく、多様な能力がある』という考え方を広めていけたらと考えています」
そして冒頭にもあったように、稲垣さんは10月から実際に、チーム内でのプログラミング研修をスタートします。その実現を後押ししてくれたEY JapanのDE&Iに対する思いとは、どのようなものなのでしょうか。
稲垣さん「クライアント、メンバー、社会のための長期的な価値を創造する。これがEYのDE&Iに対する価値観です。EYにとってDE&Iは、ビジネス戦略と目指す姿の中核をなすもの。切っても切り離せない、とても重要なものです。その姿勢は世界からも高い評価をいただいており、2022年にはブリティッシュビジネスアワードのDE&I部門で、最優秀賞を獲得しました」
また稲垣さんは、こんなエピソードも聞かせてくれました。
稲垣さん「EYでは年に1回、年次統合報告書というものを発行しています。いわゆる企業の決算報告書のようなものです。そして昨年度の年次統合報告書を見ると、一番上に『DACを設立し、22名の障がい者を採用した』と書かれています。EYでは、数々の実績よりも先に、それを出してくれた。DACというものを非常に重要視してくれているんだと感じました」
では最後に、稲垣さんから読者の皆さまへのメッセージをお願いいたします。
稲垣さん「私自身、1年ほど就職活動を続けていました。就活がうまくいかず結果が出ないと、自信もなくなり、志望度の低い企業で妥協してしまったり、やりたいことを見失ってしまいがちです。そういったつらい時ほど『自分は何を仕事にしたいのか』『どんな生き方をしたいのか』を、今一度振り返ってみてください。一度企業に就職をすると、人生の多くの時間をそこで過ごすことになります。妥協しない勇気を持ち、自分らしく働ける企業を選んでいただけたらと思います」