diversity works > テーマを知る > 自分らしく働く職場を創る。「私」から始めるダイバーシティ推進(後編)
Update on :2023.08.30

自分らしく働く職場を創る。「私」から始めるダイバーシティ推進(後編)

個人の思いが会社を動かすという概念であるDE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)に関しては「私」から制度や環境が作られる事が決して珍しくはありません。今回は職場で実際にDE&Iを推進し続けている3人の方にお話を伺いました。
(2022年10月30日配信。動画はこちら

 

梅津香織さん
モルガン・スタンレー・ホールディングス株式会社
取締役兼チーフ・ファイナンシャル・オフィサー


1997年に入社し、2021年4月、日本におけるモルガン・スタンレーの最高財務責任者に就任。東京のPride&Alliesネットワーク立ち上げ時にシニアスポンサーとして参画。現在はグローバルファイナンスD&Iカウンシルメンバーも務める。二児の母。

 

川﨑武史さん
EY Japan
EY Japanアシュアランス プリンシパル/DE&I推進担当


2004年にEY Los Angeles事務所に入所し、2006年にEY Japanに出向。現在は、気候変動・サステナビリティ情報開示関連のアドバイザリー業務・保証業務等を担当。2014年からLGBT+とアライのネットワーク「Unity」のエグゼクティブスポンサー、2021年からEY新日本有限監査法人DE&Iコミッティリーダーとして活動している。

 

古屋有紀さん
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
メディカル カンパニー / エデュケーション ディレクター、 Open&Out Japan リード


1991年に新卒で入社。外科や不整脈治療の医療機器事業において、米国にてセールス、プロジェクトリーダーとして、日本ではセールストレーナー、プロダクトマネージャーなどを経験した後、テクニカルサービス、エデュケーションの事業部内責任者を経て、2021年より現職。2020年より、LGBTQ+の理解啓発を通してDE&Iの文化醸成に取り組むジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ社員の自発的グループ「Open&Out」のリーダーに着任。

 
前半では「なぜ私がダイバーシティ取り組むのか」について、皆さんにお伺いしました。

(藥師)では次のテーマに移りますが「理解はできていても自分一人の取り組みだけでは職場や会社ってなかなか変わらないんじゃないのかな」と心配する声を聞くことがあります。ですが、先ほどのお話の中だと「いやいや職場も社会も変わっていくぞ」って皆さんが体感されているのかなと思いました。何か、このような変化があったよという例があればぜひシェアして頂けますでしょうか。

では、川﨑さんからお願い致します。

NGワードにせず、もっと自由に話し合える環境をつくりたい


(川﨑)はい、先ほど申し上げたきっかけもあり、いろいろな活動を始めてから非常にポジティブな反応を頂くということが、まず大きな変化かなと思っています。

以前ですとLGBTQ+の方々をフィーチャーしたようなイベントに参加しても、それを公言しなかったり、ぼやかしてはっきり上司に言わなかったり、そういった事が結構ありました。しかし、こういうイベントが常態化して、様々な情報発信ができるようになってからは、「川﨑さん、あのイベント見ましたよ」って後から言ってくれる声を多く聞くようになったんですね。

皆さんの中でも、こういったDE&Iに取り組むという事が、誤解を承知で言うと『普通』になってきているという感覚があるなと思います。

ただその一方で、DE&I活動をやればやるほどNGワードのような「あれ?やっぱり言っちゃいけないんだ」という言葉を意識して、今度はどんどん萎縮して話ができなくなってしまうケースも出てきています。これからは私自身も、100%毎回正しいわけじゃないけれど、間違いながらでも誠意を持って、当事者の皆さんやアライの皆さんと対話していく事によって、こういう事に蓋をしてしまのではなく、もっと自由に話し合えるそんな環境を作っていかなくては と日々感じています。

また先ほど申し上げたDE&Iコミッティが、その後、発足しました。元々は4、5名ぐらい来ればいいかなと思っていたのですが、募集をかけてみたら20名ぐらい集まるという結果に。非常に志の高いメンバーが集まって、日々の草の根活動をやってくれていています。例えば、先日EYダイバース・アビリティ・プログラムといって、発達障がいをお持ちの方のインターンシップをやったのですが、そういったボランティアも皆さん自発的にやって下さっているんです。

良い流れは、できつつあるのかなと思っています。私自身が始めた事が全ての原因になっているわけではないと思いますが、前向きな動きっていうのをすごく感じますので、職場は変わるんだっていう実感は非常に強く感じています。

(藥師)ありがとうございます。どんどん仲間が増えていき、DE&Iに興味があるんだっていう言葉を言ってくれる人も増えていったというのはすごく大きい変化だなと思いながら聞いていました。梅津さんはいかがですか?

 

興味を持ち、知りたいと思うことが大切

 

(梅津)実感として、とにかくワーキングペアレンツが増えたということがあります。男性も女性も「ちょっと今日、保育園から電話が来たから帰っていいですか?」「いいよ」って。当社にはワーキングペアレンツをサポートするファミリーネットワークがありますし、さっき古屋さんのお話にもありましたが、LGBTQを始めとする様々なグループが心理的安全なスペースで話し合う事はすごく大切だと思っていて、そのような話し合いがたくさん増えていると感じますね。

モルガン・スタンレーは元々新しい事への挑戦にオープンな土壌があります。企業指針のひとつで“Lead with Exceptional Ideas”、卓越したアイディアで主導するというものがあります。そのため、新しい事に対するハードルは低いですね。

特にDE&Iに関しては、話し難いトピックという域は脱して来たと思っています。具体例として、障がいのある方のためのインターンシッププログラムを東京で初めて立ち上げました。これが非常に好評で、私も盛り上がりましたし、みんなすごく勉強しました。興味を持って知りたいっていう事がすごく大切で、多くの社員が「障がいのある方とともに働くということを知りたい、どういう事なのだろう?自分に何ができるのだろう?」と人事部に相談しながら取り組む様子を本当に嬉しく思いました。

当社では米国本社が発行するダイバーシティへの取り組みをまとめた年次レポートがあるのですが、2022年版の21ページにこのインターンシップが紹介されました。それによって海外の同僚たちからも認めてもらえて、私たちも大きなことを成し遂げたととても喜びました。

(藥師)ありがとうございます。ディサビリティインターンシップの取り組み、モルガン・スタンレー様の取り組みもEY Japan様の取り組みもお話し頂きましたが、本当に素晴らしいなと思いました。僕自身も発達障がいのADHDがある中、前職で働いていた時に「言ったらチームの中で上手くできなくなるのかな」ってすごく心配でした。インターンシップの段階からそういう風にお伝えできるチャンスがあるっていうのはすごくいいなと思いますし、お互いのことを知るきっかけになって、さらに職場のDE&Iが進んだというのは素晴らしいなと思いながら聞いていました。古屋さんはいかがでしょうか。

 

自分と繋がりを感じると、人は動く

 

(古屋)さっき梅津さんが、会社にある程度土壌があるとお話されていましたが、私たちの会社も比較的職場を良くしていこうといった活動自体は、積極的に行える土壌があると思っています。

私たちの会社には、先ほど話した私が属しているOpen&Outという従業員グループ以外にあと3つ、従業員のグループがあります。

1つは障がい者に注力したグループ(ADA:Alliance for Diverse Abilities)、もう1つは世代間のギャップ、世代間の違いを上手くやっていこうというグループ(GenerationNOW)、そしてジェンダーを取り上げているグループ(WLI:Women’s Leadership&Inclusion)の3つ。WLIは一番最初にできたグループで、日本では15年以上前から活動しています。最初は、女性について注力したグループでしたが、今は働き方だったり、介護だったり子育てだったり、ジェンダーの垣根を越えた所にシフトしながら、活動を続けています。

やっぱりそういう人たちが、いろいろな所で活動しているのを見るだけでも、ポジティブに「自分も関わっていきたい!」と思う人もいるだろうし、自分たちで少しずつ関わっていくことが普通というか、当たり前に近い感覚を持って参加される人もいるんじゃないかなと思っています。

とはいえ、例えば、Open&OutというLGBTQ+の領域って冒頭にお話した通り、言わなければ誰も知らない事がやっぱり多い。そのため、LGBTQ+の職場環境とか、その人たちが生きやすい職場を作ろうとしても、他の二つのグループよりも当事者じゃない人たちが、実感を得難いんだと思うんです。目で見てわかるものじゃないから、みんな周りにLGBTQ+の人はいないと思っている。だから私が「いや私ですよ」って、「私が当事者ですよ」って、この2年間ぐらいは社内でそういう話をするようにしているんです。

やっぱり30年会社にいるので、会社の中の知り合いがすごくたくさんいて、そういう人たちに対してカミングアウトすると「別にそれを聞いても古屋さんは古屋さんだから変わらないよね」って大体言ってもらえます。

LGBTQ+の人が身近にいることを感じてもらった上で「もうちょっと職場を良くしていきたいんだけどな」みたいな話をすると、「じゃあ私も、僕もそういうところだったら協力しますよ」と。

去年から先ほどお話しした教育部門に移ったのですが、私のチームのメンバーの1割、2割近くが、Open&Outのチームに参加してくれるようになって、活動してくれているんです。

だから、何か大きいことをやったから皆さんが急に賛同、活動してくれるというよりは、やっぱり自分とその人、自分とその事に対して繋がるものを感じると、人は動くのかなと思っています。

そういう意味では、カミングアウトした事で皆さんの気持ちに引っかかるようになったのも、そういう人が一生懸命活動してくれているというのも、とても嬉しいなと思っています。

(藥師)素晴らしいです。やっぱりダイバーシティ&インクルージョンって、属性とかLGBTQ+とか障がいとか、外国籍とか、テーマで語られることが多いですが、人の話だからこそ、私とあなたの距離の中で伝わっていくし、仲間が増えていくっていうのは本当にその通りだなと思います。

だからこそ職場の中での社員リソースグループや、それをリードする皆さまのリーダーシップが、ひとりひとりのDE&Iマインドをもっと広げていくということを、改めて今の話で体感しました。

私から職場を変えていくっていう事は、今このお話を聞いて頂いている皆さんや、これから社会人になる皆さんも、その「私」になれるんじゃないのかなと思っています。

最後に、これから共にDE&Iを推進する仲間である皆さんに対して、エールとかティップスを最後のメッセージに変えてお話し頂ければと思います。

 

自分が関わる人たちに対しどれだけ考えてあげられるかが大切

 

(古屋)今はLGBTQ+をテーマに話していますが、基本的には仕事ってやっぱり人と人とのやりとりとか、人と人との関係性とか、そういうものがパフォーマンスに繋がっていくと思うんです。だからやっぱり心理的安全性が高く、自分が自由に話ができて、みんながそれを受け入れる環境があるということが大事だと思います。

DE&Iって割とシンプルに、自分が言われて嫌なことは言わないとか、そういう基本的な人に対するコミュニケーションを気遣うだけでも、十分作っていけるものなんじゃないかなと思っています。

だから肩肘張って「DE&Iが」って言わなくても、普通に人と人との関係の中で、相手がどう思うんだろうとか、どういうことを言ったら傷つくんだろうとか、そういう事を考えるだけでも違うんじゃないかなと個人的には思います。

変にDE&Iって感じるよりも、自分がどうやって人と接して、どうやって気持ち良く仕事、あるいは仲良くしていけるかってことを考えながら、自分の行動を見ていくっていうのが難しいけどシンプルで一番大事なんじゃないかなと思っています。

たまたま今日はLGBTQ+の話でしたし、会社としての取り組みの話でしたが、最終的には自分とその相手、自分が関わる人たちに対しどれだけ考えてあげられるか、みたいなところかなと思っています。そういう事を考えながら、一緒に仕事できる人たちが会社に増えるといいなと思っています。

(藥師)ありがとうございます。梅津さんもメッセージ頂いて宜しいですか?


知的探究心を持ち続けろ、エデュケートユアセルフ

 

(梅津)古屋さんの素晴らしいメッセージ 、本当にその通りだと思いました。人と人との関係がまず大事で、LGBTQ+、女性、男性という事ではなくて、個人対個人、そしてその個人が集まってより良い会社にしていく、パフォーマンスを上げていく、という事が大切だと思います。

社内でよくダイバーシティの話をする時に「知的探究心を持ち続けろ、どうやってDE&Iを進めて行くかは、もう学んで行くしかない。新しいことをして行くしかその道はない、Educate yourself」とよく言っています。

私にとっても、やはりこういったお話を伺ったり、記事を読んだり、悲しい事件が起きてそこから知ることもたくさんあります。そういった知識や世の中でどうなっているかを、広くどんどん知っていくことで、裏にはこういった事情があったのだとか、思いやりとかがようやく少しずつ広がっていくのかなと思います。

例え悪気がなかったとしても、知らなかったからこうなってしまったということもあると思います。ただ先ほど川﨑さんもおっしゃっていたように、誠意を持ってやるという事がすごく大切で、間違っていた事は認めた上でそれを糧にして、よりよい会社、よりよい組織、よりよい関係性を築いていく事が大切だと思っています。

(藥師)ありがとうございます。川﨑さんお願いできますでしょうか。


仲間と他愛のない話ができる環境をつくる

 

(川﨑)先ほど古屋さんがおっしゃられた、ご自身がホッとした感覚とは、当事者じゃないと感じられない。我々には感じ得ない部分って多々あるのではないかと思うんです。

もしかするとアライの皆さんに対するメッセージになってしまうかもしれませんが、以前、弊社のCEOの貴田に質問をした事があって、「性の話なんだから別に職場でしなくても良くないか。LGBTQ+だなんだって取り上げて何かトピックにする必要ってそもそも何なの?」という質問をあえてぶつけてみたんです。

そしたら貴田から「いやいや川﨑さん、あなたたちも実は性を毎日職場に持ち込んでいるんだよ」って言われたんです。他愛もない会話の中で、例えば私が週末に妻と映画を見に行ってご飯を食べて美味しかったとか、「そういう話をしています」と。

「これって広い意味で見たら、あなたは職場に性を持ち込んでいるんだよ」って言われたんですね。その時に、あぁなるほど、と。当事者の皆さんからしてみれば、週末に何をしたかって事を話すのも「誰と行ったの?」って聞かれるのがちょっと怖くて言えないとか、そういった状況がある事に、ハッと気がついたんです。

逆転の発想なんですけど、ご自身が、そういう会話が一切できない立場になったらどうなるかを、ちょっとアライの皆さんにお考え頂きたいなと。

やっぱり安心して話せる環境を作るのに、どうしたら貢献できるのかということを、皆さんひとりひとり考えて頂く必要があるんじゃないかなと思います。

そうすれば、職場の環境はどんどん良くなっていくし、これが正に心理的安全性が担保された職場になります。当事者の皆さんは強く感じていらっしゃると思いますが、さっきみたいな他愛無い話ができない職場って、私自身は多分パフォーマンスが下がると思うんですよね。

他愛の無い話ができる仲間と一緒に仕事をしているというのは、非常に大事な事で、そういう職場を作る事、こういった取り組みに参加していく事によって、ご自身が貢献できる事は何かを考えて頂く、一つの機会になればなと思います。

(藥師)川﨑さん、ありがとうございます。そして皆さん、本当に多くのエール、メッセージを頂きありがとうございます。改めて、皆さまとお話させていただいて、私の思いとかパッションが、職場だったり社会を変えていけるんだなと、学ぶ事ができました。今日は皆さん、どうもありがとうございました。