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Update on :2023.12.21

アクセンチュア「サテライト」の軌跡と軌道

松浦亮介 さん / 髙倉理恵さん
アクセンチュア株式会社
サテライト横浜・サテライトみなとみらい リード / サテライトみなとみらい データ分析チーム サブリーダー・文字起こしチームリーダー

アクセンチュアはITに強みを持つ世界最大級のコンサルティングファームであると同時に、「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」にて過去6年間で4度世界一にランクインするなど、D&Iの分野でも、世界的なリーディングカンパニーであることが知られています。

日本法人であるアクセンチュア株式会社においても同様で、ジェンダー、障がい、性的マイノリティ、クロス・カルチャー、ウェルビーイングの5つの領域で、活動が推進されています。

今回のテーマは、その中の「障がい」について。アクセンチュア・ジャパンでは2019年に、障がいのある方の観点で働きやすい環境を整えている拠点として「サテライト」を設置。サテライトはどのような経緯で誕生し、これまでどのように成長し、今後どのような姿を目指していくのでしょうか。横浜サテライトとみなとみらいサテライトのリードを務める松浦さん、サテライトのメンバーである髙倉さんのお二人にお話を伺いました。


松浦亮介さん(右)
アクセンチュア株式会社 
サテライト横浜・サテライトみなとみらい リード

大手通信会社の研究開発としてキャリアをスタート。IT技術を身につけアクセンチュア・ジャパンに転職し、ITコンサルタントを務める。その後自らの希望で人事本部に異動し、障がい者雇用の一環でサテライトの活用促進を担当。現在はサテライト横浜、サテライトみなとみらいのリードを務める。趣味はディズニー


髙倉理恵さん(左)
アクセンチュア株式会社 
サテライトみなとみらい データ分析チーム サブリーダー/文字起こしチームリーダー

就労支援センターで約1年間のトレーニングを経て、2019年11月にアクセンチュア・ジャパンに入社。サテライトみなとみらいにて、データ分析チームのサブリーダーと文字起こしチームのリーダーを務める。趣味は銭湯・温泉めぐり


アクセンチュアでは「D&I」ではなく「I&D」



まずお話を伺ったのは、松浦さん。松浦さんは、立川、生麦、横浜、みなとみらい、中津と5つあるサテライトのうち、横浜とみなとみらいを統括しています。

松浦さん「まずアクセンチュアでは、世に言う『D&I』のことを『I&D』と表現しています。アクセンチュア自体がグローバルな企業で、従業員の国籍も様々です。インクルージョンが先に来ているのは、多種多様な人がいて活躍している環境が当たり前であり前提であるという意思の表れです」

そもそもなぜアクセンチュアでは、I&Dを重視するようになったのでしょうか。

松浦さん「アクセンチュアでは、いろんな業界のいろんなお客様にサービスを提供しています。私達のお客様が抱える多種多様な課題を解決するために必要なのは、多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍する組織やチームだと、アクセンチュアは考えています。社会的な意味だけでなく、ダイバーシティは会社として重要なビジネス戦略であり武器なんです」

松浦さんが管轄するサテライトとは、どのようなチームなのでしょうか。

松浦さん「サテライトは、障がいのあるメンバーと、メンバーを管轄するSV(スーパーバイザー)によって構成されています。サテライトができるまでは、障がいのある方のほとんどが他の社員と一緒に各部署で働く形でした。通常のオフィスは雑然としていたり騒がしかったりすることもあり、人によっては業務に集中するのが難しく本来の力を発揮できないケースがありました。サテライトでは、障がいを持つ社員の観点で働きやすい環境を整備しているため、パフォーマンスを発揮しやすいです。また、SVの視点でも、サテライトであれば一人のSVが障害を持つ社員に寄り添いながらもより多くの人数に対応することができ、生産性や効率性、そして平等性も上がります」



アクセンチュアにとって、サテライトはどのような位置付けなのでしょうか。

松浦さん「アクセンチュアの他部門からひとつでも多くの業務を請け負い、社員の皆さんがコア業務に集中できる環境をつくるというのが、サテライトの最大のミッションになります。私が担当する横浜とみなとみらいのサテライトには、それを達成させるための3つの特徴があります。1つ目が『セルフ自動化』。アクセンチュア社員からまず業務を請け負って、それを自分たちでマニュアル化した後に、自分たちで自動化することで生産性を高めるというプロセスができあがっています。2つ目に『働き方』。『ハイブリッド型』と呼んでいますが、我々はサテライトにだけ出社するのではなく、アクセンチュアのオフィスに出社したり、必要に応じて在宅ワークをしたりと、フレキシブルに働き方を選択しています。3つ目が『専門チーム』。サテライトができたばかりの頃は、『can』=『(メンバーが)できる仕事』がメインでした。今は『can not』=『(発注元が)できない仕事』や『want』=『(発注元が)やって欲しい仕事』ができる組織になり、アクセンチュア社内でもそういったブランディングをしています 」

中でも『専門チーム』は、横浜とみなとみらいのサテライトの大きな特徴であり強みだと自負している、と松浦さん。

松浦さん「サテライトができた当初は、すでにマニュアル化された簡易的な業務を行うチームしかなく、仕事自体もあまりありませんでした。専門的なスキルが必要になる仕事を請け負える環境を作らなければ、ゆくゆくはAIに仕事をとられ、メンバーの仕事がなくなってしまうという課題がありました。とはいえ、専門チームを作るには火種になる人が必要です。人に教えるために自分も勉強して、という熱量を持つ人を見つけるのは、簡単なことではありません」

そんな状況を打破してくれたのは、PwDメンバー自身だったと松浦さんは振り返ります。

松浦さん「仕事がなく、手があいたメンバーが、自ら進んでスキルを身につける勉強をしていたんです。そういった人たちが火種となり、ひとつまたひとつとチームが増えていきました。Webチーム、動画編集チーム、翻訳チーム、資料作成チーム、データ分析チーム、文字起こしチーム、パワーポイントチーム、自動化チーム。現在我々は、実業務チームの他に8つの専門チームを抱えています。メンバーのスキル・経験や希望を鑑みて、SVがチーム配属を決めています。さらに、その流れによって自ら成長する文化が身に付き、専門チームだけでなく当初からあった実業務チームも進化し、複雑なプロセスの業務を自ら分解してマニュアル化し、非定型業務を臨機応変に行うことができるようになりました」

松浦さんご自身は、普段どんな業務をされているのでしょうか。

松浦さん「私が担当している2つのサテライトには、合計で数十名のメンバーがいます。ひとつでも多くの仕事をアクセンチュアの他部門から請け負うために進むべき方向性を示すことが、私自身の最大のミッションとなります。まずは方針とチーム作りをリードしていくこと。そしてその中にあるたくさんの意思決定、例えば採用やルール決めといったことを自分が担っています。サテライトの運営って、小さな会社を運営しているのと同じような感覚なんです。お客さまはアクセンチュア社員。予算を組んで、チームを組んで、ルールを作って、業務を設計して……幅広い業務を他のSVと協力しながらやっています」

松浦さんは現在の役職に就かれるまで、障がい者の方々との接点があったのでしょうか。

松浦さん「いえ、障がい者の方たちと今のような距離感で接するのは、初めての経験でした。障がいへの知識というのも、この役職に就くまでは、恥ずかしながらほぼ持っていませんでした。ですが今思うのは、結局は人対人のコミュニケーションなんです。相手の表情を見て、丁寧にコミュニケーションをとる。障害があってもなくも、そこは変わりません」

チームづくりなど運営に関する部分では、過去の経験が活きていると松浦さんは言います。

松浦さん「アクセンチュアに入社して8年になりますが、最初の4年間はコンサルタントとして働いていました。自分のスキルを社外よりも社内に活かしたいと思い、今の役職に就いた形になります。コンサル時代も、お客様にチームづくりなどのご提案をしてきました。自分が引っ張っていくという部分は初ですが、コンサル時代に培ったスキルが今の業務に活かせていると思います。お客様と相対するよりも、今の方がやりやすいかもしれません(笑)」

サテライトとしての目標、松浦さん個人としての目標をそれぞれお聞かせください。

松浦さん「立ち上がりの背景も文化も違うので難しいところもありますが、現在5つにわかれているサテライトを1つに統合したいというのが、サテライトとしての目標になります。個人的な目標としては、障がいを持つ方々へのサポートに、AIを活かしたいと考えています。メンバーそれぞれの障がい特性や個性によって、症状が表に出る兆候やトリガーはバラバラです。それがメンバーとのチャット中などに現れることもありますが、チャット中のひとつひとつの発言を、SVが管理するのは不可能です。そのチャットの管理をAIがやって、分析して、兆候が出ていたらSVに教えてくれるような仕組みを作りたいと思っています」

では最後に、松浦さんから読者の皆様へのメッセージをお願いいたします。

松浦さん「アクセンチュアには、サテライトメンバーを含め、社員一人ひとりが成長していくというマインドが、企業文化として根付いています。自分が成長できるかどうかを軸に企業選びをしている方も多いと思いますが、アクセンチュアは嫌がおうにも成長できる会社です。サテライトには残業がありませんが、逆に言えば残業がなくても成長できるのがサテライトです。そのプラットフォームを活用して、自身を成長させたいという人にとって、我々は力になれると思っています」


サテライトの潤滑油のような存在になりたい



続いてお話を伺ったのは、2019年に入社した髙倉さん。髙倉さんはなぜアクセンチュアのサテライトで働きたいと思ったのでしょうか。

髙倉さん「入社の決め手は3点ありました。1点目が社風。アクセンチュアのホームページを見て、多種多様な方が働く風通しの良さそうな雰囲気に心を惹かれました。この点は、実際に入社してみて想像以上でした。アクセンチュアには、思っていることは上下関係関係なく発信しようという『トークストレート(talk straight)』や、できないではなくどうしたらできるかを探してみようという『キャンドゥ (can do)』といった文化があります。とても前向きで、風通しの良い社風を実際に感じています。2点目は、経験が活かせるからです。私はアクセンチュア入社前に人事業務経験があったので、それを活かせる職場を希望していました。3点目として、当時私にはブランクがあったので、サテライトオフィスという手厚いフォローがあることにも、心を惹かれました」

アクセンチュア以外にも、心を惹かれた企業はあったのでしょうか。

髙倉さん「アクセンチュア1本でしたね。入社前に通所していた就労支援センターで、サテライトのオフィス見学会に参加したことがあったんです。とても静かで、まるで図書館のように感じました。その時点で『ここなら集中できそう!ここがいい!』という気持ちになっていました。もし採用してもらえていなかったら、今頃どうなっていたかわかりません(笑)」

アクセンチュア入社前には、一般雇用での就労経験もあった髙倉さん。実際に入社してみると、こんな驚きもあったと髙倉さんは言います。

髙倉さん「アクセンチュアは、私にとって初めて障がい者雇用で入った会社でした。難易度の低い仕事が多いのかな、物足りないと思うこともあるのかなという印象を持っていましたが、そこは割り切って、長く働けることを優先して障がい者雇用を選びました。でも実際に働いてみると、責任を感じる仕事を任せられているし、成長の機会も十分に感じられています」

髙倉さんは現在、どのような業務を行なわれているのでしょうか。

髙倉さんは「私は現在、データ分析チームと文字起こしチームを兼任しています。データ分析チームではサブリーダーを、文字起こしチームではリーダーを務めています。データ分析チームでは、エクセルやパワーポイントを使って、データを分析しながら受注した資料を作成するのが主な業務となります。エクセルの関数やサテライト内の自動化チームが作成したマクロを活用して、正確で効率の良い作業方法を常に探っています。文字起こしチームでは、今日のような対談や会議、トレーニング動画などの文字起こしをしています。それぞれのチームで脳の使い方が異なるので、兼任することで、私にとって良いバランスが保てています」

入社したての頃は、まだ専門チームがなかったと髙倉さん。サテライト自体の成長が、髙倉さんの成長にもつながっているようです。

髙倉さん「アクセンチュアには、『Recognize』という社員がお互いの貢献を認識し感謝を伝えるための電子カードを贈り合うツールがあります。今まで、複数の業務依頼者から『Recognize』の電子カードをいただきました。いただいたメッセージの中には『任された案件をただ実施するだけでなく、効率的な実施方法の提案やマクロ開発などを実施してくださってありがとうございました』や『オンタイムかつ迅速に対応いただき本当にありがとうございました。おかげさまで円滑な運用を達成できました』といったお声もありました。感謝の言葉をいただくと『アクセンチュアの戦力になれているんだな』と感じられ、モチベーションにつながっています」

髙倉さんは躁と鬱を交互に繰り返す「双極性障害」と診断されています。しかしアクセンチュアに入社以降は、症状が安定しているのだとか。

髙倉さん「私は忙しすぎたり、ストレスがかかったりすると、躁か鬱のどちらかに傾きます。この会社に入社してからは、すごくバランスの良い状態を保てています。サテライトの従業員は、SV以外みんな何かしらの障がいを抱えています。障がい特性上、真面目な方がとても多く、頑張りすぎてしまうことにも注意しなければいけません。サテライトは残業NGで、終業時間の18時は厳守となっています。18時以降はしっかりとリフレッシュして、明日の業務に備えることができるのも、働きやすさにつながっています」

サテライトには、それ以外にどんなサポートがあるのでしょうか。

髙倉さん「とにかくいろんなサポートがあります。自分の困りごとに対しても、複数の相談相手がいます。週に1回30分の定期面談で、生活面を支援してくれる常住支援員の方。業務やキャリアについては、日々の業務上のコミュニケーション以外に、半年に1回60分の定期面談で担当SVが1対1で話をたっぷり聞いてくれます。また、会社の制度としては、月に1回、有給休暇と同じ扱いの通院のための休暇をもらえます。私と同じような境遇の方は、他社では通院のために有給休暇を使っていることも多いと聞きます。通院のためではなく、リフレッシュのために有給休暇を使えるのは大きいですね」

入社して4年。髙倉さんの現在の目標を教えてください。

髙倉さん「今私はデータ分析チームと文字起こしチームにいますが、他のチームとの連携作業というのもあります。サテライトメンバーが今後も増えていく中で、横のコミュニケーションがより必要になってくるのかなと思います。サテライト全体の連携がより良くなるように、潤滑油のような存在になっていきたいです。さらに、サテライト以外の方々とも関わりを持って、視野を広げていきたいです。今日私は(この記事のための)取材を受けていて私にとってはチャレンジなのですが、これもその一環としてやることにしました。また、人事部長が各サテライトを年に数回訪問する『Office Visit』というイベントがあるんです。アクセンチュアは本当に前向きで素敵なエッセンスがたくさんあって、それを人事部長から直接言葉にしていたくその機会を、私はとても楽しみにしています。そういう機会にも、積極的に参加していきたいと思います」

では最後に、髙倉さんからも読者の皆様へメッセージをお願いいたします。

髙倉さん「障がい者雇用というと、なんとなく閉ざされた空間や限られた業務を想像する方もいらっしゃるかもしれません。私も当初はそうでした。しかし入社してみると、アクセンチュアはとてもオープンマインドで前向きな会社でした。自ら発信すればするほど、働きやすい環境を作り上げていける創造の余地のあるオフィスだと思っています。ぜひ一緒に、より良いサテライトオフィスを作っていきませんか?」