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Update on :2022.10.14

インクルーシブな環境で、自分のキャリアと人生の舵を取る

中山悠太郎さん
EY Japan株式会社
人事部 ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)

コンサルティングファームからの転職で、2020年2月にEY Japan株式会社に入社した中山悠太郎さん。ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)を担当し、ゲイであることをオープンにして働いている中山さんに、お話を伺った。
 

中山悠太郎さん
EY Japan株式会社
人事部 ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス(DE&I)

2020年2月にEY Japan株式会社に入社し、DE&Iを担当。新卒で他コンサルティングファームへ入社し、金融機関向けのコンサルティングに従事する傍ら、LGBT+社員コミュニティの共同代表を務める。現在は、ゲイであることをオープンにしたうえで「一人ひとりが自分らしく能力を最大限発揮できる組織・社会づくり」をミッションに、社内のDE&Iに係る戦略策定・各種プロジェクトの企画・実行を行う。
 

オープンにする? しない? 職場でのカミングアウト

 
中山悠太郎さんは静岡県の公立高校を卒業後、国際基督教大学(ICU)に入学。心理学を専攻し、卒業論文では、ゲイ男性のカミングアウトとそれを受けた友人たちとの関係性について執筆。卒業後は東京大学大学院に進学し、同性カップルの子育てをテーマに研究を進め、修士論文にまとめました。

「LGBT+をテーマに大学、大学院で心理学の研究をしてきました。研究を通じて、様々な方と出会い、それぞれの想いや経験を伺ったり、国内外の学術的な知見に触れたりできました。その中で、自分がセクシュアリティをオープンにするという選択肢を持てるのは、自分自身の力ではなく、これまで周りや環境や人に恵まれていたからであると気づきました。将来、より多くの人が自分の意志に基づいて人生の選択ができるように何かしたいという、恩送りのような想いを持ち始め、ダイバーシティをキャリアの軸として置くことにしました。大学院卒業後は、ビジネスの世界で経験を積みたいと思い、コンサルティングファームに就職し、金融機関向けのコンサルタントとして3年ほど勤務しました。当時社内のニュースレターでゲイ当事者としての経験を綴ったところ予想以上の反響があり、ビジネスにおいてもゲイである自分に伝えられることがあるかもしれないと考えるようになりました。あらためてダイバーシティの分野で働きたいという思いが強くなってきた頃、縁あってEYのダイバーシティ担当として入社することになったのです。」

学生時代から、ゲイであることを周囲にオープンにしていた中山さんですが、新卒で入社する際には、戸惑いがあったようです。

「社会人になったばかりで、誰にどのくらいオープンにしていいか分からなくて。自身のセクシュアリティについて話す機会が特にあるわけでもなく、同僚や上司との距離感や関係性にも濃淡があり、最初は同期にだけしか言いませんでした。でも、日々のちょっとした場面で働きづらさを感じるようになり、少しずつ職場でもオープンにしていきました。前社もグローバルファームだったこともあり、同僚たちの反応はとても受容的で、ネガティブな反応はなかったです。ただ、私がまだオープンにしていなかったときには、時々LGBT+に関する心ないジョークなどを聞く機会があり、そのときはすごく悔しく感じつつも何も言えなかったのを覚えています」

EYへの入社に際しては、最初からオープンにしてフルに自分らしさを活かしたいと考え、面接時にカミングアウトをしました。

「私の場合、ゲイ当事者としての立場と、ダイバーシティ推進担当としての立場が入り混じっているわけですが、常に思っているのは、カミングアウトをするかしないかはあくまで本人が決めるべきものであり、会社は当事者がオープンにする・しないに関わらず安心して活躍できる場所をつくるべきだということ。私は今までカミングアウトを他人に勧めたことは一度もなく、これからもないだろうと思います。ただ、私は自分の選択としてオープンにすることを選びました。オープンにしていない場合、その場をやり過ごすことに必死になり、頭がフル回転で疲れてしまうからです。例えば、雑談や飲み会などでプライベートな話題になりそうなときに、できるだけ遠い話題に話を変えてみたり、「彼女いるの?」と聞かれた場合のことを想定し、その答えを先回りして頭の中で色々シミュレーションしてみたり。そういう状況が続くと、どうしてもその他の場面でも相手との壁ができてしまう気がしました。私自身はオープンにしていた方がより活躍できると感じたので、このような選択をしています。」
 

入社を決断した理由と、実際に働いてみての印象

 
中山さんが就職活動をしているときに、特に重視していたのはどんなことだったのでしょうか。

「一つ目は、自分のやりたいことが実現できるかということ。これは自身のセクシュアリティとは関係なく大きな軸として置いていました。新卒のときは、自分なりにダイバーシティへのビジョンはありましたが、実際にビジネスの場でどのように関わっていけるかを十分に分かっていませんでした。ただ、コンサルタントとして、様々な課題に対するアプローチや解決方法を学ぶことができたのは今の仕事でもとても役立っています。EYでは、自分のやりたいことが明確にあって、それを伝えて採用されたので大変感謝しています。
二つ目は環境です。私が自身のセクシュアリティを受容したのは大学生の頃で、その頃、グローバルな会社は、よりLGBT+にフレンドリーでオープンにしても働きやすいと聞いたことがありました。そういう環境だったら自分らしく働けるのかなと思っており、グローバルでオープンな職場を選びたいと考えていました」

どのような点に惹かれて、EYへの入社を決断したのでしょうか。

「選考の過程で会った人たちがすごく魅力的でした。どの面接官もDE&Iをすごく大切にしていて、私が面接でカミングアウトしても、みなさんとても受容的で、『ここだったら大丈夫だ』と思いました。また、会社と自分のパーパスが一致していると感じたことも大きな理由でした。EYはパーパス(存在意義)としてBuilding a better working world(より良い社会の構築を目指して)を掲げているのですが、それを本気で実践していることを感じましたし、DE&Iがその重要な柱に据えられていることにも非常に共感を覚えました」

実際にEYに入社してみて、どうだったのでしょうか。

「人の良さは想像通りというか、想像以上でした。私は、今一緒に働いているメンバーが大好きで、とても尊敬しています。もちろん意見の衝突もありますが、それは同じゴールを目指す上での信頼関係に基づいた健全な衝突ですし、日々の学びがとても多い場所です。ゲイであることをオープンにしている私に対しても、特別扱いすることもなく、あなたはあなただからと、個として尊重してくれます」

入社したのが2020年2月で、ほどなくコロナ禍となり、以来今もずっとリモートでの在宅業務という中山さん。他の従業員の方と実際に会う機会がなかなかない中で、オンラインでのコミュニケーションで関係の構築を積極的に図っているそうです。
 

オープンリーゲイのCEOの存在とUnityの活動

 
DE&Iに関するさまざまな施策を行っているEYにあって、ゲイ当事者である中山さん自身は、これまでにLGBTQに関する制度を実際に利用したことはないそうですが、「この先、家族を持つなどライフステージを経るなかで、それに対応する施策の選択肢が見えていることが大事だし、ありがたい」と、中山さんは感じています。そして、何より、ゲイであることをオープンにしている、EY Japanのチェアパーソン兼CEOの貴田守亮さんの存在がとても大きいと語ります。

「貴田さんは私にとって大切なロールモデルであり、ゲイであることをオープンにしながら、企業のリーダーとして生き生きと活躍するとても勇気づけられる存在です。社内で彼がUnityを強力にサポートしていたり、イベントでレインボーのバッジをつけて登壇していたりすることで安心できますし、彼が社外も含めて発する、誰もがありのままの自分でいられるためのメッセージやカミングアウトによる周囲の変化に関するパーソナルなストーリーは広く共感を呼び、私をはじめ次世代のLGBT+コミュニティのメンバーも励まされています」

EYには「Unity」というLGBT+A(アライ)のためのネットワークがあります。Unityでは、誰もが自分らしくいられる職場を目指し、相互サポートと啓発にフォーカスした活動を行っています。例えば、『東京レインボープライド』への協賛・参加、社内でのLGBT+理解推進のための啓発イベントの実施、相談窓口の設置などの取り組みを行っています。さまざまなUnityの活動の中で、中山さんは外部とのネットワークに力点を置いているそうです。

「私がいまUnityで取り組んでいるのは、他の企業とのコラボレーションやイベント出展といった社外活動ですが、このような外部とのネットワークは、様々なステークホルダーが協業してコレクティブ・インパクトを生み、コミュニティのつながりを深めるうえで非常に価値のあることだと思います。まだまだロールモデルが可視化されていない中で、当事者にとっては、LGBT+コミュニティの先輩たちがどのようなキャリアやライフステージを歩んできたかが見えづらいので、企業の垣根を超えた繋がりは大変意義深いと感じます。これは、アライにとっても、実際にどのような行動をすべきかの例を学ぶという意味で同様だと思います。また、様々な方々とお話をすることで、今の自分たちが置かれている状況は、これまで歴史でいろいろな人の努力によって築き上げられてきたのだと気づいて感謝の気持ちを感じるとともに、それを次につなげていかなければという思いも芽生えてきています」


 

EYのDE&Iの共感ポイント

 
入社してから2年以上が経ち、中山さんがいま、EYのDE&Iで一番共感できるのは、「個」の捉え方だそうです。

「EYのダイバーシティの、“個”として捉えるところにすごく共感しています。近年、EYでもエクイティ(公正)に積極的に取り組んでいます。これは属性やバックスラウンドによる社会的な不均衡や障壁に目を向け、最終的には私とあなた、その隣のあなたという“個”として最大限に活躍し尊重されるインクルーシブな組織になっていくことを目指しています。異なる個性や能力をもつ一人一人が集まって力を発揮することが、クライアントや社会へ大きな価値を生み出す。EYのこのビジョンにはとても誇りを持っています」

一方、いま、中山さんが課題だと感じているのはどんなことでしょうか。

「一つは、このDE&Iというのは、社会課題だということ。一社だけでは変えられない壁に直面することがよくあります。さまざまなステークホルダーと協業して、包括的なエコシステムに変えていかないと解決できない課題がある中で、EYがリーダーとなってどのように取り組んでいけるのかを常に考えています。もう一つは、自分のアイデンティティをオープンにしてもしなくても、しっかりとBelonging(相互信頼)や心理的安全性を感じられる環境にしたいというのは、私の強い思いとしてあります。」


最後に、読者のみなさんへ、メッセージをお願いします。

「みなさんがご自身の価値観やパッションを大切にして、キャリアや人生の舵をできるだけ自分で取っていけるよう願っていますし、全力で応援しています。特に社会的にマイノリティでいると、どうしても他の人には打ち明けにくい悩みがあったり、障壁にぶつかったりするときもあると思います。でも、自分がやってみたいこと・大切にしたいことは、絶対に諦めないで追い求めてほしい。もう一つお伝えしたいのは、アイデンティティのことで迷ったり窮屈に感じたりした時に、自分一人で全部背負ったり気張ったりしなくてよいということ。一人では頑張れないとき、一歩踏み出せないときって誰でもあると思います。でも、あなたの周りに理解してくれる人、サポートしてくれる人は必ずいるので、そういう方々とのつながりを大事にしてほしいです。みなさんが自分自身の意思で様々な選択をするのをサポートできるよう、私もDE&Iの推進をさらに頑張っていきたいと思います。」
 




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