社内推進を担うリーダーたちに、その意義と未来を伺いました。
(2021年10月17日配信。動画はこちら)
長谷川友紀さん
モルガン・スタンレー
モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社/マネージング・ディレクター、マネジメント・コミッティー・メンバー
1997年に入社し、現在はビジネス・アライアンス・マネジメント・オフィスの責任者を務める。社内ではD&Iカウンシルのメンバーとして、また、Women’s Business Allianceのエグゼクティブスポンサーとして、ダイバーシティ&インクルージョンに積極的に取り組む。社外ではAssociation for Women in Finance のPresidentも務めている。
酒寄久美子さん
株式会社セールスフォース・ドットコム
イクオリティオフィス シニアマネージャー
2012年セールスフォース・ドットコムに入社。コアバリューの1つであるEquality(平等)の醸成/推進を担当。多様性があり、さまざまな背景を持つ人々が尊重される帰属意識と平等性のある職場を目指す。
佐藤守さん
アクセンチュア株式会社
シニア・マネジャー/LGBTQ Ally Committeeリード
顧客体験起点の事業戦略策定、新規事業・サービス立上げ、組織設計・変革、マーケティング改革に携わる。LGBTQ Ally Committeeリードを担当し、社内外のアライ・当事者向け施策立案・推進に従事
(中島)長谷川さんは多くのアライアンスに関わられた経験がおありになりますが、印象に残っているエピソードや大事にしてらっしゃることを教えてください。
DEI推進にも段階がある
(長谷川)DEIは良いことだから行うのではなくて、業界で生き残り、会社として発展していくために不可欠な、戦略上の最重要課題としての取り組みだと考えています。そういった意味で、当社では昨年コアバリュー(企業指針)に、「ダイバーシティ&インクルージョンへのコミットメント」を加えました。我々の会社のリサーチでも、日本を含む主要国の全てでDEIを定量化すると、DEIに取り組んでいる会社はパフォーマンスが良いことがわかっています。人材獲得のためだけではなく、お客様へのサービス提供においても、多様性がないと始まらないというのが、DEIに取り組むことのコアであると思っています。
会社としてチームとして良いパフォーマンスを出すためには、個々人の社員がハッピーで自分のアイデンティティーを出せる場でないといけないと。仮面のように、オンとオフで全く違う自分っていうのは、漫画やドラマの世界にあるかもしれないですけれども、現実的には良いパフォーマンスを出すのは難しいと思います。
個人的な考えですが、DEIにも段階があると思います。1段目は差別がないこと。2段目は多様な人たちがチームの意思決定の場にいること。3段目は、多様な人材が本当に声を出して意思決定に関われることだと思っています。
「スーパーマン」以外のロールモデルも可視化する
自分が新入社員だった25年近く前、当時の先輩に「うちのチームにも女性の先輩がいてよかったな。ニューヨークにはシニアなポジションにも女性が複数いて、その内の1人はお子さんを出産する間近、分娩室に入る直前まで携帯でディールのプライシングをしてたんだよ」と言われたのですが、そのときに自分は、「別にそんな人になりたいかわからないな」ともやっとしたものを感じました。
転じて10年後、社内の女性ネットワークに関わることになって、その後5年間リーダーを務めたのですが、決してスーパーマンじゃなくても、昇進が早かったり、ピカピカしていたりしていない私みたいな人でも、結構長く楽しく勤められるんだよというメッセージを伝えたかったのかなと思います。
チャレンジの場を多角的なアプローチで用意する
今思うとその時期はまさしくDEIの段階の、1段目から2段目に上るところでした。その後いろいろな会議に出ることが多くなって、自分だけが女性、自分だけが日本からの参加者、自分が一番若手のポジション、他の人たちはニューヨークにいてお互いのことをよく知ってるのに自分だけ電話でポツンと参加というようなことがありました。そういった意味では、DEIの段階の2段目の状況ではあったのですが、3段目の意思決定に関わるというところでなかなか発言をするのが難しいということがありました。
会社はその場を与えてくれているけれども、自分はその場に見合うような発言ができているのかと感じていたのです。そこでの経験から、会社としての制度だけではなくて、あなたならできるという励まし、伸びしろを見込んで今ある業務から少し広い、少し高い、少し難しいチャレンジの場を用意して、失敗を恐れずに、それを成長の素と捉えられるようなストレッチの文化やそういう空気というのは大事だと思っています。
会社の取り組みとして、いろいろな制度、トレーニング、メンタリングを拡充していくことは重要ですが、それに加えて、女性ネットワークで懸念点を捉えることも大事だと考えています。例えば女性の管理職になりたくないという人が多かった場合、なぜそうなのかを紐解いて、その懸念をほぐしてあげるようなトークイベントをしたり、CEOやリーダーとの対話の機会をつくるといったように、多角的に「できる」という肯定的なメッセージを伝えていくことが大事なのではと思っています。
(中島)ありがとうございました。様々な立場の方が多角的なアプローチで取り組みを進めることと、すぐに何かが成し遂げられるというわけではなく、段階的に登って行くんだというイメージをしていくことは、DEI推進において重要な点なんだなと感じました。
酒寄さんも今社内で多くの取り組みが進んでいらっしゃる最中ということでしたが、具体的な取り組みや、進める上での難しさがありましたら教えていただければと思います。
課題を共有することで理解度が高まりイクオリティが育っていく
(酒寄)私達が大切にしていることは、一人一人違って当たり前で、それを理解するということから始めるというところです。
DEIは一晩寝たら更新できるわけではないので、継続的な取り組みが必要です。良いトレーニングは、そのときにすごいいい勉強になったって思うんですが、それだけで自分事にしたり、翌日から行動を変えていくのはなかなか難しい。だからこそ、そこをサポートし合うために従業員グループの役割が必要だと思うんですよね。
従業員リソースグループの活動は、女性の活躍、LGBTQ+、障害、それからSDGsを進めているEarthforceの4つがそれぞれ活動してるんですが、ここ最近、コラボレーションが始まっています。1つの課題には多面的に捉えることができ、コラボイベントをすることで、参加者が増えました。
コラボレーションが増えることによって、社内の理解度が高まっていく。イベント後のアンケートではみなさんが課題を自分事化されているのを感じます。
(中島)ありがとうございます。テーマが異なる様々な方が課題感を共有しながら、コラボレーションの力を生かして、取り組みを加速されているんだなということが伝わってきました。酒寄様のお話の中にも、継続的で中長期的な取り組みが重要というお話が出ましたが、これからのお取り組みの目標や、社会への影響という視点からお話を伺いたく。長谷川さんからお願いできますでしょうか。
D&Iの定義を広げて新たな取り組みを広げていく
(長谷川)3つあります。
まず一つ目に、ダイバーシティの定義をどんどん広げていきたいと思っています。例えば採用に関しては初めての試みとして、障害のある方向けに、8週間の長期インターンシップを2022年の2月〜3月に予定しています。
経験者向けの採用としては、育児や介護、配偶者の転勤など何らかの理由で離職した後、またフルタイムでプロフェッショナルとして働きたい方を対象としたReturn to Workインターンシップも継続的に実施していて、そこから社員となって活躍している方もいます。
また、世代間のダイバーシティも大事だと思っています。若い声を経営層に届けるために、入社1年目、2年目の社員がチームを組んで、マネジメント・コミッティーにプレゼンをするという試みを始めてみました。他にも、若手、ベテランを問わず、会社のリーダーたちとどんな話題でも1対1で話せるという試みも取り入れました。
その他、同性パートナーを含めた平等な福利厚生、不妊治療を受ける社員とその上司向けのガイドライン、性別移行に関するガイドラインなども設けており、今後もどんどん広げていきたいと思っています。
お互いに寛容になること
2点目に、意識の醸成です。
D&Iは本質的には全ての社員にとってポジティブなことであると思っています。10年ほど前から、私自身、女性社員が求めるものはジェンダー問わず若い世代が求めるものと重複があると、経営陣に言い続けてきました。まさしく今回コロナ禍で、一時全社員がリモートワークに移行しましたが、これまでたくさんの女性が求めてきたフレキシブルな働き方はあっという間に会社全体に広がり、特に若手社員にはポジティブに受け止められたという事実もありました。
弊社では女性の平均勤続年数は約10年で、実は男性より長いんです。個人的に女性社員は頑張ってると思うので、これ以上何か女性社員に求めるということは筋が違うと思うようなことも多いのですが、アライシップ、アンコンシャスバイアスを含めた上司のトレーニングなどをさらに充実させていきたいと思っています。
基本に立ち止まって、今この会社、このチームの中でみんながフルポテンシャルを発揮できているかという視点を常に持ち、社内外で仲間を1人でも多く増やしていく。小さなことでも見て聞いて、気づきや質問、疑問を口にして、一方でお互いに寛容になることによって少しずつ良くしていけるのではないかと思っています。
幸せな個人が会社と社会に良い変革をもたらすというプラスのスパイラルを生む
3つ目は、ビジネスとしての戦略やコミットメントを強めていきたいと思っています。
DEIは数値化できないもので、進歩進化を測りづらい。だからこそ、どうやってよりクリエイティブにデータを見るのか、たくさんあるアイディアの中からどれを、いつ、どう採用していくのが最も効果的なのかを見極め、引き続きビジネスの課題としても取り組んでいきたいと思っています。
一例を申し上げると、私が務めているマネジメント・コミッティーも、発足した11年前は女性メンバーがいませんでしたが、今は40%を占めるようにもなっています。
これは気付いたらそうなっていたというものではありません。社内にどんな人材がいて、どんな仕事をしていて、どうやったら彼女たち彼らのキャリアを築いていけるのかという長期的なコミットメントとアクションが、組織の戦略として必要だと思っています。
今ではニューヨーク本社のCFOも、日本のCFOも、私と同年代、40歳代の女性。トップの姿が見えやすくなってきました。若い世代はジェンダー平等に意識が高い中で、その間の層への浸透をどう図っていくのかが課題です。
DEI推進はビジネス上、結果を出さないといけない責務だと強く感じています。幸せな個人はパフォーマンスが高い、そういう人たちは長く続けられる、それによって会社にとっていいことが起こって社会にとっても良い変革が少しずつ起こっていく。それによって幸せな個人、幸せな時間が増えていく、そのループを続けていきたいというふうに思っています。
(中島)ありがとうございます。まさにプラスのスパイラルだなというふうに思いましたし、ビジネス上のパフォーマンスという観点からも、今このチームにとって最も良いことって何なんだろうということを丁寧に戦略的に考え続けていらっしゃるんだなということが伝わってきました。
では続けて酒寄さんからもお願いできますか。
社外と連携しながら社会全体の変革をサポートする
(酒寄)私達もデータ、テクノロジーの会社なので、社員のアンケート以外にもいろいろなデータがあるんですね。そのデータを使いながら社員が今どういう状況にあるのかを測りながらDEIの施策を作っています。
その効果を測ることによって働きがいや働きやすさが向上できたり、必要な人に届けられるか検討を進めています。
ビジネスは社会を変える最良のプラットフォームということをもっと実行するために異業種コラボレーションを進めています。LGBT平等法やMarriage for Allなど、社外と連携しながら社会全体の変革をサポートしています。
(中島)ありがとうございます。社内の仲間たちの声を丁寧に聞くことだけではなくて、会社の外というところでも、企業の枠組みを越えてコラボレーションが進んでいくことって素敵だなと思います。このイベントがそのきっかけの1つになれば私達も嬉しく思います。
では、続けて佐藤さんお願いします。
業界内外の他社とつながって社会を変えていく
(佐藤)ここ数年は社内の活性化と並行して、社外の方々との繋がりづくりに注力しています。自社に止まらず、日本の社会にしっかりインパクトを出していくことを意識して取り組んできていると思っています。業界を越えた取り組みですと、最近はコカ・コーラさんと一緒に対談をさせていただき、両社から関心の高い数十名が参加するイベントになりました。
あとは、業界内のネットワーキングも注力しています。IT業界のLGBTQのネットワークはnijit(ニジット)があり、マイクロソフトさんやグーグルさんと一緒に輪を広げるための活動を長年取り組んでいます。
コンサルティングの業界にもこういう動きがあったらいいなと思っていて、各社の方々と、何かできないかお話していこうとしています。
また、日本初の常設LGBTQセンターを立ち上げたプライドハウス東京にも団体設立からの3年ほど一緒に活動をしています。
1社だけでも十分インパクトはありますが、社会が変わっていくには少し足りないので、いろいろな会社がそれぞれの得意領域を持ち寄って、動きをつくっていくことが大事なのかなと思いますね。
すべての企業がDEIについて素晴らしい活動ができれば日本全体の暮らしやすさや、成長も高まっていくと思いますので、色々な企業やNPOの方々も含めて取り組んでいきたいです。
自分にとって大事な軸を見つけることが、味方や居場所をみつけることにつながる
(中島)ありがとうございます。冒頭ではネックストラップを使った社内でのアライの見える化についてお話をいただきましたが、社会の中でもLGBTQに取り組む企業が見える化していくことってすごく力があるなと思いました。
最後にみなさまからこのセッションを視聴している、主に学生や若手社会人に、一言ずつメッセージをいただけますでしょうか。
(酒寄)このセッションをご視聴いただいるみなさんにとって、先が見えづらいからこそ今ちょっと不安な時期でもあると思うんですよね。ただ、この時間で自分のことを見つめ直す、自分にとって何が大切で、どんな価値観を持っているかってことを少し立ち止まって考えて欲しいなと思います。
そうすることによって自分が大切にしている軸がわかると、自分の周りに味方になってくれる人や居場所があることに気づけることもあります。
セールスフォース・ドットコムでは、社外の活動もしていますので、よろしければいろいろなところを見ていただいて活動に参加していただきたいなと思います。
また、もしみなさんが自分らしくいられる場がすでにあったら、今度は他の誰かを受け入れる、アライとしても活動としても続けていただきたいなと思っております。今日はどうもありがとうございました。
みなさんが自然体で働けるように、業界を超えて取り組みが進んでいる
(佐藤)僕はコンサルティングの仕事をしているのでビジネス側の視点で話したいと思います。今は世界中もちろんそうですし、日本は新しい価値を作って社会や生活を変えていくことに、ここ数百年間、数十年よりも明らかに取り組まないといけないタイミングになっています。
コロナでこういった大きな変化も起こる中で、アイディアやテクノロジーが課題を解決したり、新しい生活を支えたりしているんじゃないかなと思っています。
これから皆さんが社会に出ていく中で、自分らしい視点や、自分の気持ち、意見をしっかり伝えて、それをみんながいろいろな角度からぶつけることで、新しいことが生まれてくる。そういうことがイノベーションだと思っています。
なので、みなさんが自然体で働けるような環境を用意することが、企業には求められています。この輪はどんどん広がっていきますし、様々な企業が業界を超えてみなさんをサポートできるような形を実現しようとしています。
それぞれいろいろな課題があると思うのですが、ぜひ安心してください。どの会社に行っても活躍できると信じて、前を向いて、こんなコロナの時期で大変ですが、一つ一つ歩みを進めていただきたいなと思います。
キャリアはジャングルジム
(長谷川)キャリアは短距離走じゃなくマラソンだとよく言われますが、私自身はジャングルジムだと思っています。私も一度会社を辞めて戻ってきて、社内でも異動を経験して3部署目。社会人経験のなかで停滞や落ち込みもいろいろと経験したんですけれども、いろいろな仲間や同志に出会えたということで、最終的には無駄なことって何もなかったなと思っています。
キャリアとは、上に先に行くだけではなくて、社内異動などで横に行く、斜めに行く、一度降りてみて違うところから登ってみることも多いです。だからこそ、それぞれの場所から見える様々な景色を長くハッピーに楽しんで欲しいなと。みんなで良いジャングルジムを作っていきたいというふうに思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
会社を超えて連携することで誰もが暮らしやすい社会に波及していく
(藥師)圧巻の時間でした。ありがとうございます。コラボレーションのことが話題に上りましが、SDGs(2030年までの持続可能な開発目標)の中でも、コラボレーションは大事にされています。パートナーシップで目標を達成していこうということで、官民産学とかで連携しながら、コレクティブインパクトで社会を良くしていこうというような流れが重要視されています。
DEIは、企業の中で誰もが働きやすい職場を作る上でも大事ですが、会社を超えて連携していくことで、暮らしやすい社会をつくっていくことにつながると思いました。
今日参加いただいている学生のみなさんや社会人のみなさんも、DEIを自分の働きやすさの観点だけでなく、自分もその会社の風土を作る一員であると捉えていただき、そのことで社会にも影響しうると考えていけたら素敵だなと思いました。こうやって会社の中でDEIをリードされているみなさまにお話を聞けてすごく嬉しかったです。今日はありがとうございます。中島さんいかがですか?
(中島)「自分らしく働く」をテーマにこのダイバーシティキャリアフォーラムをお送りしていますけれども、多分「自分らしく働く」の向こう側には、自分らしく生きる、幸せに生きるというものがあると考えています。そして今日みなさまのお話聞いていてすごく強く感じたのが、アライの力とか、コミュニティの力、ネットワークの力ってやっぱり偉大だなと思いました。
自分1人で自分はどうしようと、孤独に考えるのではなくて、様々な人の知恵が集まった場所で、私はどうしようかと考えてみるようなきっかけにこのダイバーシティキャリアフォーラムも使っていただけたらなと思っています。
本日は素敵なお話をお寄せいただいた3名のゲストの方、本当にありがとうございました。