社内推進を担うリーダーたちに、その意義と未来を伺いました。
(2021年10月17日配信。動画はこちら)
(藥師)このトークセッションは、「ダイバーシティ推進のリーダーたちに聞くDEI推進の意義と未来」ということでお話をしていきたいと思います。
ダイバーシティ(多様性)、イクオリティ(平等)、そしてインクルージョン(包摂)を合わせてDEIとも言いますが、なぜ企業がDEI推進をするのか、また、社会にとってもどんな意義があるのかお話しいただければと思います。
(中島)本日は素敵な3人のゲストの方をお迎えしております。初めにゲストのみなさまから自己紹介と、会社でのお取り組みについてお話をいただけますでしょうか。
長谷川友紀さん
モルガン・スタンレー
モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社/マネージング・ディレクター、マネジメント・コミッティー・メンバー
1997年に入社し、現在はビジネス・アライアンス・マネジメント・オフィスの責任者を務める。社内ではダイバーシティ&インクルージョンカウンシルのメンバーとして、また、Women’s Business Allianceのエグゼクティブスポンサーとして、ダイバーシティ&インクルージョンに積極的に取り組む。社外ではAssociation for Women in FinanceのPresidentも務めている。
モルガン・スタンレーの四つのワーキンググループ
(長谷川)モルガン・スタンレーの長谷川と申します。モルガン・スタンレーは40ヶ国以上のオフィスで7万人以上の従業員を有するグローバルな金融機関で、日本では昨年創立50周年を祝いました。私自身は日本における証券合弁事業の推進統括責任者として、モルガン・スタンレーMUFG証券の経営会議に相当するマネジメント・コミッティーのメンバーです。また、ダイバーシティ&インクルージョンカウンシル(以下D&Iカウンシル)のメンバー、ESG(環境・社会・ガバナンス)カウンシルの取りまとめ役、Women’s Business Allianceという有志社員による女性ネットワークのエグゼクティブスポンサーとして、日々の活動をしている人たちをマネジメントに繋いだり、アドバイスをする立場にもいます。また、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の取締役も務めております。
他にボランティアとして、Association for Women in Financeという外部団体のプレジデントもしています。その関係で昨日の朝も、プリンストン大学で教えている方に、金融業界で働く私達が、どうやってこの資本市場の中で自分の価値観に合うやりがいや幸せを感じながら働き続けられるのか、というテーマについてのトークセッションをしたところで、今回の「ダイバーシティと幸せに働き続けること」というテーマについては、常に貪欲に学んで発信し続けていきたいと思っております。
経歴も簡単に紹介させてください。日本の大学を出て、新卒でモルガン・スタンレーに入社しました。
新入社員の年に、いきなり三洋証券、拓銀、山一が潰れた金融危機がありまして、会社を辞めてビジネススクールに留学した年には、ITバブルが日米で同時崩壊。私自身は元々所属していた仕事に戻る決断をしましたが、その6年後ちょうど仕事の脂も乗ってきてキャリア上大切な時期に妊娠して、数ヶ月お休みをしていた間にまた金融危機が起きて会社がなくなりそうになったりと、いろいろとありました。
外資系金融といえばアグレッシブで外交的で、数字に強くて口がうまい人が多いイメージがあると思うのですが、そんなステレオタイプに当てはまらない自分なりに、楽しみながら20数年以上働いてきました。家庭では、小学校5年生の娘がいまして、いつも私以上に家事育児をしてくれる夫が入院してしまったので、日頃ワンオペをされている方の苦労をほんの少しだけ味わっているところです。
少し社内の取り組みについてもお話しさせてください。私自身がメンバーを務めるD&Iカウンシルは、2年前グローバルに先駆けて、日本で社長直轄のチームとして作られました。四つのワーキンググループにわかれ、私自身はその中でアドバンスメントという、社内における異動のハードルを下げることや、社内のいろいろな人と知り合うネットワーキングを中心にいろいろな施策を考えて実行しております。
それから、有志の社員による社員ネットワークというのが4つあります。LGBTQのPride and Allies Network、育児、介護、その他家族のテーマを扱うFamily Network、女性の活躍のためのWomen’s Business Alliance、こちらは趣旨に賛同してくださっている男性アライの参加も多いです。あと、disAbility Network。この4つが社員のネットワークとなっております。
また、人事部が行うトレーニング。これは全員対象のものからよりフォーカスした女性リーダー対象のものまで、グローバルでも日本でも、バーチャルでもリアルでもさまざま取り組んでいます。
(中島)長谷川さんありがとうございます。ご自身の経験も踏まえてお話くださったことと、DEIと幸せに働くことというテーマが並んで語られることに関して私自身気づかされるところがたくさんございました。
続いて、酒寄さんからもお願いできますでしょうか。
酒寄久美子さん
株式会社セールスフォース・ドットコム
イクオリティオフィス シニアマネージャー
2012年セールスフォース・ドットコムに入社。コアバリューの1つであるEquality(平等)の醸成/推進を担当。多様性があり、さまざまな背景を持つ人々が尊重される帰属意識と平等性のある職場を目指す。
ビジネスは社会を変える最良のプラットフォーム
(酒寄)セールスフォース・ドットコムイクオリティオフィス酒寄と申します。全ての人にとっての平等の実現するOffice of Equalityという部門が本社にあり、その日本と韓国を担当しております。
働き方改革、ダイバーシティ、イクオリティという観点から、誰もが生き生きと自分らしく活躍できるEquality for Allの実現に向けた施策を担当しております。
私の経歴は長谷川さんと重なるところがありまして、もともとは外資系証券会社にいまして、そこでリーマンショックを経験しました。その後に娘がちょうど中学受験があったので、1年お休みしまして、その間に自分のことを考え直し、今度は証券会社ではないところで働こうと思って別の会社に入りました。そこで2年ほど吸収合併のお仕事をさせていただいて、その後縁あってセールスフォース・ドットコムに入りました。
私の所属するEmployee Successというのはセールスフォース・ドットコムの人事本部のことです。
社員の成功をサポートするグループ、部門ということで、Employee Successという名称となっています。
ITの業界は右肩上がりで、おかげさまで成長著しいのですけども、社員が頑張っているからこの会社の成長がある、というところでEmployee Successという仕事も大変気に入っています。
私がセールスフォース・ドットコムで一番好きなところは、イクオリティ(平等)というバリューがあるところです。2016年にイクオリティを推進しようということで本社の方でOffice of Equalityという部門ができました。昨年から、各国の取り組みに注力しようということで、日本と韓国の担当として、私が着任しました。
個人的な趣味は旅行だったんですけど、コロナ禍で行けなくなったのですが、いろいろなダイバーシティを感じるところに行くのがとても好きです。
本題の方に入ります。会社が大切にしている信念は、ビジネスは社会を変える最良のプラットフォームであるということです。そしてそれを支えているのが、4つのコアバリューです。
信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等。平等というのは、私達一人ひとりがお互いのアライ(理解者、支援者)になるということです。平等の中で従業員が自分らしく活躍することによって、イノベーションが起こり、お客さまの成功、そして私達の成功があります。
お客様は実に多様です。だからこそ、私達の社員も多様であることによって、お客様とより強固な信頼関係が結べると考えています。そのため、この4つが結びつかないと、会社の成長、個人の成長に結びつかない。これが私達の大切にしている価値観です。
例えば私は日本人で、女性で、働く母。それぞれ個々に多様な面を持っています。
その自分達の経験とか生活体験を理解したうえで、お互いのアライになることを会社としては進めています。
私たちが社内で使っているTrailhead(https://trailhead.salesforce.com/ja/)という、オンライントレーニングは、社外の方も無償でお使いになれます。平等であることのビジネスの価値や、無意識の偏見の影響などが、ゲーム形式になっていて、10分15分で終わるものも多いので、ぜひアクセスしてみてください。
アライの文化を醸成するために、従業員リソースグループという、従業員自らが積極的に社会課題を解決するグループが、グローバル全体で12グループあります。
日本では4つのグループがあって、LGBTQ+をサポートするOutforce、障害を知ってコミュニティを支援するAbilityforce、地球環境やSDGsに直結した活動を行うEarthforce、女性の活躍を推進するWomen’s Networkが活動をしています。
従業員リソースグループは、グローバル全体で2人に1人が当時者ではなく理解者・支援者であるアライとして参加していることも特徴の一つです。各グループには必ず役員がエグゼクティブスポンサーとして参加しています。
ボトムアップの従業員の声に役員がコミットメントし、自分事になっていく。私を含めたOffice of Equalityのメンバーは少数なので、こういったアライのみなさんと一緒に進めることを大切にしています。
(中島)酒寄さんありがとうございました。ご紹介いただいた、ビジネスは社会を変える最良のプラットフォームであるというお言葉、まさにこのセッションのテーマと重なる部分だなと思いました。また、アライのみなさまのお力が取り組みの推進の原動力になっているということ、とても大事な部分だなと改めて思った次第です。
では続いて、佐藤さんからもお願いできますか。
佐藤守さん
アクセンチュア株式会社
シニア・マネジャー/LGBTQ Ally Committeeリード
顧客体験起点の事業戦略策定、新規事業・サービス立上げ、組織設計・変革、マーケティング改革に携わる。LGBTQ Ally Committeeリードを担当し、社内外のアライ・当事者向け施策立案・推進に従事
Inclusion&Diverityは経営戦略
(佐藤)こんにちは、佐藤です。アクセンチュア株式会社でシニア・マネジャーを務めています。僕自身は、最初は日本IBMでエンジニアとして入社し、今の会社にはコンサルタントとして入社しています。主に新しいサービスを考えたり、マーケティングのご支援をしたりしています。
最近の仕事ですと、「みんなの銀行」(https://www.accenture.com/jp-ja/case-studies/banking/minna-bank)というデザインやブランドにこだわったデジタル世代向け銀行のアプリを作っています。よかったらぜひ使ってみてください。
私自身はInclusion&Diverityという会社の活動の中で、LGBTQ Ally Committeeのチームでリードを務めています。他には、会社の部活動である芸術部で、芸術のイベントを企画したり、デザインやクリエイティブ人材の新卒採用を行うチームのリードをしたりと、いろいろなことに取り組んでいます。
ここからはアクセンチュアの会社としての取り組みを少しご紹介します。
アクセンチュアはテクノロジーの力を使って、お客様である企業や公的機関と未来を一緒に創っていく会社です。
世界中の200以上の都市に拠点を持っており、日本でも11か所に拠点があります。また、業務の幅も様々で、システムを開発する人、コンサルティングをする人、僕らみたいに新しいサービスのデザインやマーケティングをする人など、各業界でいろいろ活動しており、多様性に富んだ仕事であると感じています。
我々としてはInclusion&Diverityを、経営戦略、会社の中でも重要な戦略として考えています。
なぜかと言うと、僕ら一人一人が良いアイディアを出したり、良い活動をするためには、意見や個性を安心して出すことができる環境が重要だと考えているからです。
今日は、僕が担当しているLGBTQのネットワークが具体的にどんな活動をしているのか、ご紹介していければと思います。
我々もセールスフォースさんと似ていて、経営幹部が各I&D領域にコミットメントを持って取り組んでくださったり、社員のボランティアでコミッティを作ったりと、幅広い活動に取り組んでいます。
LGBTQに関しては当事者の方も働きやすくなるような環境やガイドラインを提供し、いろいろな企画を通じて理解を深めるという活動をしています。
また、レインボーのストラップを着用することでアライであることを表明するといった活動をしています。
特に我々LGBTQ の領域では、対外的なイベントに参加したり、外部のNPOや他の企業の方々と繋がり、今日のテーマでもある社会にインパクトを起こすための連携も進めています。
(中島)佐藤さんありがとうございます。それぞれの方が自分らしさを発揮できて、その人らしく働けることの重要性が経営戦略のコアに位置づけられているというところ、素晴らしいなと思います。
ここからは、DEI推進をリードする、みなさまのご状況や想いをお伺いしていきます。まずは佐藤さんにお伺いしたいのですが、LGBTQコミッティでリードを務めるに当たってのきっかけや、印象に残っている出来事はありますか。
マイノリティの立場を体感したことから
(佐藤)僕はこのチームで2015年から活動していますが、LGBTQ領域に取り組もうと思ったのは、職場で何が課題なのかよくわからなかった、というのがきっかけです。
例えば、外国籍の社員が日本語だとうまく仕事が進められないとか、こういったところは割と課題を想像できていました。しかし、LGBTQという領域では、何の課題があるのか、仕事をする上でどんな問題があるのかっていうのが当初は分からなかったんです。
そこから活動を開始して、あるとき、IT業界でLGBTQやアライの方たちが集る飲み会に参加したんです。5、60人の出席者のほとんどがLGBTQの方たちでした。
そこでお話をするなかで、なんとなくなんですけど、自分と共通の話題を見つけにくいという感覚があって。そのときに、あ、僕は今マイノリティなんだなって、すごく感じたんです。
仕事をする場で1日8時間、毎日何年、「マイノリティでちょっと話しづらいな」という感じが続くっていうのはものすごくストレスがあるし、自由に意見を言ったり、アイディアを出したりすることの妨げになるなと、そのとき実感しました。
共感を生んでいくこと
LGBTQ分野は3年ぐらい前から、リードをやらせていただいています。社外との連携や、社内の活性化に非常に力を入れていて、コミッティメンバーもどんどん育ってきています。たとえば社内で月に1回イベントをやっていて、オンラインで100人以上毎回参加し、ディスカッションも活発に行われていて、とても嬉しいと思っています。
一方で特にLGBTQの領域は、当事者の方がなかなか見えにくく、自分事化しにくい人が弊社の中でもまだいます。
これはすぐに解決できるものではないですが、少しずつ、どうやって共感を生んでいくのかに向けて活動をしているというような状況です。
(中島)ありがとうございます。共感というのも、1つキーワードになりそうだなと思いながらお話をお伺いしておりました。
ご自身の経験に基づいて、じゃあ次はどんなふうに共感を生んでいこうかというところは、これから佐藤さんも取り組みされるところなのかなと想像をしております。
(後編へ続く)