diversity works > 人を知る > インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)を経営戦略の柱に、社会にイノベーションを起こし続ける
Update on :2021.09.10

インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)を経営戦略の柱に、社会にイノベーションを起こし続ける

長谷川貴司さん/古谷美桜さん/ブッチャー・ベンジャミンさん
日本電気株式会社
人材組織開発部インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)チーム/人材組織開発部インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)チーム/グローバル事業推進本部

今年5月に発表された2025中期経営計画において「インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)の加速」を、「人とカルチャーの変革」を推進する柱のひとつとして打ち出したNEC。社会に新たなイノベーションを創出し続けるためには、多様な社員が集い、一人ひとりの力を最大限に発揮することが必要不可欠と考え、I&Dを経営戦略のひとつに位置づけている。
今回はNECで、個々の多様な価値観や視点を尊重し、それらを活かすカルチャー醸成に取り組む3名の方にお話をうかがった。

長谷川 貴司さん
人材組織開発部インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)チーム

2003年4月、NEC入社。テキスト分析や感情分析のAIを活用した新規事業開発に従事する傍ら、JICA青年海外協力隊としてキルギス共和国での国際ボランティア、作曲家やダンサーとしての兼職、プロボノ活動も行う。2019年に「NECダンサーズ」を立ち上げ代表を務める。2021年5月から現職。

古谷 美桜さん
人材組織開発部インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)チーム

2020年4月、NEC入社。多様な社員が自分らしく働ける仕組みや環境づくりを行うインクルージョン&ダイバーシティチームに所属し、主に女性活躍と障がい者雇用を担当。幼少時から聴覚障がいを持っており、日常生活では手話を、職場では筆談や音声認識アプリを使った視覚的情報を中心にコミュニケーションをとっている。

ブッチャー・ベンジャミンさん
グローバル事業推進本部

2006年4月、NEC入社。3Gと4Gのテレコムシステムを海外で販売した後、2014年に社内公募を活用し、ビジネス開発部に異動。インド・中東・オーストラリア市場での公共交通機関管理システムの構築に携わる。2018年からはグローバル事業推進本部にて、国際機関(国連機関ほか)とのパートナーシップやプロジェクトの創出に取り組む。
 

まとまるのではなくぶつかり合い、理解し合うカルチャーを

 
「インクルージョンが先にあってのダイバーシティ」。あえてNECではI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)と表現している。

「性別、年齢、国籍、宗教、障がい有無、性的指向・性自認、介護・育児などを、単に社員の属性ととらえるのではなく、そこに含まれる人生経験は価値の源泉になると思っています。例えば、『実は、私~なんです』といったような周囲が知らない特技や経験の自己開示が、以前は職場を離れた飲み会の席などでは行われていたと思いますが 、初めからオープンにして仕事に活かせるカルチャーを創りたいですね」(長谷川さん)

変化が激しく、未来を予測するのが困難な時代。その中でNECが価値を発信しつづけていくにはイノベーションを起こしていかなくてはならない。

「似たような価値観や経歴の人が、今現在の肩書と役割によって、“あうんの呼吸で”無難に意思決定するという同質的なカルチャーから完全に脱却して、多様なバックグラウンド、仕事や人生に対する価値観、情熱をぶつけあい、時には衝突しながらも、議論の中から、理解・共感して、アイディアをビジネス創出につなげていける組織にしていきたいです。新規事業開発に従事した経験からも、イノベ―ディブな組織づくりの鍵はインクルージョン&ダイバーシティだと思っていて、まさに経営戦略そのものだと思います。」(長谷川さん)
 

具体的に見える化してきたI&Dの加速

 
2013年に人事部(当時)内にダイバーシティ推進グループを設置したNEC。これまでにもさまざまな取り組みを行ってきたが、最近の特徴的な活動をいくつかうかがった。

【女性活躍】
理系学部出身者が多いこともあり、「入社当時は男子校のようだった」と長谷川さんが話すNECだが、現在は女性社員の割合も増えている。そしてさらなる、女性の登用・活躍推進のために、以下の目標を掲げている。

・2025年度までに女性従業員比率を30%にする
・2025年度までに女性管理職比率を20%にする
・2025年度までに女性/外国人役員比率を20%にする

「特に、女性管理職比率を上げるために、育成プログラムの拡充やサテライトオフィスの利用拡大に取り組んでいます。また、去年『30% Club Japan』に加入しました」(長谷川さん)

30% Clubは2010年に英国で創設された、取締役会を含む企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を目的とした世界的キャンペーン。現在は17ヵ国で展開されている。

「世界的な取り組みへの参画を通じて、ジェンダーバランス向上の推進へコミットしていきたいと思っています」(長谷川さん)

3月8日国際女性デーには社内ウェビナー「経営戦略としてのI&D」を開催


【LGBTQ】
NECでは、誰もが自分らしく安心して働ける職場づくりを進めるためには、LGBTQに関する正しい理解とAlly(アライ)を増やすことが先決と考えている。

「2019年10月より、人材組織開発部のメンバーを中心に”顔の見えるAlly”を発足し、当事者からの問い合わせや相談に直接対応しています。

また今年6月のPride月間には、認定NPO法人ReBitと協力してLGBTQのクロストークイベントを実施しました。イベントの中でAlly(アライ)への表明を呼びかけたところ、約150人が名乗り出てくれました。今後は、当事者とAlly(アライ)のコミュニティを立ち上げるなど、社員を巻き込みながら活動を促進していきたいと考えています」(長谷川さん)

認定NPO法人ReBitと協力して開催したLGBTQのクロストークイベント

【兼職/プロボノ*】
NECでは、自分のスキルや経験を生かし、社外でも活動することが制度として認められている。

「2018年に兼職制度ができたことで、社員がこれまでの人生の中で築き上げてきた人脈や特技を駆使して社外で活躍し、多様な価値観に触れて、さらに高い視座、広い視野でものごとを考える力を身につけることが堂々とできるようになりました。
また、NECは2010年に国内企業で初めて、社員の持つスキルを社会課題の解決に役立てるプロボノを開始したのですが、2020年度は、プロボノの地域展開として、NECの事業場がある川崎市との連携を開始しました。COVID-19の影響でプロボノもオンライン活動となったのですが、逆に住む場所に関係なく、業務とのバランスをとって参加しやすくなりました。」(長谷川さん)

*プロボノ:ラテン語で「公共善のために」を意味するpro bono publicoの略で、ビジネスパーソンが自分の専門知識やスキルを活かして社会貢献するボランティア活動

長谷川さん自身も、兼職申請をして作曲家やダンサーとして活動をしている。

「作曲で地域貢献したいと思い、“音楽のまち”でもある川崎市に相談したところ、「障がいがあってもなくても楽しくダンス!」を合言葉に活動しているNPO法人を紹介いただき、楽曲提供と教室運営のサポートをはじめました。その活動にもっとNEC社員を巻き込もうと思い、2019年に“NECダンサーズ”というダンスチームを結成しました。障がい有無に関係なく、インクルーシブ・ダンスを通してI&Dを伝えるために、地域やスポーツのイベント等でパフォーマンスをしています。」(長谷川さん)

それまで、障がい者との接点は特に持っていなかった長谷川さんだが、この活動を機にNECでも障がい者雇用に携わりたいと希望を出し、人材組織開発部I&Dチームへ異動した。

「NECでは、各部門の募集ポジションが公開され、すぐにジョブマッチングできる仕組みが導入されています。社員がやりたいことに自ら積極的にチャレンジできる環境が整っていて、これもひとつのI&D施策だと思っています」(長谷川さん)

インクルーシブ・ダンスを通してI&Dを伝えるNECダンサーズ

 

できることは自分で、できないことは助けあって

 
人材組織開発部I&Dチームで、女性活躍と障がい者雇用を担当している古谷さん。聴覚障がいを持っている古谷さんに対して、採用面接時にどの会社よりも柔軟な対応をとってくれたのがNECであったという。

「『できることは自分で、できないことは助けあって』というNECの考えに共感をもっています。『できること』と『できないこと』について当事者の声に実際に耳を傾けることで、一人ひとりが自分らしく働くための選択肢を増やせるからです」(古谷さん)

自身も聴覚障がいをもっているが、「できること」と「できないこと」について上司や同僚とコミュニケーションを重ねてきたという。

「音声認識アプリや筆談を活用して業務内容を教えていただいたり、会議や研修にも参加しています。今現在も、声のやりとりがなくとも、チャット機能を使い、視覚的情報を得ることで、インタビューに対応することができています。」

『できることは自分で、できないことは助けあって』という考えは、様々な障がいを抱える人にとって、自分の声を周囲に知ってもらう大切な考えであり、周囲が本人を理解するために必要な考えだと考えています」(古谷さん)
 

一人ひとりの障がいに合わせた合理的配慮を通じて理解を深める

 
I&Dチームは様々な価値観や経験・スキルをもつ人々と関わる機会に恵まれており、毎日新しい学びを得られているという古谷さん。I&D推進担当としての思いをうかがった。

「障がい者雇用の中に、合理的配慮の提供というものがあり、社員がより自分らしく働いてもらえるようにサポートしています。この合理的配慮を提供するまでのコミュニケーションの積み重ねや、その積み重ねから生まれた合理的配慮によって当事者が自分らしく働いてもらえていると、I&D推進担当としても障がいをもつ社員としても、嬉しく思います」(古谷さん)

NECでは、一人ひとりの障がいに合わせた合理的配慮を提供している。

「1対1でお話ししたり、職場への配属前にオフィス環境の現地確認を一緒に行ったり、当事者とコミュニケーションを重ねることで、その人が最大限の力を発揮できる職場づくりを提供できるよう努めています」(古谷さん)

このような機会を通じて、何があれば「できることを自分で」できるようになるのか、I&D推進担当としてその障がいに関して理解を深めることができているという。
 

I&Dから生まれる、NECの技術を活かした新たな事業

 
22歳で英国から来日をし、様々な職場を経験した後、NECに入社したブッチャーさん。
NECの技術でグローバルな社会課題に取り組むプロジェクトに携わっている。

「例えば、AIを使って地雷検出するシステムやマイクロプラスティックを使用したサービスデザインなどを考えています。それらは新しいアイディアをオープンに議論しやすいNECのカルチャーやグローバルで活躍する多様なメンバーの協業によって生まれたものです。NECの技術をどのように使っていくか、どのようにビジネスモデルを描くか、といったところをゼロから作っています」(ブッチャーさん)

 

人事部門に頼るのではなく当事者同士で解決する

 
またブッチャーさんは、NECの中で外国人ERG(Employee Resource Group)のリーダーとしても活動している。ERGとは、組織の中における女性社員やLGBTQ、障がい者、外国人などの当事者もしくはアライが集い、それぞれ特有の職場での課題について話し合ったり、部門を越えた交流を図ることを目的とするグループだ。

「2001年に日本企業で働き始めたとき、そこでの外国人はたった2人でした。困りごとは2人で話して解決していました。近年、NECでは会社全体で沢山の外国人社員が働くようになりましたが、中には地方のオフィスにひとりで、孤独を感じる外国人もでてきました」(ブッチャーさん)

そのような経験をふまえ、事業としてもグローバル化し、外国人社員が年々増加していくNECの中で何ができるかを考え、外国人向けのERGの立ち上げを行った。

「日常で困っていることをすべて人事部門に聞くのではなく、ERGを通じたり、NECの制度やネットワークを使って自分たちで解決できるようにしたいです。また、今後開催が予定されている社内のダイバーシティイベントへの参加などを通じて、各国の文化を伝えていきたいと考えています」(ブッチャーさん)

 

好きなことを見つけ、エッジの立った人に

 
最後に、「自分らしく働く」を軸に仕事を選びたい、学生、第二新卒を中心とする求職者へのメッセージをお願いした。

「定期的に自分と向き合って、自分の価値観(大切にするもの)、未来のなりたい自分を考える時間をつくってください。私が18年前にNECに入った時は、それを考えていなくて何度も迷走しました。兼職やプロボノへの取り組みから、ようやく自分の働きがいを見つけることができましたが、みなさんは早い段階で、なりたい自分を考えるようにしておくと、壁にぶち当たってもぶれずに行動できたり道が開けたりすると思います。

以前は、社会に出ると丸まると言われていましたが、今は自分らしさを重視するカルチャーに変わってきています。NECにも個性的で面白い人がたくさんいます。隠れていた本当の強みが可視化されるようになりました。自分の得意なことを磨いて、エッジの立った人になってください」(長谷川さん)

「NECは個性豊かな多様な人材が集まっており、それぞれ異なる視点から生まれた意見を交換することで自分らしく働くための選択肢を生み出せる柔軟性の高い会社だと思います。

NECの『できることは自分で、できないことは助けあって』という考え方の下、自分の視点や声を周囲に知ってもらい、働きやすく・働きがいのある職場環境づくりを一緒に実現していきませんか。その皆さんの声が、自分だけではなく、様々な属性の多様な価値観や経験・スキルを持つ社員の持てる力を最大限に発揮できる心強いひとつの選択肢になるかもしれません。NECでお会いできる日を楽しみにしております」(古谷さん)

「大学や仕事を選ぶ際、自分のビジョンがあまりなくて悩んでいました。そんなとき父親にもらったアドバイスは、”自分の好きなことにフォーカスする” ということです。私は日本に興味があったので、日本語を勉強して日本で働くようになりました。

日本に来てからも興味が持てることをずっと探してきましたが、見つけるのに30歳くらいまでかかりました。自分が何をやりたいか、すぐにわからなくても、前に進むのが大事です。自分が好きでフォーカスできることはきっと見つかります」(ブッチャーさん)