カルビン・ラウさん
ブルームバーグL.P.
エンタープライズデータ営業部
LGBT and Ally Community 東京チャプター 共同リーダー
香港で生まれ育ち、大学を卒業後、2009年に来日。2014年ブルームバーグ・エル・ピーに入社。現在、営業部のシステムサポートとして勤務。2018年より社内「LGBT and Ally Community(BPROUD)」チャプターリーダーとして活躍し、社内外のLGBT and Allyイベントや啓発活動に携わっている。日本文化にあこがれて
子どもの頃、香港でも放映されていた『ひとつ屋根の下』『星の金貨』などの日本のテレビドラマを観て育ち、中学生の頃には宇多田ヒカルといった日本の歌姫たちに惹かれ、と、幼い頃から日本の若者文化にとても興味を持っていたカルビンさん。高校に入ると、週に1回、日本語教室に通うようになり、大学時代には日本への短期留学も経験。さらに日本語の能力を磨きたいと思い、2010年には文部科学省の研究留学生として大学院の修士課程に入り、本格的に日本語を学びました。そして大学院卒業後、日本でもう少し自分の可能性を試そうと思い、ウェブ制作の日系企業に就職しました。
「300人ほどの会社で、そのうち外国人は10人ほど。社内にLGBTに関するポリシーは一切なかったのですが、一人だけオープンリーゲイの日本人社員がいました。その方に対して、『(彼は)そっち系ですよ』と言っている同僚を時々見かけることがあって。言っている本人は特に悪口という意味ではなかったのでしょうが、LGBTに対する敏感さや配慮が足りない社内風土に、不安を抱えながら仕事をしていました。気の合う同僚2、3人にはカミングアウトしましたが、それ以上オープンにすることは控えていました。2年ほど勤めましたが、もっと国際的な会社に転職したいと思うようになり、結果、2014年、ブルームバーグに入社することになりました」
実はカルビンさん、ブルームバーグを選ぶにあたって、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)やLGBTに関するポリシーには、それほどこだわっていたわけではなかったと言います。
「アメリカの会社だけれど、日本オフィスならアメリカ人だけでなく日本人もいるだろうし、世界中にサービスを提供している企業なので、多様なバックグラウンドの社員もいるだろう。であれば、自分自身の視野をもっと広げることもできるのではないか。そう思って選んだんです、具体的なD&Iポリシーではなくね。それで、入社初日を迎え、オリエンテーションを受けたところ、ブルームバーグ東京オフィスには、障がい者(Abilities Community)、LGBT(Tokyo LGBT and Ally Community)、女性(Women’s Community)、仕事と家庭(Working Families Community)の4つのコミュニティがD&I推進の活動をしていることを知り、驚いたとともに、どんなイベントやサポートがあるんだろうと、とても興味を持ったんです」
レインボーカラーをモチーフに、ブルームバーグのD&Iを表現したイメージ画像
ゲイとして生きる〜内なるカミングアウト
香港は、国際金融都市というイメージが強く、ダイバーシティにあふれた街だという印象を持たれるかもしれませんが、カルビンさんに言わせると「実はとても保守的で、家族や親戚といった血縁の力が強く、LGBT当事者にとっては、メディアの情報も少なく、学校で同性愛について教えることもなく、ロールモデルもいなくて、決して生きやすいところではない」のだそうです。
「私は子どもの頃から、高校生や大学生になったら自然に、女性に恋愛感情を持つようになるのだろう。そう、思っていました。『自分がゲイである』とはずっと思っていませんでした。しかし、大学時代に、男性の顔や体に惹かれる自分に気がつき、『この感情って、いったい何なんだろう?』と。インターネットで調べたものの、バイセクシュアルなのか、それとも……。セクシュアリティが揺らぎはじめました。その後、家族と離れ、日本で独り暮らしをはじめると、自分のことをじっくり考える余裕が生まれました。家族のことは置いておいて、本当の自分は、いったい? 自分のことを受け入れることができなかったら、自分のことを好きになれないし、そうすると、他人のことも好きになれない。そんな人生、嫌だなあ。そう思ったとき、私はゲイである自分を受け入れ、ゲイとして生きることを、決めました」
香港での学生時代のカルビンさん
Power of Out〜社員の前でのカミングアウト
ブルームバーグ東京に入社し、LGBTの社内コミュニティ「Tokyo LGBT and Ally Community」、通称「BPROUD」の存在を知り、定例会にも参加するようになったカルビンさん。当初のメンバーはほとんどがアライで、特に聞かれなかったこともあり、カミングアウトはしなかったといいます。それでも、「BPROUD」に関わっていくうちに、自分にできることは何かないだろうか、そう考えるようになっていきます。
「ニューヨークやロンドンみたいに、BPROUDのイベントを日本からも発信して開催したいなと思い、自分にできることは何かないかとD&I担当者に聞いてみたんです。そうしたら、BPROUDのリーダーをやってみないかと。少し悩みはしましたが、引き受けることにしました。それで、職場でのカミングアウトにフォーカスした『Power of Out』と題するパネルディスカッションを企画したんです。2018年3月、私もスピーカーの一人として登壇し、聴衆である社員の前でカミングアウトしました。不安もありました。親しい同僚やD&I担当者には公表してはいましたが、不特定多数に向けてのカミングアウトは初めてでしたので。でも、リーダーを引き受けるなら当事者のロールモデルになりたいと思っていましたし、ブルームバーグには、LGBTやD&Iに関する制度やサポート体制も整っていますからね」
2018年の『Power of Out』でオープニング・スピーチをするブルームバーグ会長ピーター・グラウアー氏
このイベントのオープニングでは、ブルームバーグ会長のピーター・グラウアー氏がスピーチをし、LGBT当事者が自分のことを隠さなければならない職場では、パフォーマンスが下がる、という調査結果を紹介し、カミングアウトしても問題のない職場環境づくりを推進していくことを表明しました。また、カミングアウトしたカルビンさんへの反応は好意的なものばかりでした。
「私の話を聞いて涙を流していた同僚もいて、びっくりしました。BPROUDに関わりたいと言ってくれた人もいて、これこそがコミュニティの意味だと思い、すごくやりがいを感じました。その後は、仕事をしていても気持ちが楽になり、変なストレスを感じることがなくなりました」
2018年の『Power of Out』でのパネルディスカッションのもよう
「Tokyo LGBT and Ally Community」の活動
現在、「Tokyo LGBT and Ally Community」には60〜70人のメンバーがいて、そのうち10人くらいがコアメンバーで、毎月1回のペースで定例会を行っています。主な活動は、管理職のための「アライトレーニング」、イベントや啓発活動、セミナーの企画運営です。例えば、毎年5月17日の「国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日(IDAHOT)」には社内で虹色のコットンキャンディを配ったり、10月の「スピリット・デー」(いじめで自殺したLGBTユースを追悼し、LGBTユースへの支援を表明する日)には会社に紫色の服を着てきて一緒に写真を撮ってSNSで発信しているそうです。
5月17日のIDAHOTでは、社内で虹色のコットンキャンディを配っている
LGBT関連の各種イベントにも積極的に参加し、協賛をしています。『RAINBOW CROSSING TOKYO』は2018年からは単独でスポンサーとして参加しています。『東京レインボープライド』(TRP)には2018年から、『レインボー・リール東京』には2016年から、それぞれLGBTファイナンスの一員として協賛しています。
『RAINBOW CROSSING TOKYO 2019』でのブースのもよう
2020年も、コロナ禍のなか、オンラインながらイベントを行っています。
「オンライン開催となった4月の『TRP2020』では、自宅でレインボーの物を持った社員たちが撮った写真をコラージュし、オンラインパレードで発信しました。また、ブルームバーグジャパンのFacebookページにもその写真を投稿し、D&I推進を呼びかけました。プライド月間の6月には、VISA社と共催で『Power of Out 2020』と題してパネルディスカッションをオンラインで開催しました。私もパネリストとなり、職場での自身のカミングアウト体験や、企業としてD&Iを機会あるごとに発信することの大切さなどについてお話ししました」
『TRP2020』オンラインパレードでは社員たちのコラージュ写真を発信
これからのD&I推進活動に向けて
ブルームバーグの社員として、また、「Tokyo LGBT and Ally Community(BPROUD)」のリーダーとして、今後、どのような活動をして、どのようにD&Iを推進していこうと考えているのでしょうか。
「まず、BPROUDの活動に参加してくれる人の割合をもっと上げていきたいです。現在、60〜70人のメンバーがいて、決して少ないわけではないですが、もっと増やしたい。それから、もっと体験型のイベントを実施していきたい。当事者の体験――感じていること、考えていることをイベントの場で共有することで、そこに共感が生まれます。その共感こそが理解を推し進め、D&Iの価値観を深化させると思うのです。そしてより効果を上げるために、社内での宣伝をより強化して、会話の生まれる場を作り、しっかり情報を届けることにも留意していきたいと思っています」
最後に、diversity worksの読者にメッセージをお願いします。
「ありのままの自分を隠すことなく働くことのできる職場にめぐり合うことは、幸せに生きるための重要な条件ではないでしょうか。そのためには、自分のユニークさ、自分の存在を尊重してくれる会社を探すことです。そして、そのような会社では、仕事に集中することができるし、自分の能力を伸ばすこともできるでしょう。自分が合わせるのではなく、自分に合う会社を探してください。必ず見つかると思います」
企業情報:Bloomberg L.P.