diversity works > 職場を知る > 形になるものをつくっていない金融企業にとって、最大の財産は多様な人材しかない
Update on :2020.06.25

形になるものをつくっていない金融企業にとって、最大の財産は多様な人材しかない

大谷英子さん
野村ホールディングス株式会社
ダイバーシティ&インクルージョン推進グループ

設立後90年以上続く証券会社でありながら、今は世界の金融界で影響力を持つようになった野村ホールディングスは26,629人の社員を抱えるグローバル大手企業。約90の国籍の社員が働いており、多様性を尊重した人材育成は最重要課題の一つとしている(※)。その中で「形になるものをつくっていない金融企業にとって、最大の財産は多様な人材しかない」と語るダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)推進グループ長の大谷英子さんに野村ホールディングスのD&Iの歴史とあり方を伺った。※2020年3月時点
 

大谷英子さん
野村ホールディングス株式会社 グループ・コンダクト推進部
ダイバーシティ&インクルージョン推進グループ長


平成3年入社。営業支店から本社に異動し、法人関連の仕事や富裕層向けのサービス提案の仕事などを経て、この春、現在のD&Iグループ長となった。二人の娘を育てながら働いて来た世代の女性として、他の女性のためにも道を切り開いた先駆者でもある。


 

約2000人にのぼる、日本最大級の社員ネットワーク


 野村ホールディングスのダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)推進の仕組みは、トップダウンとボトムアップの2つの取り組みがあると言う。

「トップダウンの仕組みとしては、野村グループ・コンダクト委員会があります。委員会ではメンバーである役員が経営戦略の観点から、D&Iの取り組みを審議します。また、ボトムアップの仕組みとしては、10年ほど前から、社員が自主的に運営する3つの社員のボランティア・ネットワークがあります。「ウーマン・イン・ノムラ(WIN)ネットワーク:女性のキャリア推進」、「ライフ&ファミリー(L&F)ネットワーク:健康・育児・介護」と「マルチカルチャー・バリュー(MCV)ネットワーク:多文化、LGBTA、障がい」と大きく3つのテーマに分けて活動しています。各ネットワークは、それぞれ2名の役員の支援のもと、情報発信や啓発イベントの企画・運営を進めています。各チーム15名程のコア・メンバーが中心的に運営し、登録メンバーは3ネットワークを合わせると約2000名となり、国内の企業でも最大級の社員ボランティア・ネットワークの1つといわれていす。これほどの規模のネットワークを社員が自主的に運営していることこそ、野村ホールディングスの宝だと思っています。」

 

30年前、「超マイノリティ」だった




 大谷さん自身、「L&Fネットワーク」に8年ほど前から関わり、2014年にはネットワークの代表も務めていた。子どもを2人育てながら働き続けてきた自身のキャリアを振り返りながら、こう話す。
 
「子どもを生んで育てながら仕事をするということが、20年前では『超マイノリティ』でした。当時は産休・育休から復職しても、自分以外にフロア内で育休明けの社員はいませんでした。子どもが病気のときに早退したい、定時退社をしたいなど、働き方について上司に相談をすることも難しく、理解してもらうことも大変でした。一方で、『これからは女性の活躍する時代よ、頑張りなさい』と支店のお客さまや、企業をまわっている時に出会ったたくさんの仲間に背中を押してもらえました。

 古き良き日本の会社において、女性活躍は切っても切り離せないキーワードです。今は改善されつつあるものの、まだまだ課題が残っています。私自身は子どもを2人育てながら仕事を続けてきましたが、同じ想いを持っていながらも退職した友だちや先輩はたくさんいるからこそ、状況を変えていきたいという強い思いがあります。」

 

とにかく続けて、ひたすら巻き込む



 2000人規模のネットワークになるまでの、10年間の道のりを振り返り、大谷さんは言う。

「続けるということが、なによりも意味があったんじゃないかと思うんですよ。確かにこの10年、仕事の好景気・不景気があったし、メンバーの出入りもありました。でも、社員ネットワークを続けてきたからこそ、今の2000人規模のネットワークにつながっている。有名人を呼んだ単発的なイベントをやるより、定期的に小さくてもイベントをやり続ける。じっくりじっくり続けることが、社内文化の醸成に繋がるんだと思っています。

また、続ける上でも、社内でD&Iに理解を示しくれる役員や幹部の存在は大きかったですね。自らダイバーシティについて語る役員や幹部は少なくても、D&Iについて話すと共感されたり、身近に考えている方は多いです。『私のことを分かってくれない』と思い込むのではなく、分かって欲しいというのを自分から伝えることで、相手もD&Iについて話すきっかけをつくるのが大事だと思います。とりあえず、身近な役員をイベントに誘って一緒に参加してみる。働きかけ次第と、巻き込んだもの勝ちですね。

 

支店と本社は、持ちつ持たれつ


 野村ホールディングスのような大企業は、本社と支店でどのように連携しD&Iに取り組むかが課題である。これまでも「L&Fネットワーク」の代表後も、支店に出向いた際には草の根活動的に各拠点で現場の社員と交流していった大谷さん。

「支店と本店は持ちつ持たれつで、横のつながりが深い。横連携をもつことで、お互いに影響を与えたり、仲間がいるという安心感が深まったりしました。例えば、「〇〇支店のお母さんが困っている」という情報がどこかからきて、「応援してあげなきゃ」と他の支店のメンバーが連携するというような、自助のネットワークがD&Iの風土醸成に一役買っていると感じます。

 また、支店へのD&I研修にも力を入れています。たとえば、LGBTの取り組みを評価・表彰する指標であるPRIDE指標を4年連続最も上位であるゴールド賞を受賞していますが、そのプレセッションを全国6支店で開催するなど、本社だけでなく支店にもD&Iの風土が醸成されるよう取り組んでいます。そのような取り組みを通じ、LGBTの人に『カミングアウトしてよかった、安心して働ける』と言われたことは、D&Iの担当者としても、ひとりのアライとしても、とっても嬉しかったですね。」

 

マジョリティだと思っていたら、マイノリティに


「野村ホールディングスでは、LGBT、障がい、がんを患っている人などさまざまな人たちの『アライ』を増やすことに力を入れています。自分がマジョリティだと思っていても、病気や加齢等でマイノリティになることもある。だからこそ、マイノリティへのアライを増やす取り組みは、誰にとっても働きやすい職場づくりと同一と考えています。

 また、アライであるということを発信し続けることが大事。私ががんアライであることを知ったお客様が、がんを患っていらっしゃることをお話いただいたこともありました。また、アライであることを発信することは、仲間が増えたり、私もそう思っていると他の人が発信しやすい雰囲気づくりにつながっています。」

 

企業の『カラー』を見極めてほしい




最後に、自身も就活生の子どもを育てる親として、Diversity Worksの読者にメッセージをいただいた。

「これから社会人になるみなさんには、企業の『カラー』を見極めることをおすすめしたいですね。商品のイメージやCMなど、そういうブランドイメージだけでなく、D&Iにどのように取り組んでいるか、人を大事にする企業文化かなど、自分の感性で見極めてほしい。

 また、自分の個性や特性を否定せず、自信をもって社会に出て、自身が実現したいことを大事にしてほしい。自分自身の価値は人と比較するものではないと伝えたいですね。いいことばかりじゃないけれど、自分自身がこうありたいと思い続けることで、世界は広がる。特に今コロナ禍で大変な状況ですが、ピンチをチャンスに変えられることもできます。不安な時こそ希望を持って欲しいですね。」