D&I、DE&I。その推進に取り組む企業は、ここ数年で急速に増加しています。それが「いいこと」「大事なこと」であることは広く認知されていますが、では具体的にどんな意義があるのでしょうか。
(2022年10月29日配信。動画はこちら)
木下梨紗さん
コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社
人財開発部長
99年に大学卒業後、米国保険金融AIGグループ・GE・米国半導体企業・米国大手エンターテイメント企業・コカ・コーラボトラーズジャパンにて、HRとしてRecruiting/C&B/Learning/ODを担当する傍ら、M&Aに伴うIntegration PJCT./Culture changeをリード。社外活動として、日本最大のHRネットワークである「日本の人事部」での講演登壇や勉強会講師。人材開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織であるATDのJapan理事を務める他、プロフェショナルコーチとして活躍中。
森慎吾さん
ソニーピープルソリューションズ株式会社
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進室 室長
人事、ダイバーシティ、採用等を担当。一人ひとりが会社とともに成長し活躍できる環境づくりに取り組み、ソニーの価値観に共感し、新しい価値をソニーに取り入れてくれる人を増やしていきたい。
園部晶子さん
野村ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進室 室長
1991年野村證券入社。資産運用相談のパートナーとして5支店で勤務後、2010年より人事で健康経営の立ち上げに従事、2015年よりダイバーシティ&インクルージョン推進室長として女性活躍や働き方改革を担当、2019年より現職。
前編では、3名それぞれに、企業でのダイバーシティとは何か、などお話しを伺いました。
後編では、個人にとってのDE&Iの意義や重要性とは何か、どう実感しているか、また、今後DEIについてどう考えているか、などをお伺いしていきます。
(中島)木下さんお願いいたします。
わかっているようで、わかっていないことって意外とある
(木下)ありがとうございます。ものすごく個人的な話になってしまうのですが、二つご紹介します。一つは、木へんの漢字というお話と、もう一つは意外と私何もわかってないんだって気づいたというショッキングなお話。この二つが、原動力になっています。
一つ目の木へんの漢字というのは、10年以上前のことです。何かの外部研修に参加させてもらったときに、1分間で木へんの漢字を思いつくだけ書きましょう、というアイスブレイクがありました。
ばーっと書き出していき、私は20個書けました。他のチームメンバーが10個です、15個ですと個数を競うのですが、そのときに「一番多く書けたぜ」と私は思ったんですね。
私、学生の頃から競争するのが好きで「やった、一番多く書けたぞ」って。その後、じゃあどんな漢字を書いたかっていうのをチームでシェアしたんです。チーム全体でダブらない漢字を出したら、4、50個以上になったんですよ。
本当に恥ずかしいんですが、そのときに「あ!」って思って。自分は、自分がどれだけ頑張って、いいことができるかっていうことに夢中になっていたけれども、違う。
私は適当に書き出したけれども、同じチームの人は、木っていうのを真ん中に書いて上下左右にもいっぱい字を書いたりとか、ガーデニングが好きとか言ってすごい樹木の漢字をたくさんあげていたりとか。そういう人たちがいるのを目の当たりにしたときに、「これなんだ」って思ったんですね。
よく「多様な人たちが〜」っていいますが、それまで私はあんまりピンときていなかったんです。「ふーん」なんて思っていたんですけど、こうやって、全然違う考え方とか背景とかを持った人が合わさったら、こんなに全然違う成果になるんだって。たったこれだけのことでも、私はすごく腹落ちしちゃって。これが一つですね。
二つ目は、ウォルトディズニーに勤めていたときの話です。私、友達にもゲイやレズビアンの人がいたので、D&Iの多様性とかっていうものが、普通に周りにあるよねなんていうふうに思っていたんです。
じゃあアライ活動をやろうと思って、ステッカーでアライであることの表明をしましょうかという話をしていたら、友達のゲイの方から、やめてって言われたんです。
理由を聞いてみたら、そうやって表明をするときに「自分はアライ」、「自分は当事者」みたいな話になることがある。カミングアウトしたくないのにせざるを得なくなってしまうことがある、と。
じゃあ、イコールステッカーを作るべきじゃないって話ではないと思うんです。ですが意外とわかったつもりになっていても、わかっていないことってたくさんある。より知ろうとか、よりお互いを理解しようっていうマインドがやっぱり必要なのだと感じました。この二つが私の原動力になっています。
(中島)ありがとうございます。確かにどちらの話も、個人の中で、やっぱりダイバーシティって大事なんだと実感するエピソードでした。
1人ひとり違うからこそ、その違う個が集まったときに、1人ずつの力を超えたパワーになったり、発想になったりするというのは、今は漢字のお話でしたけれども、きっと事業を考えるとか、商品を考える、サービスを考えるというときに同じことが言えるのだろうなと、私もお話を聞いていて実感させていただきました。木下さん、どうもありがとうございます。
そして木下さんのお話の中にもあったDEI、何かわかったつもりとかやっているつもりでも、実はまだまだあったりとか、いやむしろそれを学び続ける、っていうことが大事だったりする側面ってすごくあるなと思っています。
今日はせっかくなので、今取り組んでいらっしゃるDEI推進のことだけではなくて、これからのことも、皆様に聞いてみたいなと思っています。
これからの御社のDEI推進の未来のお話を伺えますでしょうか。
まずは森さん、これからのDEIを語る上で、これがキーワードになるだろうと思うものをいくつか教えていただいて、それぞれどんな背景からそうお考えになったのかを、お話いただいてもよろしいですか。
そこにいる人の顔がきちんと見えているか?
(森)皆さんのお話の中にもありましたが、エクイティという言葉ってちょっと前まで日本にはなかったんですよね。もっと言えば、その前はインクルージョンもなかったですし、ダイバーシティもありませんでした。その後、さまざまな状況があって、エクイティなどの言葉も日本に入ってきたと思います。
一人ひとりが活躍するには、その人が持っている背景だったり、個性だったり、本当にいろんな状況が異なります。一人ひとり違うのにみんなで同じことをやっていたって、うまくいくわけがないですよね。
ダイバーシティの話をする上で、壁があって、その前に三人の人が並んでいて、背の高い人と中くらいの人と低い人と、というイラストを用いることがあります。
背の高い人は、台がなくても壁の向こうが見えています。中ぐらいの人は、台がひとつあれば、壁の向こうが見えます。背の低い人は、台がふたつないと、壁の向こうが見えません。
みんなに同じように一つ一つ台を与えるよりも、背が高い人の台を低い人に渡し、皆が向こうを見えるようにするのがエクイティだということを、この絵は表しています。
自分はこれを、反対側から見てくださいって伝えています。壁があってその手前に人が三人いて、一番背の低い人に台を2つ与えて、向こう側が見えている状態。それを反対側から見ると、まさに3人顔が出ているわけです。だけど、一人一人に1個ずつしか台を与えてないと、壁の向こう側からは2人しか顔が見えないんです。
人が見えないということは、いないとみなされてしまっているということ。そこに人がいるのに、いないっていうのはおかしいですよね。
となるとやっぱり、エクイティは大事だと思うんです。そしてこのエクイティやインクルージョンを作っていくために何が必要かって言ったら、職場の中で自分は「これこれこういうものです」ということをしっかり自己開示できること、それができる職場の雰囲気です。
例えば今日ここに何人か人がいます。木下さんってどんな人なんだろう?もしかしたら怖い人かもしれないって思ったら、こんなにいっぱい自分のことは話せません。だけど、そうじゃないっていうことが、事前の打ち合わせでわかっていたので、今話せてる。これがいわゆる心理的安全性なのかなって思います。
こういう状況を職場の中で作っていかないと未来はないし、職場でできなかったら社会に広がらないと思っています。そして、こういう状況を作っていくことがDE&Iをやっていく未来に繋がっていくんだろうなと思っています。
(中島)森さんありがとうございます。エクイティに関してとてもわかりやすい例えとともにお話いただきました。そしていくつか他にもキーワードとして出てきたかなと思うのが、自己開示や心理的安全性というお話でした。ぜひこのあたり、興味を持ってくださった方はキーワードで検索していただくと、いろんな情報に触れられるかなと思いますので探してみてください。
では、続けて木下さんにもDEI推進の未来、特にこれがキーワードになるんじゃないかと思うものを語っていただければと思います。
アウェアネス(認識を高めていく)とマチュリティ(成熟性)
(木下)ありがとうございます。今の森さんのお話しに加えて2つ、お話しします。ひとつはアウェアネス、二つ目がマチュリティ。アウェアネスとは、認識を高めていくという意味です。
私たちは、認識していないものは見えない。さっき森さんがおっしゃっていた、壁よりも下にいて見えていません、いないことになっていますよという状態になっている人がすごく多いと思うんですね。
今コカ・コーラボトラーズには1万5000人ぐらい社員がいます。この前ちょうど自販機の事業部の社員の方たち1000人ぐらいとオンラインでお話したところ、やっぱりまずDE&Iって言ったときに、それぞれ知っていることの差がすごくあって、もったいないなって感じたんです。
1万5000人いたら1万5000人が全員同じだけ、的確に情報を持っていて認識を高めていく。すごく時間がかかるかもしれませんが、諦めずにどんどんやらなきゃいけないなと思っています。またいろんな情報も日に日に増えていくので、自分達も含めて、アップデートしていきたいなということが一つです。
2つ目がマチュリティ。成熟性というのでしょうか。お互いの違いを良い方向に、建設的に変えていくって実はすごく難しいと思うんです。さっきの森さんの話じゃないですけど、違うってことがきっかけで、原始時代だったら戦いが始まって死んでしまうかもしれない。違うぞと思うと、人間は警戒するような生き物なんですよね。
それを乗り越えて、ディスカッションしてお互いの違いを良い方向にもっていくために、マチュリティ、自分たちがより成熟したマインドを持つことがすごく重要だと思います。アウェアネスとマチュリティ、この二つが将来的に力を入れていきたいところだなと思っています。
(中島)ありがとうございます。違うから怖い、ではなくて、違うというところをまずは知ってみようと思える、そんな一歩も大事だなと思いますし、そのための認識の向上にも私達全体で、社会全体で取り組んでいきたいなと感じました。ありがとうございます。
園部さんはいかがでしょうか。
ビジネスを通し社会に貢献する
(園部)私からは、ダイバーシティを加速させていくためのエンジン、そんなお話をさせていただきたいなと思います。
弊社では、DEIを含むサステナビリティの取り組みを、for our clientsと、for our societyという二つの軸で整理しています。まずこのfor our clientsは、ビジネスを通じて取り組むという意味です。
企業にとって持続可能で、しかも世の中に対してのインパクトが大きいのは、やっぱり“ビジネスを通じて”なんですよね。今の投資の世界では、企業の環境や、社会への取り組みを評価するESG投資が注目されていて、特に今年は人にフォーカスが当たっています。
ダイバーシティに取り組む企業というのがその投資において、ちゃんと評価されるように金融機関として取り組んでいくことで、お客様や世の中全体のDEIのエンジンとなるのではないか、加速させていけるのではないかと考えています。
投資って耳慣れない遠いお話かもしれませんが、やっぱり投資というものには世の中を良くする力があって、誰しも、何をやるにもお金というところからは外せません。
だからこそ、自分の大切なお金を、どう世の中を良くしていくために使うのかということも大事だなと思っています。私は金融経済教育の担当なのですが、小学生には少し難しいかもしれませんが、中学生高校生大学生には、きちんと、良いことをしている企業に皆が投資する世界を作っていかないとね、ということを伝えています。
もう一つはfor our society。自分たち自身がDEIに取り組むことで社会全体に貢献するという意味です。自社にとどまらず、社会を巻き込んだ取り組みが必要で、そうでないとやっぱり世の中変わっていかないのかなと思っています。先ほどご紹介したような社内の取り組みに加えて、例えば女性アスリートやLGBTQなどのマイノリティの方々向けに、金融リテラシー向上の勉強会なんかもさせていただいています。
(中島)ありがとうございます。ビジネスというテーマの元だからこそ持てる影響力ということ、それを使って、会社という枠組みを超えて、世の中に対しても影響を及ぼせるということを聞かせていただきました。園部さんありがとうございます。
それでは最後に、これからの社会に対して、こんなことができたらなど、もしご自身が温めていらっしゃるものなどがあれば、それらも含めて今回このトークセッションを見てくださっている皆様宛のメッセージを、お一言ずつ頂戴できればと思います。木下さんからお願いしてもよろしいでしょうか。
(木下)ありがとうございます。今日皆さんのお話を聞いていても、今、この場だと「あーそうだよね」ってみんな同じ熱量で言っていたと思います。でも日本全体を見たら、一億人以上がいる。やっぱりその一人一人の熱量がぐっと増えていくだけで全然違うパワーになってくるんじゃないかなと思うんです。
今日ここで皆さんにご一緒させていただいて、私もすごくいい機会になりました。そして、このトークセッションの動画を見ていただく方、記事を読んでいただく方、それぞれ、どんどんアウェアネス、自分たちのなかの認知を高めていくことによって、まずは日本全体をより良くしていく。企業の垣根を越えてそういうことに取り組んでいきたいですし、皆さんにもぜひそういうアンバサダー、それを広めていっていただく人の中心になっていただきたいなと思っています。今日はありがとうございました。
(中島)ありがとうございます。まさにそのきっかけのトークセッションになったんじゃないかなと私も感じています。園部さんはいかがでしたか。
(園部)私は先ほども、自分らしく生きるとか働くことがどれだけ人を輝かせるか、パフォーマンスの拡大にも繋がるのかっていうお話をさせていただきました。そういう視点でバックキャスティングという思考で考えていきたいなと思っています。
通常、私たちは現在を起点にして、現在のデータからあの目標に向かってどんなことを積み上げて、より目標に近づいていったらいいのかを考えていると思うんです。これはフォアキャスティングの考え方ですが、これに対して、未来にあるべき姿、ありたい姿、こういうふうになりたいよねっていう姿を実現するために、必要な解決策を見つける思考。これをバックキャスティングと言います。
自分らしく働いたり生きたりするためには、未来から現在に逆算して行動していくっていうことが大事だと思うんです。私もうまくできているわけではありませんが、実感として、バックキャスティングで考えると、最初の一歩が変わるんですよね。頻繁に失敗するんですけど、失敗してあーっとなった時の次の一歩もまた変わるんです。
そんなことを一歩一歩積み重ねていくと、最初にフォアキャスティングで考えていたときよりも、ものすごく自分らしく生きること、働くことに近づいていくのかなと。ぜひ一緒に、みんなでいつもと違う一歩を踏み出していきたいと思います。今日は本当に私もご一緒させていただいて勉強になりました。どうもありがとうございました。
(中島)ありがとうございます。
ありたい自分のことも、ありたい社会の姿も、ぜひみんなで考えられると嬉しいなと感じます。園部さんありがとうございました。森さんからもお願いできますでしょうか。
(森)ありがとうございます。企業は本当にいろんなこと考えているし、一人ひとりのことを見てやっていこうという気持ちももちろんあります。ただそういう中でも、木下さんもおっしゃっていましたけど、怖いものがあったりとすると、避けてしまうというのもこれまた事実で、こういう事実がある中でやっていくことは結構大変です。
ダイバーシティ、ダイバーシティって、いろんな会社で言っていますけど、いわゆる一人ひとりのダイバーシティとかエクイティを本当に担保できる状態って、まだこれから作るのだと思います。
今、もしこれから働こうって思っている方がいたら、皆さん自分一人ひとりの思っているものとか持っているものを、ちゃんとさらけ出して、その状況でさらけだせるような環境をここで作るんだっていう気持ちで、皆さん一人ひとりが働いていただけると状況も変わってくるんじゃないかなって思うんですね。
怖いのでなかなか言いにくいことって本当にたくさんあるし、逆に、マネジメント側からすると、いろんなことをみんなに言われちゃって、それを取りまとめるのが大変っていうこともあるんですけど。
そうは言っても、そういう状況を変えていく、まさに野村ホールディングスさんも言っていましたけど、そういうふうに、一歩進むっていうことを全員が意識してやっていく。それが企業を変えていくし、社会を変えていくということに繋がっていくと思います。
怖さから守ってくれる人も必ずいると思うので、そういうことを思って、みんなで頑張っていけると良いなと思っています。
(中島)ありがとうございます。確かに自分のことを伝えることに、怖さを感じるという方も少なくないんじゃないかと思います。ですがそれを応援して、そして共に歩きたいと思っている大人たちの姿というのも、このトークセッションを通じてご覧いただけたかなと思います。1人1人の方が私にとっての一歩って何だろうか、次はどんなことができるだろうかと考えて一歩踏み出してくださることが、社会の変化にも繋がっていくんだということを知った状態で、今後も対話を続けていけるといいなと感じました。
このトークセッションを聞いていただいてお感じになったことも、お1人お1人違っていると思います。ぜひそのご自身が感じられたことを、次の一歩に繋げていただけると、私たちとしても大変嬉しく思います。
今回はですね、お三方と一緒に、ダイバーシティ推進のリーダーたちに聞く、DEI推進の意義と未来というテーマでトークセッションをお届けいたしました。ご覧いただき、どうもありがとうございました。