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Update on :2020.06.22

「100mダッシュではなく、マラソン」としての持続的なダイバーシティ推進を考える

アリーシャ・フェルナンドさん
ブルームバーグL.P.
アジア太平洋地域ダイバーシティ&インクルージョン代表

 世界の金融経済ニュースとデータを扱うアメリカの大手総合情報サービス会社であるブルームバーグでは、グローバルな視点からダイバーシティ&インクルージョンに常に取り組んでおり、コロナ禍ではいち早く、従業員の多様性を考慮したメンタル・ヘルスに関する支援体制を確立している。香港在住、アジア太平洋地域のダイバーシティ&インクルージョン代表のアリーシャ・フェルナンドさんにお話を伺った。

 

アリーシャ・フェルナンドさん
ブルームバーグ アジア太平洋地域ダイバーシティ&インクルージョン代表

2019年5月、ブルームバーグL.P.に入社。アジア太平洋地域全体のダイバーシティ&インクルージョン推進を担当する。これまで、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)やメルボルン大学のダイバーシティ&インクルージョンの推進に尽力してきた。

 

「インクルージョン・ベーシックス」を創る


 幼いときに戦乱のベトナムを逃れるため、小舟で難民として脱出、海を彷徨ううちにオランダの貨物船に救出され、オーストラリアに移住。異国の地で就職難を経験する両親を見て育った経験から、フェルナンドさんはマイノリティの葛藤に痛いほど共感し、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の必要性を強く認識したという。

 その背景から、フェルナンドさんはキャリアの中で原住民、難民、LGBTQや障がい者などのマイノリティ・グループのエンパワメントに励んできたが、いまでは「特定のちがい」ではなく、「誰もがちがう」ことを前提とした、さらに視野の広いD&Iへの取り組みが必要だという。

「ダイバーシティの定義は「ちがい」ですが、社員一人ひとりの内面まで含めた複雑な「ちがい」を全て把握するのは不可能です。だからこそ、特定のちがいにのみフォーカスするのではなく、全ての社員に対して「インクルージョン・べーシックス」を実現することを目指しています。「インクルージョン・べーシックス」は、どんなちがいをもっていても、全ての社員が歓迎され、安心でき、大切にされ、尊重されていると感じられる、文化の醸成です。誰も取り残されないよう一人一人が自分の「違い」が認められる環境を社内に実現することが、私に課せられた課題と考えています。」

 

「真に重要な目標」を位置付け、全員で進む




 D&Iを実現するには、担当者のみでなく、全ての社員に大きな役割がある、とフェルナンドさんはいう。

「経営者や社員が、「D&Iはやらなければならないことの一つにすぎない」という考えを経営者がもってしまうと、D&Iの方針が支離滅裂になり失敗のリスクが高まります。逆に、全ての社員が、D&Iをビジネス上の戦略や事業に結びつけ捉えている組織では、成功の確率が上がります。

だからこそ私の役割は、様々な視点・データやエビデンスを通じ、D&Iを実現するためにブルームバーグ社員が一丸となり進める”The True North”(真に重要な目標)を設定することです。設定された「真に重要な目標」を実現するために、ブルームバーグでは、様々なレイヤーの取り組みがあります。各地域から集まるシニア・リーダーで構成される「D&I 評議会」では、アジェンダの設定や進捗管理を行ないます。また、社員コミュニティである「ブルームバーグ・コミュニティーズ」では、「D&I 評議会」が策定したアジェンダを受け、イベントやイニシアティブを提案して実行します。ブルームバーグ・コミュニティーズは、全世界に3500人以上を抱え、8つのグループに分かれています。女性、LGBTとアライ、障がい、アフリカン・アメリカン人・ラテン系・アジア人などのエスニシティごとのコミュニティ、子育てや介護等多様なライフスタイルをサポートするコミュニティ、障がいをもつ人の働きやすさを構築するためのコミュニティ、軍人・退役軍人のコミュニティなど、取り組みは多岐にわたります。」

 

アジア地域のD&Iを代表する、2つの取り組み




 ブルームバーグでの取り組みの中で、特にフェルナンドさんが誇りに思う取り組みについて伺いました。

 「D&Iを推進し、多様な人財を受け入れることのビジネス上の価値を示す素晴らしい事例の一つに、「ローカルリーダーシップ・促進プログラム」があります。アジア地域では2018年に導入され、毎年15人から20人の「ハイポテンシャル人財」をローカルスタッフから選んでシニア・リーダーシップのスキルトレーニングなどを通じ、育成します。導入初年の2018年の参加者のうち、76%は昇進したり、より責任の大きい仕事を任せられたりしました。

また、コロナ禍により環境が大きく変化する中、アジア地域のメンタル・ヘルスとウェルビーイングを重大なD&I課題としていち早く位置付けられたことを誇りに思っています。メンタル・ヘルスの課題は、私たち全員に影響がある問題でありながら、特定のコミュニティではさらに影響を受けやすいといった場合があります。しかし、社会的・文化的ちがいから、メンタル・ヘルスについてビジネスの現場であまり公に話されてきませんでした。しかしブルームバーグでは早くからメンタル・ヘルスに意識を向け始め、特にアジア太平洋では様々なプログラムを提供してきました。結果、コロナ禍では、早い時期から社員のメンタル・ヘルスに関するセッションを開催することができてきます。例えば、在宅勤務と育児の両立、もしくは単身世帯の孤立などテーマ別にオンラインでセミナーを開催し、管理職を含む全ての社員がメンタル・ヘルスの重要性について正しい知識と対応策を知ることができる体制を短期間で実現しました。

 

D&Iは100メートル・ダッシュではなく、オリンピック・マラソン


 最後に、今後のD&I推進に向け重要になる取り組みや視点についてお伺いしました。

「他社のリーダーからはよく、「間違えたくない」「取りこぼしている人たちがでてしまうといけないから」などという恐れから、結果的はD&I推進の取り組みに消極的である事例を伺います。しかし、何もしなくては、D&Iは推進されません。場所も時期も関係なく、まず始めなければなりません。間違いを恐れるのではなく、取り組む中で分からないときは謙虚に分からないと言い、間違えた時は軌道を修正し、機敏に対応するのが肝要です。

 また、ブルームバーグがこれから直面する最大の難関は「D&I疲れ」だと考えます。幸いにも、現在は、ブルームバーグでは今はD&Iに関して大変エネルギーに溢れているからこそ、D&Iに対して皆が道半ばで息を切らさず、モティベーションを高く保つかが重要です。D&Iは100メートル・ダッシュではなく、オリンピック・マラソン。だからこそ、安定的に取り組みを持続できるかが重要だと考えています。」

 




企業情報:Bloomberg L.P.