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Update on :2020.06.09

キーワードは、ダイバーシティであり、インクルージョンであり、カルチャー変革

杉崎真美さん
NEC(日本電気株式会社)
人材組織開発部インクルージョン&ダイバーシティチーム

NEC(日本電気株式会社)では、2015年4月に「NECグループ人権方針」を策定し、「基本的人権を尊重し、人種、信条、年齢、社会的身分、門地、国籍、民族、宗教、性別、性自認・性的指向、および障がいの有無等の理由による差別や個人の尊厳を傷つける行為をしてはならない」と定めています。そして、それを踏まえ、事業活動のみならず、会社の制度や研修機会をとおして各自の能力・経験値を上げ、相互を高め合い成長できる文化を創り、事業成長への貢献を目指し、インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)を推進していくことをうたっています。

I&Dを推進していくにあたり、2019年4月、人材組織開発部内にインクルージョン&ダイバーシティチームを新設し、女性の活躍推進、障がい者雇用促進、性的マイノリティ(LGBT)等に対する理解・支援に関する取り組みや施策を展開しています。今回、設立されたばかりのインクルージョン&ダイバーシティチームに2019年10月から加わった杉崎真美さんに、NECグループのI&D推進の現状や目指すところなどについて、ご自身の経験も踏まえて語っていただきました。

杉崎 真美(すぎさき まみ)さん
NEC(日本電気株式会社)
人材組織開発部インクルージョン&ダイバーシティチーム


1995年4月にNECに入社。SEやマーケティング部門、新規事業開発支援業務を経て、2019年10月から現職。社内のI&D推進に尽力している。

 

企業文化の変革の鍵はインクルージョン&ダイバーシティ

 

阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件といった大きな事件が起こり、Windows 95の登場が話題となった1995年。「リケジョ」という言葉がまだなかった時代に、杉崎真美さんは理系の大学院を卒業してNECに入社し、まずはシステムエンジニア(SE)としてそのキャリアをスタートさせました。その後、結婚し、2004年、06年と二人の子供を出産。産休と育休を繰り返し、丸4年ほどのブランクのあと、08年4月に仕事に復帰しました。復帰後は子育てもあって第一線のSEは難しいと判断し、売上分析や顧客分析システムの提案支援のような、少しバックヤード的な仕事に移り、その後は扱っていた商品のプロモーションなどを担当。その延長線上で、マーケティングや新規事業開発に携わるようになりました。

「いわゆる既存のSIビジネスがだんだんと立ちゆかなくなり、弊社も新規事業を立ち上げていく必要に迫られていました。とはいえ、新しいビジネスは急にできるものではありません。そこで、まずは今で言うところのDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めていく新規事業をどうやって生み出していくのか。そのプロセスの設計と人材定義や育成を、現在の仕事の前は担当していました」

この業務に取り組んでいく過程で杉崎さんは、NECがとても「モノカルチャー」な会社だということを、あらためて認識することに。

「これまでのSIビジネスの時代は、ある意味、男性中心で、お客様ファーストで、仕事ファースト。顧客のシステムを納期までに高い品質で納めるために、プロジェクトリーダーは長時間労働もいとわず、家庭をはじめいろいろなものを犠牲にすることがある種当たり前で、それを担っていける人がリーダーシップを取っていく。それに追随できなければ、例えば、私のように一時的に育児などで時間制約がある場合には最前線のSEは難しい。女性は一歩下がった仕事にシフトせざるを得ないような風潮がありました。しかしながら、モノカルチャーな文化では、新規事業につながる新しいアイディアを生み出していくことが難しい。ようやくここにきて、そのことに会社も私たちも気がついたんです。そのためのキーワードが、ダイバーシティであり、インクルージョンであり、カルチャー変革であり、なんです」
2018年4月、企業文化の抜本的な変革を目指し、「カルチャー変革本部」が新設されました。その担い手として、人材・組織開発やI&D推進の経験豊富なプロフェッショナルな人材が外部から新たに加わりました。それによって、会社の本気度が社内に伝わり、目に見えて変革の兆しが現れてきているといいます。

「例えば、新規事業開発においては、できるだけ多様なバックグラウンドを持った人材をメンバーに入れて議論した方が、顧客の切実な課題を捉え、その解決策を導く際にも有効です。また、業種がクロスする案件も増えてきて、そうなったときに、いろいろな経験や知見を持った人たちが混じり合わないと新しいビジネスが生まれない、ということが起きてきました。この会社の同質的なカルチャーを変えないと、これからの時代に生き残れないのではないか。それが、私がダイバーシティに興味を持つきっかけともなりました。また働く上での「壁」はどんな人にもある。それでも前向きに仕事ができる環境が整わないと、優秀な人材が流出してしまう。そんなことを悶々と考えていたときに、I&Dチームの社内公募があり、これだと思って応募し、結果、異動することになりました」

 

本格的な取り組みが始まったLGBT施策

LGBTについての施策は、2015年策定の「人権方針」の中に、性自認、性的指向という言葉が入っていて、これまでも人権問題の一つとして取り組まれてきました。例えば、研修や勉強会の実施、社内の「人権ホットライン窓口」やAlly(アライ)でLGBTの相談も受けられる体制を整え、イントラネットやポスターなどで周知したり、採用活動でのエントリーシートの性別記入欄を削除したり。あるいは、社会起業家支援のプログラム「NEC社会起業塾」ではNPO法人ReBitを支援し(2014年度)、LGBT就労を考えるカンファレンス『RAINBOW CROSSING TOKYO』(ReBit主催)には、スタートした2016年から毎年参加してきました。これらの流れをくんだ上で、2019年にI&Dチームが立ち上がって以降、さらに取り組みが本格化しています。

「2019年10月から、同性婚を含む事実婚も法的な婚姻関係として等しく扱うことになり、それに合わせて14の社内規程を改定しました。具体的には、例えば、同性カップルを含む事実婚においても結婚休暇が使えるようになりました。社内のダイバーシティ理解ということでは、エンゲージメント推進室によって『Diversity Cafe』が定期的に開催されています。こちらもReBitさんの協力を得て、文化醸成や社員エンゲージメント、社員コミュニケーションの一環として、毎回異なるテーマ設定でゲストをお呼びし、ダイバーシティについて語る場を提供しています」

役員向けLGBT研修のもよう


 

キャリア採用と女性活躍に向けての課題

 

ここ最近まで新卒採用が原則の雇用形態で、中途ではあまり人材を採ってこなかったNECですが、一昨年は100人弱、昨年は約270人と、ここに来てキャリア採用者が一気に増えています。これは、社外から新しい知見、新しい風を吹き込むことで、新しいビジネスを展開していこうという方針の表れで、モノカルチャーからマルチカルチャーへ、企業風土を変革していこうとする活動の一助になっています。しかしながら、それによって、また新たな課題も発生しているようです。

「社外から中途で新しい人を迎え入れることに、弊社はまだ慣れておらず、キャリア採用者をスムーズに組織の一員として定着させていくプロセスが構築されていませんでした。いわゆる“オンボーディング”が確立されていなかったんです。そうすると、どうしても配属先の現場任せになり、大なり小なり職場において戸惑いやコンフリクトが生じるようになってきます。対応策としては、例えば、ちょっと慣れてきた入社後3カ月くらいの時期に、同時期に入社した人たちを集めてラウンドテーブルを実施する。入社前と後で感じたギャップは? いま必要としているサポートは? といった項目の事前アンケートに答えてもらい、その結果をシェアして座談会をするんです。「ここが変だよNEC」を皆さんに挙げてもらったり。その中で、重大な事柄や修正すべき点があれば各配属部署に働きかけ、フォローしてもらいます。キャリア採用者には、せっかく社外から“異文化”として弊社の一員になっていただいたので、NECのカラーに染まらず、長年NECで働く私のような社員に刺激を与えてほしいと伝えています」

キャリア採用とともに、杉崎さんが重要な課題として挙げたのが「女性活躍」です。入社して25年。この間、出産・育児も経験しつつ、SEから人事担当へ社内キャリアをシフトしてきた杉崎さんだからこそ、この話題について語る言葉には力がこもります。

「技術系の会社という特性もあってか、私が入社した頃に比べれば増えてはいますが、女性の比率がまだまだ低いのが現状です。2020年の新卒採用で約35%、これをなんとか半々に持っていきたい。そして、全社でならすと女性比率は21.6%になり、これをせめて30%くらいにはしていきたい。また、女性管理職比率は6.2%で、ここが弊社の大きな課題の一つで、リーダーシップ層にまだまだ女性が少なく、役員に限っていえば、社外取締役の1人だけです。これにはいろいろな問題が絡んでいて、登用する側にも、される側にも、課題があると認識しています。例えば、登用する側は、なんとなく阿吽の呼吸で話ができる男性を選ぼうという心理が働いてしまう。あるいは管理職昇進に対して、全般的に女性の方が消極的で遠慮がちな傾向があったりする。これらの要因の一つとしてどちら側にもアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が働いていると見ていて、それに特化したトレーニングを、事業部長以上の管理職に対して実施しているところです」

キャリア採用者を集めてのラウンドテーブルのもよう


 

インクルージョン&ダイバーシティは弱者保護ではない

四半世紀にわたってNECでキャリアを築いてきた杉崎さんは、I&Dの担当者として、また、個人的に、会社のI&Dに対する考え方のどんなところに共感しているのでしょうか。

「共感しているのは、I&Dは、特定のマイノリティを保護することではない、という考え方。女性や障がい者、LGBTなどをラベリングして、マイノリティゆえに働きづらいと思っている人だけを保護するとか擁護するとか、そういう方向性ではないということ。この考え方は、一人ひとりの個性、多様性を受け入れ、お互いを尊重できるカルチャーを作っていくという、弊社が目指しているゴールにもつながっていきます。一人ひとりによくよく話を聞いてみると、実はちょっとしたマイノリティ性を抱えていたり、置かれている状況や事情は個々に様々で、いろいろな要素のグラデーションの中で生きているわけです。そんな個々人の多様性を尊重し、受容できる会社にしていきたいと思っています。
その一方で、制度については、弊社は、実はとてもよく整っていると思います。育児にしても介護にしても。使うことに対して、何か言われることもない。そうなんですが、むしろ逆に、配慮されすぎてしまうところがある。例えば、育児中の女性にはタフな仕事を任せるのはやめておこうとか。その女性のキャリアを考えた時に、本当にそれがいいのかどうか。今後は、本人ときちんとコミュニケーションをとった上でアサインしていくべきだと考えています。ようやくそういった部分にもメスが入るようになってきて、次のステップに移りつつあるのかなと感じています」

I&D推進において、今後の予定や最新のトピックなどを教えてください。

「ここ最近は外国籍の社員が増え、そういう社員へのインクルージョンが課題だと現場からも声が上がってきています。それに対して、この3月には宗教的な配慮が必要な社員のための祈祷室が本社ビル内に完成しました。また、食堂のメニューについても、食文化の異なる社員への検討も少しずつ進められています。マニュアル類や社内の掲示物などは、日本語と英語の併記を推し進めています。
それから、私が今まさに直面しているのですが、この4月から聴覚障がいを持つ新入社員が私の部下として配属されました。お互いに工夫を重ね、時間もかけながら、丁寧なコミュニケーションを心掛けています。とはいえ、配慮しすぎてはいけない。その上、COVID-19の影響で今はOJTもリモートでの対応で、隣に座って一緒に画面を見ながら教えることもできません。どうやって仕事を覚えていってもらえばいいのか、試行錯誤の連続です。しかし、大変ではあるのですが、この経験は必ず今後のI&Dの取り組みに生きてくると思っていて、私自身、この経験をきちんと自分の言葉で語れるようになって、社内で共有していければと考えています」

本社ビル内に完成した祈祷室

社内の聴覚障がい社員の有志ワークショップのもよう


最後に、diversity worksの読者に向けて、メッセージをいただきました。

「皆さんは、日本や世界の未来を背負っていく貴重な人材です。会社や他人に合わせることも時には必要かもしれませんが、そういう小さなことに惑わされず、社会を変えてやろう、日本を良くしてやろう、というような大きな気持ちを持って、自分に何ができるのかを、自分に正直に考えてもらえたら嬉しいです」