商品開発力、資産運営力に強みを持つアセットマネジメント業務を行い、三井住友トラストグループ内において、独自の色を持つ資産運営会社として知られる日興アセットマネジメント株式会社(以後日興アセット)。今回はLGBTQ+の当事者として、障がいを持つ当事者として、社内の環境改善に務めるお二人にお話を伺いました。
ニール・ピーターソンさん
日興アセットマネジメント株式会社
グローバル営業企画部兼コーポレート・サステナビリティ部所属
2016年に入社し、2017年に「ジャパンLGBTQグループ」を立ち上げる。現在はリードを退き、当事者の立場からアドバイザーを務める。
手塚久野さん
日興アセットマネジメント株式会社
財務会計部所属
2022年入社。本業のかたわら、社員の有志からなる「ジャパン障がい者グループ」のメンバーとしても活動する。デフリンピックアルペンスノーボード元日本代表。
社会全体に前向きな影響を与えたい
最初にお話を伺ったのは、入社7年半になるニールさん。まずはニールさんの経歴を教えてください。
ニールさん「私が日興アセットに入社したのは2016年、23歳のときのことです。元々は派遣社員として入社し、2年目から正社員になりました。入社当初はデジタルマーケティングの業務に携わっており、主にWEBサイトに載せる画像や動画の編集を担当していました」
現在はどんな業務をされているのでしょうか。
ニールさん「現在はグローバル営業企画部と、コーポレート・サステナビリティ部を兼務しています。グローバル営業企画部は文字通り営業戦略などを考える部で、2020年から。コーポレート・サステナビリティ部は各D&Iグループを管理する部で、2019年から所属しています」
ニールさんは、コーポレート・サステナビリティ部の所属になってから、社内のD&I推進活動に携わるようになったのでしょうか。
ニールさん「いえ、それ以前から携わっています。日興アセットでは、いわゆるD&I推進グループのことを『サステナビリティ・グループ』と呼んでいます。そして日興アセットで初となるサステナビリティ・グループ、『ジャパンLGBTQグループ』を2017年に立ち上げたのが、私自身なんです。その後ウィメンズ、障がい、環境、フィランソロピー(社会貢献活動)など様々なテーマのグループが立ち上がり、現在コーポレート・サステナビリティ部でそれらのすべてのグループを管理しています」
「グローバルに11のサステナビリティ・グループがある」とニールさん。
ニールさん「グローバルでは、国際女性グループ、グローバル人種平等グループに加え、例えばシンガポールならアジアサステナビリティ・グループといったように、各拠点にグループがあります。日本を含めると全部で11のグループがあり、私はそのうちLGBTQとグローバル人種平等グループを担当しています。LGBTQのグループに関しては元々私がリードを務めていましたが、今はアドバイザーのような立場を務めています」
ニールさんは、日興アセット内にコーポレート・サステナビリティ部が作られた理由について、こう説明します。
ニールさん「日興アセットは10カ国以上にオフィスをもっており、30の国籍からなる従業員が働いています。そしてD&Iの取り組みによって、すべての従業員のアイデンティティに関わる問題や課題を解決できるようサポートしたいと考えています。しかしこういった問題や課題を、1人1人の従業員が提議していくのは困難です。まとまった人数で定期的にミーティングをし、課題を見つけ、解決の方法を模索する。そのために会社として、専任のコーポレート・サステナビリティ部が必要だと考えたんです。今後は社内の環境を改善しながら、業界内外でのモデルケースとなり、社会全体に前向きな変化をもたらすことを目標としています」
具体的には、どのような活動をされてきたのでしょうか。
ニールさん「大きなものとしては昨年、会社全体でグローバル人種平等アンケート調査を行い、約600名の従業員に参加してもらいました。そしてそのアンケートでは、89%が『日興アセットで人種差別を経験していない』、92%が『同僚・上司と良好な関係を築けている』と回答しました。とても喜ばしい結果だったと思います。ただこのアンケートは、その結果を見て安心するためにやったものではありません」
「アンケートの目的はあくまでも改善点を見つけること」とニールさんは続けます。
ニールさん「回答の中には『D&Iに関する教育やトレーニングをもっとやって欲しい』『もっとオープンな環境を目指して欲しい』というものもありました。課題には違いありませんが、こういった意見が出ることは当事者として嬉しいことです。他にも様々な意見があり、今後D&I活動を続ける上で非常に役に立ちました。他の会社もやっているからと適当にD&I活動をするのではなく、ちゃんと調査しデータを収集し、従業員がどのような活動を求めているかを知ることが大切だと思っています」
ニールさんはD&I推進活動を続ける中で、どんな時にやりがいを感じますか。
ニールさん「やはり変化を感じたときですね。これは、私ととても仲の良い同僚の話です。その同僚が、私が出るLGBTQの社内パネルディスカッションを聞きにきてくれたことがあったんです。パネルディスカッションを終えた私のところに来て、同僚はこんなことを言いました。『今までは同性婚って本当に必要なのかなって疑問に思っていた。でも今回のディスカッションを聞いたら、その必要性がわかった。感動した』。彼女は友人のような存在ですが、LGBTQなど個人の話は、あまりする機会がありません。こういった機会を通し、関心を持ってくれたことがすごく嬉しかったです。それから彼女は、LGBTQの活動に参加してくれるようになりました。今ではアライになっています」
また個人だけでなく、会社全体でも変化が見られているとニールさんは言います。
ニールさん「2017年にグループを立ち上げたときは、グループメンバー以外にはまるで関心を持たれていませんでした。イベントをやっても、参加者はほとんどグループメンバーだけ。それが今年6月にイベントをやった際には、100人が参加してくれるようになったんです。参加者の中には社長や会長の姿もありました。そのクラスの方が前向きに参加されているのは、ものすごくありがたいし、心強い。社長や会長としても、従業員と直接コミュニケーションをとったり、ヒアリングをしたいことがあると思うんです。我々の活動がその良い機会になっているのかなと思いますね」
ではニールさんの現在の目標を教えてください。
ニールさん「LGBTQグループの、アライネットワークを構築したいと考えています。アライネットワークについては、定例会でもよく議題にあがるんです。何をアライの定義とするのか。そのネットワークにどんな情報を発信するのか。何となく作るのではなく、ちゃんと意味のあるネットワークにしたいんです。もしLGBTQのアライネットワークが成功すれば、他のグループにも同じようなネットワークを立ち上げられるかもしれません」
それでは最後に、読者の皆様へのメッセージをお願いします。
ニールさん「気になる企業のD&Iについて知りたいときは、実績を残しているか、実際に変化を与えているかどうかを調べ、具体的な効果を明らかにしている企業を選ぶといいと思います。実績がない企業の場合は、今後のプランなどを調べ、本当に変わりたい、改善したいと思っている会社なのかを見極めて欲しいです。とはいえ、完璧な会社というのはありません。自分らしく働きたいのであれば、時に自分の努力も必要です。入社後のグループ活動への参加なども、ぜひ検討してみてください」
障がいの有無ではなく、私の実力を受け入れてくれた
続いてお話を伺ったのは、財務会計部に所属する手塚さん。手塚さんは日興アセットに入社して2年目になります。
手塚さん「私は2022年の2月に、日興アセットに中途入社しました。それ以前は外資系製薬会社で、デザイン制作業務や購買関連、物流関連、財務関連の一般事務を担当していました」
手塚さんはなぜ日興アセットに転職をしようと思ったのでしょうか。
手塚さん「転職活動は初めての経験だったのですが、予想以上に厳しいものでした。私は病気に伴う副作用により、小さい頃に聴力を失っています。聴覚障がいには『コミュニケーションの不便』というネガティブなイメージがあるためか、受け入れてくれる企業はなかなか見つかりませんでした」
度重なる失敗。出ない結果。それでも手塚さんは、
「不可能を可能にする」
「失敗を繰り返し、最後は成功する」
「採用してくれたら、これまでの社会風土、コミュニケーション方法を変え、絶対に幸せにしてあげる!」
と、自分で自分を鼓舞し続けたと言います。
手塚さん「そんなときに出会ったのが、日興アセットでした。まず事業内容を確認したところ、これまでに経験していた仕事と重なる部分があったので、『私に合うかも!』と感じました。そしてグローバルな企業であることを知り、さらに興味を持ちました。パラリンピックの選手を輩出しているというのも、惹かれるポイントのひとつでしたね」
実は手塚さんも、アルペンスノーボードの元日本代表。2015年には、ロシアで行われた冬季デフリンピックにも出場しています。
手塚さん「日興アセットという会社を知れば知るほど、『入りたい!』という気持ちが強くなりました」
その後、見事面接を突破し、日興アセットに入社した手塚さん。現在の業務はリモートワークが大半であると言います。
手塚さん「電話対応できない私にとって、メール、チャット、筆談は生命線です。リモートワークは私にとって働きやすい環境と言えます。会社に出勤するのは、プリントアウトが必要な時、封筒確認が必要な時、リモート会議で顔出しが必要な時ぐらいですね」
これまで行なった業務の中で、印象的だったものはありますか。
手塚さん「入社して10ヶ月目に、グローバル向けの社内セミナーで『デフリンピック体験から、ビジネスリンピックへの挑戦』についてプレゼンをしました。私の手話、手話通訳、英日同時通訳というマルチリンガル通訳を経由し、グローバル向けに配信をしたんです。プレゼンの準備のため、たくさんの人に力を貸してもらいました。チームワークの喜びを感じることができましたね。障がいの有無ではなく、私の実力を受け入れてくれて、とても感謝しています」
社内のサポート体制についてはどう感じていますか。
手塚さん「上司や同僚は、メールやチャットで丁寧に仕事を教えてくれました。とてもありがたかったです。ただ外部セミナーに参加した際、耳が聞こえない方へのサポートが乏しいと感じたこともありました。というのも、外国人向けの英語通訳はあるのに、耳が聞こえない方への通訳が用意されていなかったんです。私は自分のことを、耳が聞こえない国から来た在日外国人だと思っています。『なんで耳が聞こえない国には通訳してくれないんだろう』と違和感を感じ、会社に改革を求めました。時間はかかりましたが、最終的に文字通訳の派遣を受け入れてもらえました。現在も私は、多くのセミナーに参加しています。私からの質問は、チャットを通して司会者に届くなど、サポートをしていただいています」
私がコミュニケーション方法を変える。就活時に自分を鼓舞した言葉が、実現したかたちです。
手塚さん「ただ、難しいこともあるんです。例えば社内の極秘情報などに関しては、文字通訳を派遣するわけにもいきません。今は社内でITサポートと組み、試行錯誤しながら、AI文字起こし方法を設定するなど共同活動を行なっています。もし周りからのサポートがなかったら、実現できなかったと思うと、感謝してもしきれません」
不可能を可能に。失敗を成功に。「コミュニケーションが不便」というネガティブイメージを覆すため、耳が聞こえない国から来た同郷者をサポートするため、手塚さんは今日も活動を続けます。
手塚さん「これからも遠慮せずに発言し続け、問題を改善していきたいと思っています。優秀な才能を、障がいへのサポートが不十分なために逃してしまうのは、会社としてももったいないと思うんです」
そして手塚さんには、今待ち望んでいるものがあると言います。
手塚さん「女性リーダー、LGBTQリーダーと同じように、障がい者リーダーが必要だと思っています。そのロールモデルがあれば、コミュニケーションや設備の改善などが進み、障がいを持つ方がより働きやすい環境になるはずです。責任は重大ですが、それが達成できれば、本当のD&Iになると思うんです」
では最後に、手塚さんから読者の皆様へメッセージをお願いできますか。
手塚さん「新たなアイデアは、失敗や反省から生まれます。『失敗は成功のもと』。『逆境を力に変える』。挫折しそうになったらまずは自分を落ち着かせ、ポジティブモードに、笑顔に切り替えていきましょう。知らなかったことを学び、ありのままの自分を受け入れ、思い込みを反省し、その経験を活かして次のステップにいけば、最終的には必ず成功します。どんな環境でも、大切なのは逃げないことです。失敗は怖くない。人間は、毎日チャレンジです!」