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Update on :2023.03.30

社員の活動がカルチャー変革を加速する ~マイクロソフトのERG~

篠田景子さん/守屋和彦さん
日本マイクロソフト株式会社

OSで圧倒的シェアを誇る「Windows」、また近年ではクラウドサービスの「Azure」、ゲーミングの「Xbox」や検索エンジンの「Bing」など幅広いビジネスポートフォリオを持つマイクロソフトは世界で最も影響力のある企業のひとつと言っても過言ではないでしょう。

今回お話を伺ったのは、1986年に設立された日本マイクロソフト株式会社で活躍するお二人です。世界的IT企業のD&I活動とは、どのようなものなのでしょうか。

 

篠田景子 さん (右)
GLEAM(グリーム) LGBTQIA+のERGリーダー
社長室 ビジネスプログラムマネージャー


守屋和彦 さん(左)
disAbility (ディスアビリティ、障碍者)ERGのコアメンバー
デバイス パートナー セールス統括本部 アカウント テクノロジー ストラテジスト

 

すべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるように


篠田さん「私は2016年に新卒で日本マイクロソフトに入社しました。入社時は法人営業部に所属し、企業のお客様を担当していました。現在は社長室にて、社内イベントの企画や運営に携わっています。

守屋さん「私は元々アメリカのゲーム関係の会社で働いていて、2003年に日本マイクロソフトに転職をしました。転職当時はMac版Officeの開発部。10年ほどしてからXbox事業部に異動しました。実はその後一度退社をしているのですが、ご縁があって復帰をすることになりました。現在は日本のサーバーメーカー様やPCメーカー様を対象に、技術セールスを行っています」

お二人が、業務と並行して力を注ぐのがERGとしての活動。グローバル全体で組織されている9つのERGのうち、日本マイクロソフトでは

・GLEAM…LGBTQIA+とアライ
・disAbility…障碍への理解やアクセシビリティ
・Women…女性のキャリアやライフプラン
・Families…家族に関わる様々なライフイベント(出産・育児・介護)

という4つのERGが活動しており、篠田さんはGLEAMの代表者、守屋さんはdisAbilityの創設に貢献したコアメンバーにあたります。

篠田さん「マイクロソフトの企業ミッションは、『地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする (Empower every person and every organization on the planet to achieve more)』です。
私たちがこのミッションを実現するためには、世界中のありとあらゆる人が必要としているものを理解しなくてはいけない。そのためには、私たちマイクロソフトの中に世界と同じ多様性を持つことが必要不可欠です。
また「すべての個人」には、マイクロソフトで働いているすべての社員も含まれます。様々な個性をもった社員がありのままの自分らしく働くことで、新たなアイデアやイノベーションが生まれ、企業ミッションの達成に近づくことができるのです。
テクノロジーの力で世界をリードする企業の一つとして、多様性を重要視する文化を体現することは、より良い社会を作るためのマイクロソフトの責任であるとも考えています。

守屋さん「D&Iの実現には、日常的に考え、耳を傾け、学習することが必要です。社員一人ひとりが互いへの認識、理解を深めることを自分事として捉え、実行してこそ 、より明るい未来を共に築くことができると考えています。日本にあるERGは4つですが、世界的に見ると退役軍人のERGなど、日本ではあまり馴染みがないであろう様々なERGがあります。これまでは各ERGや各国のD&Iの取組みは、それぞれがやや独自かつ単発の活動に至っていたところがあったのですが、より社内での連携と統一が重視されるようになってきました。今年は、『インクルージョン イズ イノベーション (Inclusion is Innovation)』というスローガンのもとで、グローバルのマイクロソフトとして中長期的な目標のもとでD&I活動に舵をきり、物事を進めていく動きになっています」

篠田さん「ERGの活動はあくまでも本業ではなく、本業プラスアルファの活動です。しかし先ほどもお伝えしたように、D&I文化の醸成はすべての社員が取り組むものと考えられているので、会社の評価基準にも組み込まれています。社員一人ひとり、D&Iに関する自身の計画を立て、できることに取り組んでいくのです。また会社のトップからも、D&Iは社員全員で取り組むものだと明確なコミュニケーションがされています。


 

居心地が良く、100%のパフォーマンスを出せる会社に

 

ではまず、篠田さんが代表を務めるGLEAMについてお聞かせください。

篠田さん「GLEAMという名前は、Global LGBTQIA+ Employees and Allies at Microsoftの頭文字を取ったものです。アメリカ本社では1980年年代に発足し、日本では2013年に日本支部が作られました」

そんな篠田さんが代表の座を引き継いだのは2021年のことでした。

篠田さん「内定をもらったあと、人事の人に『マイクロソフトではこういう活動もしているよ』とERGについて教えてもらっていたので、GLEAMのことも入社前から知っていました。入社してすぐ、GLEAMの活動に参加しました」

日本でGLEAMが設立し2023年で10年が経ちます。時代の移ろいとともに、そのミッションも少しずつ変わっていると篠田さんは言います。

篠田さん「10年前はまだ、LGBTQIA+は触れてはいけない話題という風潮があったように思います。でも、知らないだけで実際にLGBTQIA+の方はすぐそばにいます。先代のメンバーはまず、LGBTQIA+とは何か?という基本的な知識の普及運動を進めていました。でも時間は流れて、今のGLEAMで大きなトピックとなっているのは『同性婚』です。私自身レズビアンで、一緒に生きていきたい大切な同性のパートナーがいます。周りにも、結婚を望む同性カップルをたくさん知っています。今、日本社会でも同性婚が議論されていますよね。そんな背景もあり、GLEAM そして日本マイクロソフトは、日本における同性婚実現の法整備に賛同するという姿勢を表明し、活動を続けています」

そしてその活動の影響を、社外にも届けたいと篠田さん。

篠田さん「マイクロソフト社内ではすでに、異性間での結婚と同性同士のパートナーシップ(自己申請制)が同じ扱いになっており、結婚休暇も同じように取得できます。しかし、今の日本では残念ながら同性婚は認められていません。これは、主要先進国といわれるG7の中で日本だけです。私はGLEAMの活動を通し、日本の法律を変える一つの力になりたいです。そして、LGBTQIA+に限らず、一人ひとりの個性を認め それを喜べる社会づくりに繋げていきたいと思います」


では実際に、GLEAMはどんな活動をしているのでしょうか。

篠田さん「社外・社内と積極的に活動していますが、社外向けの活動では大きく2つあります。ひとつは東京レインボーパレードへの協賛。企業スポンサーという形で、2016年から参加しています。そしてもうひとつは、Business for Marriage Equality(ビジネスフォーマリッジイクオリティ)というキャンペーンへの賛同です。これは婚姻の平等実現を目指すキャンペーンで、我々のような外資系IT企業も多く賛同しています。企業から国と社会に対して、『ビジネス、経済活動の観点からも、我々は同性婚の法制化を重要だと考えている』という意見をこのキャンペーンを通して発信しています」

また篠田さんは、社内での活動についてもお話してくれました。

篠田さん「私の場合はレズビアンであることを周りに伝えていますが、職場でのカミングアウトは個人の選択です。してもいいし、しなくてもいい。その選択肢があることが大切です。会社という組織は心理的安全性があり、社員それぞれが自分らしく100%のパフォーマンスを出せる環境であるべきだと思っています。当事者あるあるなのは『彼氏・彼女はいるの?』『好きな異性のタイプは?』といった質問が答えにくいということ。私もそういった質問のたびに嘘をついていた過去があり、それがすごくストレスに感じていました」

そこで篠田さんが目をつけたのが、インクルーシブランゲージ。包摂的、中立的な表現を行う言語です。

篠田さん「例えば『彼氏・彼女はいるの?』という質問を、『パートナーはいるの?』という言い方に変えるだけで、私たち当事者はすごく答えやすくなるんです。YESかNOかで答えればいいし、嘘をつかなくていい。マイクロソフトでは四半期~半年に一度、全社向けのD&Iイベントを行っていますが、前回のイベントではこのインクルーシブランゲージを紹介しました。その後、多くの同僚から『すごく勉強になったよ』『私生活でも意識しているよ』と声をかけてもらい、とても嬉しく感じました」

そしてこのような活動ができるのも、先代やメンバーの努力があったからこそだと篠田さんは言います。

篠田さん「今GLEAMのコアメンバーは私を含めて6人。活動に参加してくれている社員は200人ほどになります。元々は予算も少なく活動の幅も限られていたのですが、皆が頑張っていく中で、これは企業として必要な活動だと経営陣にも認識され、予算も得られるようになりました。東京レインボープライドへの参加を楽しみにしてくれる社員も年々増えて、活動の成果を感じます。LGBTQIA+の当事者は、自分の大切な家族や友人・同僚、そしてお客様・パートナー様の中に必ずいます。これは統計的に明確な事実です。LGBTQIA+は、自分には関係ない遠い世界の話ではなく、自分にも関係があることなんだという認識が根付いてきたのは嬉しいことです」

守屋さん「自分もアライとして楽しみにしています!」

守屋さんはそう言って、手首に巻いたレインボーバンドを見せてくれました。

 


障碍があってもなくても、平等に仕事ができる環境を作りたい

 

一方守屋さんは、障碍をテーマにしたERG・disAbilityの創設メンバーです。そもそもなぜ守屋さんは「障碍」に課題感を抱き、活動を始めるようになったのでしょうか。

守屋さん「姉に知的障碍があり、障碍を持つ方々に何か支援をしたいという想いをずっと抱いていたんです。入社して数年が経ちたまたま国際アビリンピック(国際障害者技能競技大会)が静岡で開催されることを知り、ボランティアに応募をしました。私の担当は、視覚障碍を持つタイのマッサージ師とお客様のコミュニケーションをサポートする、日英通訳でした。そこから知り合いができコネクションができて、社外での障碍者支援活動が活発になりました」

「これをマイクロソフトでもできないか」。当時、守屋さんは、そう考えたと言います。

守屋さん「障碍があってもなくても、平等に仕事ができる環境を作れないかと思ったんです。見えないだけで、聞こえないだけで、動けないだけで、優秀な方はいっぱいいます。そういった方を受け入れられる体制を作りたいなって」

ここから、守屋さんのマイクロソフトでのD&I推進活動がスタートします。

守屋さん「でも、例えば突然目が見えない人が会社に来ても、皆どう対応していいのかわからないですよね。会社の施設にしても、使いづらい部分が多くありました。そこで社員の皆さんに、障碍者体験をしてもらったり、耳の聞こえない方や車いすの方をイベントにお招きして自身の経験や意見をお話頂いたり、どのように障碍者と接するべきかを啓発するところから始めました」

初めは2、3人での活動だったと当時を振り返る守屋さん。やがてその活動が実を結び、2019年にはdisAbilityが会社の公式なERGとして認められることになります。

守屋さん「それからは活動の輪が広がりましたね。オフィスビルをリニューアルした時には、disAbilityに参加してくれているメンバーで、目が見えない方、車いすの方から意見をもらいました。段差があったり通路が狭かったりすると車いすの方は困るし、色盲や弱視の人からするとカーペットの柄が段差に見えてしまうこともあります。ドアの重さやシンクの高さも同様です。ERGのメンバーが実際に設備を確認し、改善計画に取り入れてもらいました」

そして、元々のテーマであった障碍を持つ方の受け入れについても、結果が出ていると守屋さん。

守屋さん「マイクロソフトには、ITラーニング(以降ITL)という2年間の障碍者用プログラムがあります。精神、身体に関わらず、障害者手帳を持つ方が、技術やビジネスを学ぶインターンシッププログラムです。これまでITL生は、修了後の道は自分で探す場合がほとんどでした。ですが近年、修了後にインターンシップという形で、マイクロソフトの各部署に配属される枠を拡大することに成功しています。インターンシップ後は、継続雇用の可能性もあります」

守屋さん「面接に先駆け、disAbility ERGのメンバーで、各部門へプレゼンを行うんです。『この方にはこういったスキルがあります』『こういった方が卒業するので、インターンシップとして面接の機会を頂けませんか』と、採用責任者に直接ITL生の魅力を伝えるようにしています」

そして各部門にて採用枠を設けるかどうか検討され、数回の面接を経て採用が決まるのだそう。

しかしそんな守屋さんにも、まだ課題があると言います。

守屋さん「実際に障碍を持つ方を受け入れるには、特別な費用が発生する場合があります。例えば目が見えない方に細かく読めるスクリーンリーダーを用意するとなると、1人30~40万円かかる。そうなると採用部署の予算不足で採用を見送らなければならない可能性も発生します。そうならないために、マイクロソフトにはアコモデーションという制度があります。例えば目が見えない方のスクリーンリーダーの費用や、耳が聞こえない方の手話通訳の費用を、日本の各採用部署ではなくアメリカ本社が支払うというものです。こんなに良い制度ですが、まだ知らない社員も多い。同制度の周知活動も続けています」

その方が持つポテンシャルと、それを伝える守屋さんたちのサポートにより、今年ITラーニングからインターンとして受け入れられた方は7名になりました。

守屋さん「去年は1、2名の採用だったので、今年の結果には嬉しさも達成感も感じましたね。最近ではdisAbilityで手話クラブを立ち上げました。私の妻には聴覚障碍があるので、社員の皆が手話を覚えてくれるのはとても嬉しく思います。完璧に習得できなくていいので、手話を言語として認識して欲しい。また新たな目標が増えました」

 

皆さんに伝えたい「私の職場」

 

最後に、篠田さんと守屋さんのお二人から、読者の皆様へのメッセージをいただきました。

守屋さん「障碍があってもなくても、平等に働ける環境を提供するということを一番に考えています。障碍があるから応募できない、遠慮しちゃう、ではなく、どんどん積極的に応募してください。会社のサポートもあります!」

篠田さん「学生や社会人の皆さんから、『マイクロソフト=技術のイメージ。ゴリゴリのエンジニアばっかりいそう。私には応募できない』と言われることがよくありますが、実際にはそんなことはありません。会社の中には様々な役割があり、私もエンジニアではありません。また、守屋と私がここまでお話しした通り、とても働きやすく、D&Iに関しても努力を続けている会社なので、ぜひ興味があればチャレンジしてほしいです。お待ちしています」