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Update on :2020.06.09

個性や自分らしさは仕事をする上での武器

田口周平さん
ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ

ゲイであることをオープンにし、ヘルスケア企業「ジョンソン・エンド・ジョンソン」の人事部で働く田口周平(たぐち しゅうへい)さん。

LGBT&アライ*の社員グループ「Open&Out Japan」の発起人であり、現在はOpen&Out アジア・パシフィック地域の代表も務めていますが、実は当初は、自分のセクシュアリティを公表し、グループのリーダーとして活動することに、大きな不安を抱えていたそうです。

どのようにして不安を乗り越え、自分らしい働き方を見出してきたのか、そのストーリーを伺いました。

*アライ=LGBTの支援者、応援者

田口 周平さん 40歳
ジョンソン・エンド・ジョンソン 日本法人グループ
人事部 Japan HR Operations & Shared Services
HR スペシャリスト兼 Open&Out アジア・パシフィック地域代表

HRスペシャリストとして、福利厚生、異動の手続きなど、社員の入社から退職までの間に発生する人事業務全般に幅広く携わるかたわら、LGBT&アライ社員グループのアジア・パシフィック地域代表として国内外でのLGBT啓発活動に取り組む。

 

職場ではカミングアウトしないことが当たり前だと思っていた

 

田口さんは就職氷河期まっただ中の2000年代初頭、スポーツジムでキャリアをスタートさせました。その後、外資系ゲーム会社、精密機器メーカーを経て、ニューヨークに1年間留学。国際関係学を学びました。

これまでの仕事について「どれも楽しかった」と話す田口さんですが、自身のセクシュアリティについては、職場でほとんどオープンにしていませんでした。「職場では言わないことが当たり前だと思っていました。カミングアウトしたら何が起こるか想像がつかないし、考えてもいませんでした」

 

3名の面接官の個性の違いに驚いたジョンソン・エンド・ジョンソンとの面接

 

2011年、ニューヨークから帰国後、「人事」という軸で転職活動をスタート。複数の会社と面接を重ねながらも、「リーディングカンパニーで、やりがいのある仕事がしたい」という思いからジョンソン・エンド・ジョンソンに応募しました。

「この時は、ダイバーシティ推進が進んでいる企業じゃないと絶対に嫌だ!といったような、強いこだわりはなかったのですが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの面接で出会った3名の社員が、見事に全員全く違う個性を持っていてとても驚きました。こんなに違う人たちが働いているなんて、いったいどんな会社なんだろう?と興味を持ちましたね」


 

ダイバーシティに本気で取り組む会社。でも足元では偏見に遭遇することも

 

入社後、障がい者雇用の担当になった田口さんは、業務を通して、自社のダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)推進に関する理解を深めていきました。「知れば知るほど、上辺だけじゃない、本気のD&I推進をやろうとしている会社なんだと分かりました」

しかしその一方で、当時の実際の職場では偏見に遭遇することも。「ある日エレベーターの中で、他の社員がいわゆるオネエ系タレントを嘲笑している会話が聞こえてきて…。そのころはまだLGBTという言葉も知られていない時代で、性的マイノリティに関する理解はまだまだなんだな、と残念に感じました」

そんな偏見を目の当たりにしたこともあり、田口さん自身も、ゲイであることをほとんどの同僚に伝えることなく働いていました。

 

ストレスや不安が募る日々。耐えかねて信頼できる人に相談したところ…

 

入社から数年が経ったある日、アメリカ本社のチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(D&I推進の最高責任者)と話す機会があり、アメリカとカナダには「Open&Out」と呼ばれるLGBTとアライの社員グループがあることを初めて知りました。すぐにメンバーになり、彼らの活動を知るほどにさらなる興味が湧いてきた田口さん。それと同時に、日本とはかなり異なる彼らの状況を羨ましくも感じていました。

また、そのころ日本でも、渋谷区の同性パートナシップ条例が施行されるなど、LGBTを取り巻く環境が大きく変わり始めていました。そんな変化を目の当たりにして、このままここで働き続けることができるのか、不安やストレスが募り始めます。

思い悩んだ田口さんは、当時参画していたプロジェクトで一緒だった、オーストラリア人の人事ディレクターに相談することに。自身がゲイであること、それを隠して働くことにストレスを感じていることを打ち明けました。


するとその人からはこんな言葉が。「進む道はふたつ。ひとつは、このままゲイであることを隠して働くこと。大きく傷つくこともないと思うけれど、あなたはいつか会社を去ってしまうかもしれない。もうひとつは、自分でアクションを起こして、この状況を変えること。傷つくことや辛いこともあるかもしれない。だけど、あなたが起こした行動が必ず何かに影響を与えるはず。どちらに進むのか2週間後に答えを聞かせてほしい」

悩みに悩んだ末、田口さんは2週間後、「とにかく何かやってみます!」と決意を伝えました。

 

緊張の全社員にカミングアウト!同僚からの反応に会議室で仲間と涙

 

その後の田口さんは破竹の勢いで行動を始めます。Open&Outの日本支部を立ち上げるため、まず7人の同僚に声をかけメンバーを集めます。日本法人グループの社長会でプレゼンを行ったところ、「今すぐにでも実行しよう!」という強力なサポートを得ます。そして2015年8月に立ち上げが決定、同年10月には正式に「Open&Out Japan」を発足させました。


そして田口さんが「忘れもしない」と話す2015年10月21日。全社員にOpen&Out発足のメールが配信されました。田口さんのセクシュアリティも公表され、メールが送られた瞬間「もうこの会社にはいられなくなるかも…」と震えが止まりませんでした。

ところが不安とは裏腹に、田口さんのメールボックスには次々と応援のメッセージが届きます。「1時間以内に20~30もの人からメールを貰いました。『一緒に仕事をしていたのに知らなかった、今までもし傷つけていたとしたらごめんなさい』『自分の子どもが大人になった時に心から応援できるように、会社の活動を通して勉強したい』といったメッセージを見た瞬間、嬉しくて嬉しくて…メンバーで会議室に集まって泣きました」

 

まもなくOpen&Out5周年。振り返って感じる社内の変化

 

そんな立ち上げから、2020年10月で早くも5周年を迎えるOpen&Out Japan。7人だったメンバーも今では160人を越えるほどに。はじめはLGBT当事者を中心としたコミュニティでしたが、2017年頃からは、LGBT当事者ではないメンバーにも多く運営に関わってもらうようにしました。

「そこから、LGBTかどうかに関わらず参加者全員が主体になれるように、『セクシュアリティに限らず、誰にでも見えない個性や違いがある。相手のバックグラウンドについて想像力を働かせて、それをお互いに尊重することが大切』というメッセージを発信していくようになりました。その結果、会社は確実に今まで以上にインクルーシブになったと思います。相手を目に見える属性だけで捉えるのではなく、相手の『目には見えない部分』を想像して会話をする人が増えました。最近では、人事部に入ってくる新入社員にゲイであることを伝えても『そうなんですね』とサラッと受け入れられたりして…会社は本当に変わったなぁ、と実感しています」


 

田口さんからのメッセージ

 

最後に、diversity works読者に向けてメッセージをいただきました。


 

「私自身、以前はゲイであることを隠して働いていましたが、個人的には、オープンにして働いている今の方が自分らしく働けています。そしてそれが自分の強さにも繋がっていると思います。世の中も変わってきて、自分の個性を最大限に活かして仕事をする、そんな時代が近づいてきています。皆さんの個性や、自分らしさは、きっと仕事をする上での武器になります。自分らしく働くことを大切に、ぜひ色々なことにチャレンジしてほしいですね」