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Update on :2020.11.18

女性がより輝き、キャリアアップを図るために、 人事の立場で日々試行錯誤する

工藤麻依子さん
ジョンソン・エンド・ジョンソン 日本法人グループ
ビジネスユニット

性別、性のあり方、年齢、障がい特性、国籍、文化など、幅広い人材の“違い”から生まれる個性を尊重し、その個性=多様性をビジネスに生かそうといのがダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)の概念です。しかし、欧米に比べると日本企業の対応は残念ながら遅れているという印象が拭えません。外資系会社であり、日本におけるD&Iの先駆者として知られるジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループの人事部でD&I活動を行っている工藤麻依子さんにお話しをうかがいました。

工藤麻依子さん
ジョンソン・エンド・ジョンソン 日本法人グループ
ビジネスユニットHRマネージャー


現在はサプライチェーン部門の人事マネージャーとして、担当部門をサポート。また、社内の様々なダイバーシティ&インクルージョン活動やプロジェクトのリード、支援を横断的に行うリーダーとしての役割も担う。
 

「人の暮らしを支える仕事したい」という想いから入社を決意

 
神戸出身の工藤さんがジョンソン・エンド・ジョンソンに入社したのは、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の被災経験が大きく影響しているそうです。
「被災したことで、それまで当たり前に過ごしてきた日々の生活の大切さを痛感し、日常の暮らしを支える仕事の重要さに気がつきました。そこで就活は人々の日々の生活を支えられるような業界、例えばインフラ関連やヘルスケア関連の業界に絞って活動しました」

入社後、工藤さんはリステリンやバンドエイドなどを扱うコンシューマーカンパニーに入社。営業部門に配属された当時、女性の営業社員は工藤さんを含めて4人しかいなかったそうです。
「当時、女性の営業はあまり数が多くなかったように思います。そのため、得意先で女性セールスだということで驚かれることもありました」
そんなときフォローしてくれたのが、当時の男性の上司だったそうです。創業以来、多くの女性社員が活躍し続けているという同社の歴史的背景や、営業職にも女性を登用し始めていた時期だったことも工藤さんには幸いでした。
「社内では女性の営業職だからといって特別扱いされることもなく、あくまでも一人の新入社員としてフォローいただいていると感じていました」
 

人事の立場で女性の活躍を推進することが、私のD&Iの原点

 
工藤さんが、本格的にD&I活動に携わるようになったのは、2010年に人事部に異動してからです。
「人事という立場でお世話になった営業部門をサポートしたい、という気持ちを強く持って取り組みました。営業現場に女性社員が増えていく中、人事部に異動して営業部門を担当することになり、女性の中長期的なキャリア構築や、自分らしく輝くためにはどうすればいいのだろうか、ということを考えるようになりました」

女性が営業職としてキャリアップを図るのは、前例が少ないこともありハードルが高かったそうです。
「人事の立場で女性の活躍を推進するために、何ができるかを考えることが、私のD&I活動の出発点になりました」
その後、工藤さんは社員のライフステージや家族構成、個性を大事にしながら女性がキャリアを実現するために何ができるのか、女性営業自身のマインドセットチェンジや上司とのかかわり方、気づきを与えるような取り組みをリードしたり、会社の制度設計のプロジェクトに参画するなど、積極的に取り組みを行ったそうです。また、同社ではD&Iの担当部署を特別に設けてはいないため、社内から当事者やそれを支援したい有志が集まった社員グループ(ERG)や、会社のリーダー、人事などが連携をとりながら推し進めているそうです。

工藤さんは社内のD&I活動に継続して関与しながら、現在も人事担当者として働いています。
「育休制度や時短勤務制度はもちろん、様々な形で多様な働き方やキャリアを支援する制度ができましたし、女性社員の数も女性の管理職も増え、外国人や障がい者の採用も積極的にに取り組んでいます。10年前はD&Iが会社にとってなぜ重要であるかということを理解してもらう段階でしたが、今はその重要性を理解したうえで、そのために何をするべきかという段階に社員の意識が高まり、D&Iが「本社の」「特定の人の」活動ではなく、「自分のこと」として意識されつつあるように感じます」

D&Iは種を植えたとしても、突然花開くものではありません。土壌を育て、種を撒いて、水や肥料を与えなければ花は咲きません。途中で枯れてしまうことだってあります。花が咲いたとしても思った通りの花が咲き、実をつけるわけではありません。それだけ難しいことであり、育てるかいのある花(価値)なのでしょう。
 

コロナ禍でD&I活動を再認識

 
 
新型コロナウィルスの感染拡大により、企業活動の多くが制限されていますが、同社ではD&Iについて再考する機会として捉えているそうです。

「当社には、『You Belong(あなたの居場所)』という言葉があり、これは『誰もがここに居場所があるという文化を会社として作ろう』という意味です。これまでもD&Iをテーマにしたワークショップを社内で何度も開催してきましたが、コロナ禍では初の試みとして、完全リモートで実施したところ、これまでオンサイトでは100~200人だった参加者が1600人に増えました。時間的、距離的な制約で参加したくても参加できなかったという方が参加しやすい環境を提供したり、同時通訳や手話通訳のサポートを入れるなど、誰でも参加できる設定をしたことが多くの方の参加を促すことに繋がったと思います。また、「私にとってインクルージョンとは?」という誰もが対象になり考えるべき事柄をテーマにしたことも大きかったと思います。」

参加者からは「これまで意識していなかった見えない違いに気づく大切さを知った」「子どもたちが未来も自分らしくいられるためにもっと勉強したい」といった声も寄せられたそうです。同社には社員が自由に書き込める社内コミュニケーションのプラットフォームがあり、コロナ禍以降、仕事のことに関わらず、自分が「CONNECTED」(つながりを感じる、居場所を感じる)な瞬間について書き込むサイトがオープンし、様々な投稿が寄せられているそうです。

「これまで業務に関する事柄や社内イベントなどが共有されることがあっても、自分自身について語ることはあまり例がありませんでした。ひとり一人が感じたこと、考えたことが見える化されたことで、お互いへの理解がより一層進んでいくことを期待しています」
お互いの違いを理解することがD&Iの第一歩と言う声もあるように、互いの感じたことや考えを社内SNSで見える化するのもひとつの方法なのかもしれません。

「D&Iの重要さはほとんどの社員が理解していると思いますが、性別、年齢、障がいの有無など、その違いをどう受け入れて会社の資産にしていくのかは、これからの課題だと思います。誰もが自分の居場所があると感じ、自分らしく、自分のベストでいられる環境を実現することで、私たちは顧客や患者さん、社会に対してもよりよいソリューションを提供していけるものと信じています」

 

就活は自分が輝ける居場所を探す機会

 
D&Iに取り組む企業の数は増えていますが、ただ会社の一部の人がやっている活動で、会社全体の課題として浸透するのはそう簡単なことでありません。一方、就活生の中では企業のD&I活動について関心が高まる傾向があります。

「これまで、当社の「我が信条(Our Credo)」、つまり企業理念とか行動規範について共感するというのを志望動機として上げる学生が多かったのですが、最近はD&Iについて具体的な活動内容まで踏み込んだ質問を受けることも珍しくなく、それに共感してくれる学生が増えていることを感じています」

卒業論文の課題をジェンダーをテーマに書いた方や、ダイバーシティに関するキャリアフォーラム「RAINBOW CROSSING」をきっかけに同社に入社した就活生もいるそうです。
「仕事でベストなパフォーマンスを出すためには、職場においてもベストな自分でいられることが必要です。就活は一人ひとりがベストな自分、つまり自分らしくありのままでいられる場所を見つける、自分の人生における目的や大事にしたい価値を仕事を通して実現する場を見つける機会です。ぜひそのような環境見つけていただきたいと思いますし、それが当社であればうれしく思います」