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Update on :2020.06.09

自分の内側から出る素直な思いを信じて

荻野智史さん
NEC(日本電気株式会社)
東京オリンピック・パラリンピック推進本部企画グループ

 2008年4月、新卒でNECに入社し、今年で13年目となる荻野智史さんに、仕事やボッチャ部の活動について、お話を伺いました。

荻野 智史 さん
NEC(日本電気株式会社)
東京オリンピック・パラリンピック推進本部 企画グループ 主任
人材組織開発部 ラーニング&ディベロップメントチーム 主任
NECボッチャ部 部長


2008年4月、NEC入社。SEとして主に国内外のコンビニエンスストアのシステム開発やコンサルテーションを担当した後、16年8月、社内公募を活用し、東京オリンピック・パラリンピック推進本部へ。17年には会社公認のパラスポーツの部活動「NECボッチャ部」を立ち上げ、部長も務める。20年4月から人材組織開発部/ラーニング&ディベロップメントチームにも所属している。


 

就活で注目した二つのポイント

 

理工学部で情報工学を専攻していた荻野さんは、学んできたことを活かせる業種を志望し、その中から会社を絞り込む際に、注目したポイントが二つあったという。

「まずは〈“世の中にあるといいな”を生み出せること〉。自分の仕事が目に見えるかたちで社会に価値をもたらしていることが実感できる会社という観点です。もう一つは〈ひと〉。OB・OGとの面談を重ねる中で、社員の方たちと自分の感覚が合うかどうか。この二つのポイントに照らし合わせてみたときに、世界一とも言われる日本のコンビニエンスストアのシステムを担っているNECが目に留まり、理系就職で部署を希望しての面接を受けることができたので、エントリーし、結果、採用されました。入社して13年目となりますが、この時の選択は正しかった! と今でも自信をもって言うことができます」

 

東京オリンピック・パラリンピックは会社を変革するチャンス

 

NECは、東京2020の「ゴールドパートナー」で、社内には東京オリンピック・パラリンピック推進本部が置かれています。荻野さんは、社内公募制度を使って2016年8月にその一員となりました。COVID-19の影響で延期となりましたが、東京2020という目標に向けて、さまざまな“化学反応”が社内でも起き、組織が変化していくそのプロセスこそが重要だと荻野さんは感じています。

「東京2020のスポンサーシップを活用して、社員と組織を成長に導く。そして、社員のエンゲージメントを高めていく。そのために、私たちのチームでは三つの目標を掲げています。東京2020をきっかけに、社員の〈意識が変わる〉、意識だけではなく〈行動が変わる〉、そんなNEC社員の一員であることを〈誇りに思う〉。オリンピック・パラリンピックは大きなエネルギーを持つ、ポテンシャルの高い世界的なイベントです。だからこそ、ただ単に、「参加して楽しかったね」で終わるのでは本当にもったいない。この機会に、社員が新しいことに挑戦する(仕事でも、プライベートでも)。また、パラリンピックが日本で開かれる意義を改めて問い、ダイバーシティの実現を一気に加速させていく。例えば、パラスポーツを通じて特別支援学校の皆さんとか、あるいは、オリンピック憲章の差別禁止規定にある〈性的指向〉の観点などからセクシュアルマイノリティの皆さんとか、そういった方々とも今までよりいっそうに交流し、お互いの理解を深めていく。社員一人ひとりがそのようなアンテナを立て、その上で、行動していく。そして、それらの経験は、東京2020のスポンサーであるNECの社員だったからこそだと感じてもらえるような機会を創出していく。例えば、講演会や勉強会、スポーツイベントや観戦ツアー、また、東京だけではなく地方も活性化していく仕組みと仕掛けづくりにも取り組んでいます。それが、東京オリンピック・パラリンピック推進本部の私のミッションです。東京2020は延期となりましたが、東京2020をきっかけに、会社の文化をさらに良きものに変えていこう、社会をアップデートしていこう、と行動していくそのプロセスこそが重要だと強く感じています。後から振り返った時に、東京2020をきっかけに、会社が、社会がよい方向に変わったよね、と実感を伴いながら自信を持って言えるように、今もまさに邁進しているところです。」

車椅子バスケットボールのイベントでの集合写真。

 

大切なのは「混ざり合う」こと

 

「カルチャー変革本部」が2018年4月に新設され、19年4月には人材組織開発部内に「インクルージョン&ダイバーシティチーム」が立ち上がり、「ここ2年ほどで社内の文化・風土を変えていこうという気運がとても高まっています。特にいろんな人が混ざり合うことで、その変化が目に見えて実感できています」と荻野さん。例えば、障がいの有無を超えて人が混ざり始めました。パラリンピアンの上原大祐さん(パラアイスホッケー/バンクーバー2010大会 銀メダリスト)が東京オリンピック・パラリンピック推進本部に加わって一緒に働いています。あるいは、荻野さんが部長を務めるNECボッチャ部の活動を通して、「NECフレンドリースタフ(NECの特例子会社。障がい者の雇用促進、安定を図るために設立された会社)」のメンバとの交流も始まりました。

「NECは女子バレーボールと男子ラグビーのスポーツチームを持っているのですが、試合の時に、観客に配布するグッズを袋詰めする作業をNECフレンドリースタフの皆さんにお願いしています。ボッチャ部などで交流するようにもなり、作業してもらったグッズを配布する試合に、NECフレンドリースタフの皆さんが興味を持って観に来てくれたんです。すると、ものすごく喜んで、また次回も観に行きたいって。今では、普段から社内で会えば、お互いに挨拶を交わすようになっています。このように、一つ一つの仕事が、有機的な人のつながりを生むようになってきているのは、嬉しい限りです。“ダイバーシティ”という言葉を使うと、何か大きなことをしなくてはと思いがちですが、実は例え小さくても、日々のこのような活動の積み重ねが、“有機的なダイバーシティ”の実現においては大切だと最近感じています」

NECフレンドリースタフとNECボッチャ部のメンバーたち。


 

ボッチャ部を設立した経緯

 

「ボッチャ」は、もともとは重度脳性麻痺者や四肢重度機能障がい者のためにヨーロッパで考案されたスポーツで、「陸上のカーリング」とも呼ばれ、1984年からパラリンピックの公式種目となっています。荻野さんがボッチャと出会ったのは、東京オリンピック・パラリンピック推進本部に異動し、リオデジャネイロパラリンピックをテレビで観てからでした。「シンプルなルールなのに奥がものすごく深い。実際にやってみてその面白さにどっぷりハマりました」とのこと。ちょうど、東京2020をきっかけに、仕事ではないところでも社員が集まる場を作りたいと考えていて、障がいの有無に関わらず楽しめるボッチャは、まさにぴったりだと思い、2017年4月に会社の公式の部活動としてスタートしました。現在部員は33名。メンバには脳性麻痺や聴覚障がいの社員もいて、一緒に練習しているそうです。

「ボッチャ部の活動方針を三つ、立てています。競技としてのボッチャを楽しむ場づくり。社員がパラスポーツに慣れ親しみ、普及啓発に自然な形で参加する文化づくり。そして、部門や企業の垣根を越えた交流の場づくり、です。NECは、〈パラスポーツの日常化〉をキーワードに掲げています。その実現のために、ボッチャ部では〈その一投から広がる共生社会の輪〉を合言葉に、企業発信の新たなパラスポーツコミュニティのプラットフォームとして機能できればと考えています。具体的には、小学校・特別支援学校向けにボッチャ授業を実施したり、また、東京都と連携して講演会などを開催したりしています。他にも企業や自治体、学校などと連携し、社内外を問わずつながりを持って、広く社会における「パラスポーツの日常化」を目指しています。その際に重要なのは、先のNECフレンドリースタフの事例ではないですが、〈どこかのだれか〉とではなく、個々に名前を持った〈大切な仲間〉と一緒につくるという意識だと思っています」

いつも陽気なNECボッチャ部の面々。


 

社内を活性化させる公募制度

 

そもそも荻野さんは、どういった思いや経緯で社内の公募制度を利用し、東京オリンピック・パラリンピック推進本部に異動してきたのでしょうか。

「実は高校や大学前半の頃は、学校の先生になりたかったんです。人に教えるとか、人を育てるといったことに興味があって、大学時代のアルバイトはずっと塾講師をしていました。しかし、「直接何かを教える先生という形よりも、人が育つ仕組みや仕掛けをいずれはデザインしたい。でも、それは中期の目標にしよう。まずは社会に出てビジネスの第一線で経験を積もう」と、先のポリシーのもと、NECに入社しました。そして、自分なりに社会人の現場経験を積んでいく中で、「後輩やチームメンバが成長していくのは、やはり楽しいし、やりがいがある。また、人は勝手に育つのではなく、そこには戦略とデザインが重要なんだな」と人を育てることへの思いが蘇ってきたんです。そんな折、東京オリンピック・パラリンピック推進本部の社内公募があり、東京2020のスポンサー権利を活用した人材育成、組織開発、社員エンゲージメント向上というミッションに魅力を感じ、応募することにしました。もちろん、純粋に『東京2020に仕事で関わりたい!』という想いとともに。

弊社では、ここ最近の制度改定により、年間を通じての公募制度が導入され、人材の流動がこれまでよりも推進されています。特徴的なのが、SEや営業として現場を経験した人が、今度はコーポレート側に異動したり、またその逆のキャリアパスもあったりする点です。それによって、現場での経験が血の通った制度づくりに活かされたり、反対に、自分の作った制度がこんなふうに現場に浸透しているんだと実感できたり、“制度のための制度”になっていないかと現場感覚で省みることができたりします。人材を流動化させ、キャリアをクロスさせるこの公募制度は、企業文化を活性化させるのにとても効果的だと感じています」

 

インクルージョン&ダイバーシティを進めていくために

 

この4月から、人材組織開発部ラーニング&ディベロップメントチームにも所属している荻野さん。今後のご自身の目標や課題について聞いてみました。

「ダイバーシティやインクルージョンに関しては、企画側、制度を作る側が正しい知識を持ち、きちんと理解していることが重要だと思っています。例えば、社員研修を企画する場合でも、受講するメンバの中には、いろいろなバックグラウンドをもった社員がいます。また、今後オンライン研修も増えていきますが、例えば、目の見えない社員、耳の聞こえない社員への対応をどうしていくのか。どのようなポイントを押さえるべきか。そこをきちんと企画側が学び、理解していくことが大切だと思っています。

もう一つは、すべて一度に100%やろうとしないこと。例えば、耳の聞こえない社員に対して、あるいは、目の見えない社員に対して、100%の回答を提供しようとすると、お金も時間も膨大にかかってしまうことは、現実問題よくあることです。これはジレンマでもあるのですが、私はポジティブに解決できると思っています。大切なのは、本人ときちんと対話すること。お互いに、できること/できないことを丁寧に話し合う。また、ハード面ではすぐには解決できないことは、ソフト面、すなわち運用や人のサポートでの解決方法を出し合う。そのような建設的で、クリエイティブなすり合わせをしていく。相手の可能性を決して摘むことなく、時間やコストをその都度その都度最適化する。そのことを本人たちとコミュニケーションをとり、信頼関係を深めながら、納得感を得ながら決めていく。これは、コーポレートの立場で企画をしたり、制度を作ったりする仕事においては、とても大切なことだと感じています。口で言うのはとても簡単ですが、実際には毎日、勉強で、失敗しながら、いろんなメンバのフィードバックをもらいながら、日々精進しています」

社員研修で司会をする荻野さん。


最後に、diversity worksの読者に向けたメッセージをお願いします。

「SNSの時代は、否が応でも、日々いろいろな情報が入り、迷うことも多いと思います。けれど、そんなときは一度立ち止まって、自分の内側から出る素直な思いを信じて、それを大切にしていってほしいです。自分にそう言い聞かせつつ、若い皆さんにもそう伝えたいなと思います」