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Update on :2020.10.26

「何も変わらないよ」という言葉で変わった働き方。 グローバルな日系企業で自分の個性を活かして働く。

イゲ・ライアンさん
野村ホールディングス株式会社
ミドル・オフィス部

「海外に住む日系4世でゲイ」というダブルマイノリティであることに悩んだこともあったが、自身のアイデンティティを受け入れ、これまでの人生の中で今、最も自分らしい生き方ができているという、野村ホールディングスのイゲ・ライアンさん。どのような思いで現在の職場を選び、日々仕事に取り組まれているのか、お話をうかがった。


イゲ・ライアン さん
野村ホールディングス株式会社
ミドル・オフィス部

2016年野村ホールディングスに中途入社。ミドル・オフィスの為替チームのリーダーとして活躍する傍ら、社内の「多文化・LGBT・障がい」をテーマとしたマルチカルチャーバリュー(MCV)ネットワーク活動にも有志で取組む。2019年には自身が企画したイベントで約100名の社員を前にゲイの当事者として登壇した。

日本人なのか、米国人なのか。ルーツを探るため日本へ


イゲ・ライアンさんの出身はアメリカ・ハワイ州。両親は戦後生まれだが、育った地域では日系人に対して偏見があり、戦後に生まれた日系人はなるべくアメリカ人らしく過ごすべきとされていた。家庭内でも英語しか使用していなかった。

「遺伝子は日本人だけど、国籍はアメリカ人。自分はどっちなんだろうという葛藤がずっとありました。家族の中に日本の文化はなく、自分はもっと日本のことを知りたいと思いました」

日本語を学び始めたのは17歳のとき。日本のアニメや音楽などエンターテイメントも利用しながら勉強し、早稲田大学に2年留学をした。一度アメリカに戻り大学院を出てMBAを取得した後、再び来日し日系企業に就職をした。

日本での生活を通してやっと、「自分のルーツは両方なんだ。どちらかを選ぶ必要はないんだ」と、国籍やルーツに対する自分のアイデンティティを受け入れることができた。

大学時代の日本旅行

大学でやっとオープンにできたセクシュアリティを就活で再びクローズに


高校生の頃は”ホモ”と言われていじめにあったというライアンさん。勇気を振り絞って好きな男の子に告白した翌日、校長室に呼ばれ、「二度とうちの息子に近づくな。親にバラすぞ」と告白した相手の親から連絡が入っていると伝えられた。

「人を愛することは良くないことなのだと思い込んでしまいました。先生にも親に相談できず孤独で暗い時代でした」

そんなライアンさんが初めて「自分はひとりじゃない」と実感できたのは、大学でLGBTサークルに入ったときだった。LGBTの仲間ができ、学生時代は友達にもセクシュアリティもオープンにすることができた。

大学時代、サークル仲間と

しかし、就活では自身のセクシュアリティをオープンにすることができなかった。例えば、「学生時代に取り組んだこと」としてせっかく意思を持って活動したLGBTサークルについて履歴書には書けなかった。

1社目の日系企業、2社目の外資系企業でもセクシュアリティについては隠していた。「休日何をしていたの?」という会話や日頃の仕草から、ゲイであることがバレないよう常に気を使っていた。また、セクシュアリティだけでなく、外国人として感じたストレスもあった。

「日系人なのに日本語話せないの?とか、アメリカ人ってこうだよね、と言われることが多く、ストレスが溜まっていました。次はLGBTにも外国人にもフレンドリーな企業を探そうと転職活動を始めました」

日系企業としてグローバルに活躍する姿が重なって


好きな金融の仕事は続けたかったため、証券会社や銀行の中からLGBTフレンドリーで外国人が活躍できる企業を探した。その中で世界中にネットワークがあり、約90ヵ国の社員が働いている野村ホールディングスに興味を持った。ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)に関しても様々な取組みを行っているようだった。

「D&Iの取組みを調べていたら”アライになろう”という活動があることを知りました。アライステッカーをPCに貼るなど、社員レベルで活動をしていて信頼できる会社なのではと思いました」

日系企業として日本のいいところを維持しながら世界で活躍している野村ホールディングス。日系の遺伝子を持ちながらグローバルで活躍したい自分自身の姿に重った。

「言ってくれてありがとう。何も変わらないよ」


とはいえ、野村ホールディングスへ転職してすぐにセクシュアリティをオープンにできたわけではなかった。隠すことが癖になってしまっていたからだという。D&Iへの活動には参加していたものの、仕事も忙しくなかなかタイミングがつかめなかった。

社内で初めてカミングアウトをしたのは入社から2年経った頃。相手は、その時の上司だった。仕事だけでなくプライベートの話もしており、D&Iへの取組みも応援してくれていた。「この人なら信頼できる」と思った。

「緊張しましたが、上司から言われた言葉は『言ってくれてありがとう。何も変わらないよ』でした。あまりにも嬉しくて泣いてしまいました」

上司のその言葉通り、その後何も変わらず、これまで通り先輩と後輩として接してくれた。少しずつチームメイトにもカミングアウトしていったが、チーム内での関係も変わらなかった。

しかし、カミングアウトする前と後で、ライアンさんの中で働き方は大きく変わった。これまではゲイであることがバレてしまうのではないかと常に恐怖を抱き、無意識に気を張っていた。今は何も恐れることがない。100%仕事に集中できる。

「職場でプライベートなことは話したくないという方もいるかもしれませんが、自分は話したいタイプです。自分のことを正直に話せないような環境ではチームワークにも影響が出てしまうと思うからです」

チームリーダーとなった今は、自身がゲイであることをオープンにすることで「この人なら何でも話せる」とメンバーに安心をしてもらいたいという思いもある。

ネットワークイベント風景

いつかパートナーシップ制度を利用したい


野村ホールディングスには、ウーマン・イン・ノムラ(女性活躍)、ライフ&ファミリー(健康・育児や介護)、マルチカルチャーバリュー(MCV/多文化・LGBT・障がい)」の3つの社員ネットワークがあり約2000人が登録している。

ライアンさんもMCVネットワークに業務外の活動として携わっている。昨年は、「アライ上司とLGBTの部下」というイベントを企画し、自身の初めてのカミングアウト経験を約100名の社員の前で話した。

社内でのLGBTに関する取組みは幅広く、トランスジェンダー社員への対応をまとめたガイドブックの作成といった啓蒙活動をはじめ、東京レインボープライドにブースを出しパレードに参加するなど、多くの社外活動にも協賛している。

「個人的に利用したいなと思うのはパートナーシップ制度ですね。まだ予定はないのですが、あるということに安心します」

パートナーシップ制度はジェンダーに関係なく誰でも申請でき、家族に対する社内の福利厚生が適用される。例えば育児や介護休暇の取得、海外転勤になった際のパートナーの移動費用負担などだ。

制度があってもオープンにできない環境では意味をなさないが、野村ホールディングスでは環境と制度、ソフトとハードの部分が揃っている。

ひとりじゃない。違うところがダメだと思う期間はもったいない


最後に「こう生きたい」を軸に仕事を選びたい18歳〜25歳へメッセージをお願いした。

「まずは個性や特性、人と違うところ、強みなど、自分に自信をもって一歩を踏み出してほしいですね」

ライアンさんも、日系外国人やゲイである自分が他人と異なり、自信が持てないときが長かった。しかし、今思うと悩んでいた時期がもったいなかったと感じている。

とはいえ、「自分がやりたいことと、自分らしく働ける職場」。その両軸で悩む人も多いのではないだろうか。

「”こう生きていきたい”と”こういう働き方をしたい”を分けてみると整理がつくかなと思います。働く環境が良くても仕事に興味がないとモチベーションが上がらないし、その逆で、やりたい仕事があっても働きづらい職場ならモチベーションが上がずらず長続きしません。

自己分析をした後にやりたい仕事がある業界から自分が輝ける職場を探すといいかなと思います。僕は金融の仕事をしたいと思ったので、その中からLGBT・外国人フレンドリーな職場を探して野村ホールディングスに入りました。企業をリサーチするときにその会社のイメージだけではなくて中身まで見てみるといいと思います」
例えば、ライアンさんが野村ホールディングスを調べてみたとき、LGBTに対する制度や福利厚生、外国人の社員数やネットワークなどのハードな部分から、アライステッカーを貼る活動という、社員レベルでD&Iの取組みが行われているソフトな部分もあることが分かった。

「そして、ひとりじゃないよっていうことを伝えたいです」

最後に、とライアンさんは付け加えてくれた。

「外国人とかLGBTとか、僕みたいにダブルマイノリティだと孤独でつらい経験をするかもしれないけれど、ひとりじゃないということを忘れないでください」

「人と違う、理解されにくい、マイノリティである」と感じたとしても、「ひとりじゃない」、そう思える環境を見つけることが、自分を生かす一歩につながるかもしれない。