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Update on :2020.09.11

誰もが自分らしく意欲的に働ける風土が、新たな企業価値を生み出す原点に

尾上さやかさん
東日本旅客鉄道株式会社
人財戦略部 人財育成ユニット

私たちの日常に欠かせない鉄道事業を軸に、暮らしを支える幅広い事業を展開しているJR東日本こと、東日本旅客鉄道株式会社。性別や国籍、ハンディキャップなどの枠にとらわれない多様な顧客のニーズに応えていくため同社が目指しているのは、同じく多様な個性と価値観を持つ社員同士が互いを認め合い、誰もが能力を最大限に発揮できる風土を醸成していくこと。そのための取り組みを進めていくための基盤としても、「ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)はとても大事なものである」と、同社人財戦略部・人財育成ユニットマネージャーの尾上さやかさんは語ります。

 

尾上さやかさん
人財戦略部 人財育成ユニット マネージャー

1995年東日本旅客鉄道株式会社入社。駅、支社、本社勤務等を経て、2017年12月より人財戦略部マネージャーとしてダイバーシティ推進や採用戦略をリードする役割を担っている。
 

社員の自律的な行動でD&I精神が深く浸透

JR東日本のD&I推進の歴史は、90年代に始まった女性の活躍推進にさかのぼります。社員の声を聞きながら少しずつ段階を踏み、2009年からは男性を含む全社員を対象にワーク・ライフ・バランスやダイバーシティの考え方を盛り込んだ取り組みもスタート。現場の社員が率先して変革に取り組む文化も功を奏し、現在ではD&Iの精神が企業グループ全体に根付きつつあるそうです。

「他社の皆様と意見交換をさせていただく際に一番驚かれるのが、現場で働く社員の自主性の強さ。通常D&Iは上層部の意思決定だけで行われることが多いのですが、当社では社員があちこちで率先して草の根活動的な取り組みを進めてくれているんです。例えば会社が新しい取り組みを打ち出せば職場ごとに勉強会を開いて、周囲の人たちに広めてくれたり。グループ全体でD&Iを進められているのも、これらの循環のおかげ。担当としても、とても心強いですね」

D&Iに限らず様々なテーマで展開される意見交換会や、活動報告などから得られる現場の声には、同社がD&Iで目指すゴールと考える「すべての社員が働きやすく、成長を実感できるような企業風土」を目指すうえで、見逃せないヒントがたくさんあると尾上さん。多様な人材を抱える企業だけに、社員それぞれが向き合う現実や暮らしの形は、さぞ多面的なことでしょう。

この多様なライフスタイルに寄り添った取り組みを行っていくこと。そして、すべての社員やその家族の幸せ、仕事に対する充実感を向上させていくことは、同社が2018年に発表した事業計画「変革2027」で目標として掲げる「ヒトが生活するうえでの豊かさを起点とした、サービスの創造や新たな価値の提供」を実現していくためにも必要不可欠なことだといいます。

「より働きやすい環境に整えていくことで、一人ひとりの社員に主役として変革に携わる意識を持ってもらい、活躍の場を広げてもらう。そのためにも時代の流れに合った制度や取り組みによって彼らの成長をサポートすることが企業グループの発展、ひいてはお客さまや社会のニーズにより深く届く“信頼”と“豊かさ”という価値の創造につながっていくと考えています」

 

現場の声を取り入れた取り組みで多様な暮らしに合わせた働き方を実現

D&Iを実現するための取り組みで力を入れているのが、多様なライフスタイルに合わせた働き方を実現するための環境づくり。新しい制度の導入や既存の制度をブラッシュアップするなど、現場のニーズや時代の流れに合わせた取り組みは働きやすさを実現するだけでなく、これまで社員を縛り続けてきた「こうあるべき」という概念を覆しつつあります。

例えば仕事と育児の両立という部分のサポートでは、育児休職の取得期間を3歳までに延ばしたり、育児・介護のための休暇制度を設けたり。支社ごとに24時間保育可能な事業所内保育所の設置も推進。女性に限らず男性も制度を活用しやすい職場風土を作っていくことで、性別を問わず仕事と育児を両立して自分らしく働く文化が浸透してきているそうです。

ワーク・ライフ・バランスの面では、テレワークの導入や、フレックスタイム制におけるコアタイムの撤廃。育児、介護、配偶者の転勤といった家庭の事情に応じて、希望するエリアへ転勤を申請できる制度など。

様々なライフステージの変化を経験する中でより自分に合った働き方が選べるようになったことで、入社10年目に会社で働き続けている女性の割合は約90%にものぼります。育児休職取得者のうち約3割は男性社員の取得が占めるなど、数字の面でも大きな成果を上げています。

2020年5月には、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催(予定)を機に、接客制服を刷新。新しい制服は女性用のスカートとリボンタイを廃止し、男女とも同じ色や素材のシャツとネクタイにするなど、性差が少ないデザインになったことで、性の多様性にも配慮できることとなっています。「カミングアウトをしなくても自分らしい制服を選べるようになった」というLGBT当事者をはじめ、ほかの社員からも「好みや年齢による着こなしの幅も広がった」と好評を得ているそう。

「制度は『作って終わり』ではなく、社員が使って初めて息が吹き込まれていくもの。だからこそ『本当に使いやすいか?』『活用しやすい環境か?』という部分は強く意識しています。内容においても現状に満足せず、常に現場のニーズや時代の流れを見て足りない部分があれば変えたり深度化したり。今が良い状態であれば更に良いものにしていけるよう、これからも日々努力を重ねていきたいです」

 


 

一番大変なのは社員の意識を変えること

しかし、社員の声を踏まえたうえでの取り組みであっても、中には変化を望まない人も。彼らの意見を受け止めながらも新しい方法への理解を広め、全体の意識を変えていく。これが一番大変なことだといいます。

「『既存の方法で問題なくやってきたのに、なぜ制度や仕事のやり方を変えるのか?』という声も多様な考えのひとつ。ですが、より柔軟な働き方と生産性の向上を実現させるためには、仕事の仕組みを見直さないと前には進めません。新しい制度を導入する際は、既存の働き方を望む方の背景も踏まえたうえで検討するようにしています」

一筋縄ではいかない状況にもかかわらず全力でD&Iに取り組めるのは、同社の上層部が前例のない取り組みにも理解を示してくれることにあるそうです。

「しっかりと考えを整理し、なぜ必要なのかを熱意をもって伝えれば、『それならやってみるか』と柔軟に受け入れてくれる土壌が当社にはあります。これまでも『ハードルが高いかな?』と思うような取り組みはたくさんありましたが、社長をはじめ経営陣が『制約も性差もなく、どの職場でも誰もが自分らしく活躍できるように、人事担当部門としてもっと積極的にやるべきだ』と背中を押してくれるので、非常に心強く感じております」

 

性別や国籍などの属性を語らずとも、自分らしさを出せる職場環境を目指していく

D&Iの担当者として多様な人たちとかかわる中で、尾上さんの価値観にも大きな変化があったといいます。そのきっかけとなったのはLGBT当事者であるひとりの社員との出会い。

LGBTについてはそれ以前からも「人事担当として取り組むべき課題である」と思ってはいたものの、身近に当事者の方がいなかったのでピンと来ていない部分があったそう。しかし、トランスジェンダーの社員と直接話をしたことで衝撃を受け、「彼らのために自分ができることは何だろう?」と強く思うようになったといいます。

「LGBTの方に限らず、性別や国籍など、自分がどういう属性の人間だと言わずとも認め合えることがD&Iの精神。そこを突き詰めてたどり着くのが、多様な属性の方々の誰もが働きやすく自分らしさを出せる職場環境を作ることであり、そのことが一人ひとりの能力をさらに開花させる土台となる。頭ではわかっていたことですが、LGBTの取り組みと向き合うことでD&Iの根幹となる大切な部分に改めて気づかせてもらいました」

ダイバーシティ相談窓口の設置や、同性パートナーへの制度の適用、社員の理解を深めるためのコンプライアンスハンドブックの作成や勉強会。さまざまな取り組みが行われてきた中で、特に尾上さんの印象に残っているのは、2019年に「PRIDE指標」(※)でベストプラクティス事例として選ばれた「LGBTネットワーク交流会」。
※企業・団体等の枠組みを超えてLGBTが働きやすい職場づくりを日本で実現する」ことを目的とした任意団体「work with Pride」による評価指標
 

このイベントはLGBTについての知識や「身近にいるかもしれない」意識を広げるというスタンスで開催されたもの。参加者以外は完全非公開として実施したものの、予想を上回る社員が参加。当事者同士のつながりを求める社員の想いに応えた好例として評価されました。

「当初は『どのくらい集まるのかな?』と不安だったのですが、想像以上に多くの社員が来てくれて。みんな初めて会った人たちなのに想いを打ち明けてもらえたことも、とても嬉しかったです。帰り際には、参加者の方々が名札替わりに使用したニックネームが書かれたシールを私に貼りながら、『ありがとう。今日はすごく楽しかった』と言葉でも気持ちを示していただけて、心と心の触れ合いを間近で感じられたことも今の私にとって大きな励みになっています」

 


 

高い志を持ち、思い描く変革ストーリーを実現していってほしい

ヒトを起点としたサービスを追求するからこそ、社員一人ひとりが能力や可能性を伸ばせる環境づくりを大事にする。そんな同社が将来を担う人財として求めるのはどのような人なのでしょうか?

「自分たちが多くの方の日常を支えているという使命感と、夢に挑戦する意欲を持った方。当社という企業フィールドで自らが思い描いた変革ストーリーを実現するという志を持った方をお待ちしております。先行きが不透明な時代でも、社会インフラを支える会社は前を向いて力強く進んでいかなければいけません。一人ひとりの熱い思いに応えるため、人財担当としてもすべての社員がより働き甲斐をもって活躍できる組織風土をつくることに全力で取り組んでいきます」

最後に「こう生きたい」を軸に仕事を選びたいZ世代へ向けて、自分らしい働き方や生き方を見つけるためのアドバイスを伺いました。

「もし目指す仕事や企業があるなら、その道で働く先輩に話を聞いて、共感できる部分を探してみてください。働き方や仕事に取り組む姿勢、実際に携わる業務、人間関係などの環境、その職場で働く人たちの生き方など、『いいな』と共感できる部分が多いほど、自分らしく働ける場所に近いのではないかと思います。

今はまだ目指したいものや方向性がわからないという方でも大丈夫。『社会に出て働こう』と思えたこと自体が、すでにひとつの成長。まずは飛び込んでみた場所で、自分に何ができるかを考えてみてください。時間はかかるかもしれませんが、社会にかかわりたくさんの経験を得るうちに必ず『社会の役に立てている』『生きていてよかった』と思える何かに出会えるはずですから。まずは勇気をもって、目の前の階段を一歩一歩上ってみてください」