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Update on :2022.10.24

社長として、『BeYourself』を体現するロールモデルとして

ジョイ・ホーさん
ユニリーバ・ジャパン
代表取締役社長

ユニリーバ香港&台湾マネージングダイレクターを務めていたジョイ・ホーさんが、2022年7月1日付けでユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングの代表取締役に就任。レズビアンであることを公表しているホーさんに、お話しを伺いました。

ジョイ・ホーさん
ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング
代表取締役社長

1973年台湾生まれ。97年ユニリーバ台湾入社。2001年バンコク、シンガポール、上海を担当するアジアリージョナルセールスマネジャー、02年ユニリーバ中国でブランドマネジャー、その後、ユニリーバ台湾でリプトンRTDビジネスマネジャー、セールスダイレクターを歴任。17年からはユニリーバ台湾・香港マネージングダイレクターを務め、2022年7月、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング代表取締役社長に就任。

 

人生を変えた「妻」との出会い

 
1973年に台湾で生まれ、両親と姉の4人家族で育ったホーさんは、小さい頃は男の子のような風貌ではあったものの、心の中は逆にとても「女の子っぽい」性格だったそうです。

「成長するにつれて、自分がレズビアンであるという意識が自然に芽生えていきました。1995年に大学を卒業後、外資系酒造会社にブランドマネジャーとして入社し、97年にはユニリーバ台湾に転職しました。2001年にバンコク、シンガポール、上海を担当するアジアリージョナルセールスマネジャーとなりました。着実にキャリアを積んでいきましたが、ごく親しい人を除いてはカミングアウトができず、職場ではずっと本当の自分を隠したままの状態が続いていました。当時を思い出すと、社会の期待に応えなければいけないという重圧をいつも背負っていたように思います。スカートを着て、メイクをして、ハンドバッグを持って…社会が求める『女性らしい女性』であろうとしていました。また、自分のプライベートな人間関係や、セクシュアリティに関するような話題が出ないよういつも注意を払っていました。そういったことを考えながら毎日仕事に出かけるのは本当にストレスフルなことで、自分の心が二つに引き裂かれるような気持ちでした」

そんなホーさんの人生を変えたのが、「妻」の存在でした。

「妻のダイアンと再会したのは、2013年の同窓会でした。それはもう衝撃的な出会いでした。彼女は私のようにクローゼットに隠れるようなことはせず、いつも自信を持って本当の自分を見せていました。そんな彼女の姿にとても勇気づけられましたし、自分らしくあることの大切さを学びました。また、ダイアンは、私の責任に気づかせてくれました。私たちはもちろん苦労もしてきたけれど、とてもラッキーなことに声を上げられる立場にある、だからこそ、声を上げたくても上げられない人たちのために立ち上がらなければならないのだと教えてくれたのです。私がカミングアウトを決意する一番大きな動機になったのが、LGBTQI+のユースたちの自殺の問題です。ダイアンは教育関係の仕事をしていて、LGBTQI+の子どもたちが孤立し、社会に馴染めない状況があるなかで、ポジティブなメッセージやロールモデルが必要なのだと話してくれました。そういう状況の子どもたちのために、私に何ができるのか。一歩前へ踏み出して、自分らしく生きられる明るい未来があることを伝えたい。声を上げ、社会に変化を広げたい…。そんな想いから、2015年、レズビアンであることを公表しました。その後、2018年にはアメリカで結婚式を挙げ、また、2019年5月に台湾で同性婚が立法化されたのを機に、台湾でも結婚しました。そして、2022年には、メタバース上において、オーラルケア・ブランド主催の結婚式に参加しました」

ユニリーバ台湾のファミリーデーに妻のダイアンさんと参加。


 

再入社を決意させたユニリーバの「パーパス」

 
ホーさんは一度、2009年にユニリーバを離れ、医薬品会社に転職してジェネラルマネジャーやコマーシャルエクセレンスダイレクターを務めた後、2017年に再びユニリーバに戻ってくる道を選びました。

「戻る決意をしたのは、ユニリーバが『Be yourself』(自分らしくあること)を大切にし、誰もが輝ける職場や社会をつくるために真剣に取り組んでいることを知っていたからです。ユニリーバには、『サステナブルな暮らしを“あたりまえ”にする』という〈パーパス(目的・存在意義)〉があり、企業も人もブランドも、このパーパスを持つことで成長し、成功していくという揺るぎない企業理念があります。また、〈ユニリーバ・コンパス〉という世界共通の成長戦略があり、その8つの柱の一つに〈エクイティ、ダイバーシティ&インクルージョン(ED&I)〉を置いています。社員一人ひとりが自分だけのパーパスを持ち、ポテンシャルを最大限に発揮することで、社会にもポジティブな変化を広げていこうとする信念にあらためて共感し、私はユニリーバに戻ってきました。日々の仕事に意義を感じられるのは、本当に素晴らしいことだと思います」

台湾ジェンダー平等教育協会(TGEEA)で、主要企業の社長として初めてLGBTQI+当事者であることを公表した経験を共有。


2021年、ユニリーバと主要ドラッグストアのタイアップによりプライドキャンペーンを実施。売上の一部がジェンダー平等教育のための寄付に。


ユニリーバ台湾で、社内外でED&Iを推進する社員ボランティアグループと一緒に。


 

ユニリーバのDNAにしっかり根付いているED&I

 
ユニリーバがED&Iを大切にしている一例として、ジェンダー平等が挙げられます。2010年に「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」の目標の一つとして、「2020年までに全世界の女性管理職比率を50%まで引き上げ、ジェンダーバランスを達成する」というコミットメントを発表し、職場でのジェンダー平等を推し進めてきた結果、2020年末における女性管理職の割合が、グローバルで51%を達成し、日本でも38%に増加しました(日本でも役員の半数は女性)。このような野心的な目標をグローバルで掲げ、明確な戦略を打ち出し、目標を達成してきたユニリーバですが、日本においてはどのような事例があるのでしょうか。

「トータルビューティケアブランドの〈LUX(ラックス)〉発の取り組みとして、2020年から、ユニリーバ・ジャパンのすべての採用において、性別に関わる情報、具体的には性別欄、顔写真、ファーストネームをなくし、個人の適性や能力のみに焦点を当てた採用を実施しています。また、トータルビューティケアブランドの〈Dove(ダヴ)〉では、自己肯定感を高めるワークショップ『大好きなわたし~Free Being Me~』をのべ2万人の子どもたちに提供しました。参加した高校生の70%が、容姿への自信が大幅に改善したと回答したそうです」
 
 
「LGBTQI+の方々も含めて誰もが自分らしく働ける職場や社会をつくるためのプログラムも実施しています。ワークフォース(人材)、ワークプレイス(職場)、マーケットプレイス(市場)、コミュニティ(社会活動)という4つの枠組みのもと取り組みを進めてきました。その中で、男性化粧品ブランド〈AXE(アックス)〉では、2019年4月にユニセックスフレグランス〈アックス ユニティ〉を発売し、それにレインボーフィルムを施した期間限定品を販売しました」
 
 
「今年の8月〜9月には、『あしたにエール! キャンペーン』を実施しました。パラアーティストと消費者の皆さまをつなぎ、〈アートを通してたくさんの人とつながりたい〉というパラアーティストの方々の気持ちを応援するキャンペーンです」
 
 

「ご紹介したのはほんの一部ですが、ユニリーバの取り組みは、二つの点でユニークだと考えています。一つ目は、特定のグループの人々だけを支援するのではなく、誰もが自分らしく、誇らしくいられる企業や社会を目指しているということ。二つ目は、このような取り組みを通じて、会社の価値観を社員が再認識できるようにしていることす。会社を挙げて、ED&Iを推し進め、自分は尊重されている、公平に扱ってもらっていると感じ、自分のパーパスを実現していける環境づくりを進めているのです」

嬉しかった事例を一つ紹介してくれました。

「ユニリーバ・ジャパンの社長に就任後、初めて全社員向けの会議を行ったときに、結婚式や妻の写真を見せたところ、みなさんがとても自然に、ありのままの私を受け入れてくれました。ユニリーバのDNAの中に、ED&Iがしっかり根付いていることを実感し、とても誇りに思いました。
人は誰もがパーパスを持って生まれてくる特別な存在です。一人一人が自分らしく、安心して活躍できる環境を作っていくことで、会社という大きな集団が変わり、それによって社会にもポジティブな変化をもたらせると信じています。ED&Iは単なるスローガンではなく、日々の仕事の中でどのように行動するのかであって、リーダーはそれを率先して体現していくべき存在だと思っています」

 

LGBTQムーブメントを盛り上げる架け橋に

 
2022年7月に、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングの社長に就任したジョイ・ホーさん。レズビアンであることを公表し、同性婚が立法化されている台湾では、妻のダイアンさんと結婚もしています。日本で仕事をするようになったホーさんに、LGBTQに関することで、これから日本において取り組んでいきたいことを聞いてみました。

「まずは日本のLGBTQI+関連のNGO団体と連携を図っていきたいと思っています。一企業として職場環境の改善などをするだけではなく、人権課題や教育、同性婚の法制化などに取り組んでいるNGO団体や企業などとコラボレーションすることで社会全体のLGBTQに対する理解を進め、変化の機運を高めていけたらと思っています。また、私は日本の消費財大手企業で初のカミングアウトした社長だということなので、メディア取材も含め、公の場で発言することで、LGBTQI+のムーブメントを盛り上げていくための架け橋になりたいと思っています」

最後に、読者のみなさんに向けて、メッセージをお願いします。

「仕事には人生の多くの時間を費やすことになります。自分らしくいられない、偽りの自分を演じなければいけない、自分の価値を認めてもらえない状況で働くのはとてもつらいことです。本当の自分でいられるところを選び、自分がやりたいことができる会社を探してください。そのためには、まずは自分自身を理解することが大切です。子どもの頃に何が好きだったのか、何に憧れ、ときめきを感じ、興味を持ったのか。そういったことを深く掘り下げると、自分の価値観が見えてきます。お金や地位、名誉ではなく、あなたが大切にしている価値を中心に、あなたらしいキャリアを選んでください」