イルサカ・ダミアンさん
ウォルマート・ジャパン/西友
コーポーレート戦略部 シニアダイレクター
マサチューセッツ工科大学でファイナンスの修士号とMBAを取得後、メキシコで経営コンサルタントとして勤務。5年前に米ウォルマートに入社し、米国の企業戦略部門、ウォルマート・インターナショナル戦略部門、商品戦略部門を経て、現在はウォルマート・ジャパン西友で企業戦略部門を統括。多様な価値観を持つ仲間同士が連携しあえる風土
ウォルマート・グループでは正社員やパートタイム社員、役員を含めたすべての従業員を「アソシエイト」と呼んでいます。その原点は、「同社で働くすべての人を“一緒に働く仲間”として大切にする」という想いがあるからです。アソシエイトが日々の中で多様性を受け入れ尊重する行動や働き方を体現していることが、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)が根づいている証と言えるでしょう。
「ウォルマートはある意味、とてもユニークな環境を創生したと思っています。さまざまなバックグラウンドを持つ人々を歓迎し、互いの違いを受け入れていく。これは弊社のバリュー(価値観)のひとつである、「すべての人を尊重する」に通じることでもあります」
ダミアンさんが現在、籍を置くウォルマート・ジャパン/西友においてもD&Iの推進による成果は顕著だといいます。その一例として挙げられるのは、国籍や言語が異なるメンバー同士がしっかり連携し合えていることや、経営陣の中でも女性メンバーが活躍していることです。
さらに特筆すべきなのは、西友を含むウォルマート・グループ全体に「アソシエイト・リソース・グループ」といわれるコミュニティーが数多く存在していること。
「例えば、LGBTQコミュニティや、子育てをしながら働く女性のコミュニティ、ヒスパニックやアフリカ系アメリカ人、アジア系の人々のコミュニティ、地域のボランティアへ参加するコミュニティなど、多様な価値観やバックグラウンドを持つアソシエイトが集まって、それぞれの目標に向けた活動を行っています。ここで素晴らしいのは、違う目的を持つグループ同士が互いの抱える問題を理解し合い、解決するために連携し合っているという点です。D&Iを通じて絆を深めつつ、ともに高め合うということを日々実践しているというわけです」
しっかりと教育を受けることが生活をより良いものに変えていく
大学を卒業後、経営コンサルタントとしてメキシコの高等教育を担当していたダミアンさんが米ウォルマート社に入社したのは2014年。入社を決めた理由は、ウォルマートの企業理念である「Saving people money so they can live better.(お客さまに価値あるお買物の機会を提供し、より豊かな生活の実現に寄与する)」を心から大切にし、体現している姿勢に感動したこと。そして「多くの人々の生活を良くするためのサポートをすること」や「さまざまな背景を持つ人々が結束し、個々の努力だけでは実現できないバリュー(価値観)を発揮していくこと」など、ウォルマートの企業理念と、彼自身が目指す生き方に通じ合う部分が多かったことが大きいといいます。
「「人々の暮らしを豊かにしていく」ということは、私のライフミッションでもあります。この想いが芽生えたのは私がまだ幼いころで、私の家は父を早くに亡くしたため、母がひとりで私、姉、妹の3人を育ててくれました。ただ、母は大学を出ていないため高収入の仕事に就くことが難しく、常に2~3つの仕事を掛け持ちしている状態で、生活は大変でしたが、たくさんの方々のサポートに助けてもらえたおかげでなんとかやってこられました。そんな環境で成長していくうちに、将来は自分も常にみんなを支えられる人になりたいと考えるようになったんです」
その過程で気づいたのは、人々の生活をよくするためには「生活費を抑える・教育を受ける・公的な医療を受ける環境がある」という3つの手段が必要であるということ。その中でもしっかりとした教育を受けさせてもらえたことは、ダミアンさんたちの生活を変える大きな転機になったそう。
「私が大学生の時、家計がとても苦しくなり、母が3人分の学費を支払うことが難しくなってしまいました。当時、姉は大学卒業、妹は大学入学を控えている状況だったため、私が1年休学し働くことを決意しました。大学で学んだ日本語のスキルを活かし通訳として働き、その収入で姉は大学を卒業することができました。その後は、姉からのサポートで私も妹も大学に通えるようになり、最終的には全員が大学を卒業することができました。このことを通じて、しっかりとした教育を受けることは、様々なチャンスを得ることができ、さらに豊かな生活に繋がるということを強く実感しました」
学びが企業を成長させ、アソシエイトとお客様の暮らしを豊かにする
ウォルマートにおいても教育制度は、グループ全体で力を入れている取り組みのひとつ。同グループで働くアソシエイトの数は全世界で約220万人以上。多様なバックグラウンドを持つ彼らがスキルや経験を身につけ、自分らしい働き方を実現するため、さまざまなプログラムが実践されているそうです。
「国や地域により取り組みの内容は異なりますが、教育を重んじるスタンスは世界共通です。アソシエイトの成長はお客様の信頼につながり、ひいては企業の成長につながります。そのためには企業自体がしっかりとキャリア形成をサポートしていく必要があると考えています」
有名なのは2018年にアメリカで始まった「dollar a day college」という取り組み。これはウォルマートが提携する教育機関のプログラムをオンラインで受講でき、アソシエイトは1日1ドルの費用を負担、その他の費用はウォルマートが全面支援するというもの。家計が苦しくても高校や大学でしっかり学位を取得したいという人を支援するプログラムとして、多くの人に重宝されているそうです。
日本でも店舗・本部を問わず、アソシエイトの育成を助ける複数のプログラムを提供。例えば、新卒向けプログラムの一つとして「経営幹部候補育成プログラム(選抜型)」がスタート、将来のリーダーとして必要な知識やスキルを具体的なキャリアプランと共に店舗と本部の経験を通じて学んでもらい、早期にリーダーとして活躍してもらう内容になっています。
女性活躍推進のために実施されているのが「ジャパン・ウーマン・イン・リーダーシップ」というプログラム。管理職をめざす女性がキャリア形成のために必要な知識やスキルを身につけるためのサポートをしていくという内容で、育成プランやキャリアプランをもとに上司や同僚から様々な気づきや学びを得る機会が提供されています。
また、選抜型の研修だけでなく、小売業の最前線である店舗アソシエイトのレベルアップを目的とした研修も開始されました。今年から約100人のトレーナーたちが全国の約332店舗を訪問し、店舗アソシエイトがトレーナーと一緒に働きながら、指導やサポートを受けることで、アソシエイトに自身の成長を実感してもらうことも狙いのひとつであるといいます。
「自身の成長とお客さまからの信頼を実感することで、アソシエイトの責任感や向上心が高まっていくという良い循環が生まれます。そうすると、店舗で品出しをしていたアソシエイトが上位職を目指すという、その人にとってのキャリアパスも見えてきます。誰もがしっかり学べる機会や環境を用意することは、お客さまはもちろん、アソシエイト自身の暮らしも豊かにしていくのです」
様々な経験を得ることで、自ずと成長していける
かくいうダミアンさん自身も「入社から5年という短い期間の間に、様々な職務に就くことができた」とこれまでの歩みを振り返ります。
「最初の仕事は、米ウォルマートでの企業戦略部門。当時は企業という大きな船を動かすクルーの一員にすぎなかったのですが、ウォルマート・インターナショナルの企業戦略部門へ異動してからは米国以外の26カ国の運営の仕方を再設計するという、責任の大きな職務に携わりました。次に、カリフォルニアのサンブルーノの商品戦略本部で、ビデオゲームやマルチメディア商材を担当しました。そして、2017年にずっと興味を持っていた日本で働くチャンスを得て、今日に至ります」
ウォルマート・ジャパン/西友では、戦略部門やフィナンシャルプランニング&アナリシス等の職務を経て、経営戦略部門長に着任。現在はCEOであるリオネル・デスクリー氏をCEO補佐としてサポートしながら、同社の中長期戦略を担う複数のチームを牽引しているとのこと。
「わずか5年で着実にキャリアを積み上げてこられたのは、ウォルマートが豊かな経験を得る機会や成長につながるさまざまなチャンスを与えてくれる環境だったからこそ。これは私が働くことのできる場所やキャリアパスの選択肢が多様であるからだと言えると思います」
最後に、Diversity Works読者へ向けて、自分らしい生き方や働き方を見つけるためのメッセージをいただきました。
「まず自身の想いに正直であってください。そして、自分が自分らしくいられる職場環境を見つけること。D&Iを大事にしたい方はその点も妥協せずにしっかり見極めてほしいです。あとは自分が何をしたいかをしっかりと思い浮かべ、どのような環境ならその目標を達成できるかを考えて進んでいけば、自分らしい生き方も見えてくると思います」
企業情報:ウォルマート・ジャパン/西友