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Update on :2020.06.09

お客様も従業員もすべての人を尊重する~ウォルマート・ジャパン/西友に受け継がれるD&Iマインド

山田裕介さん
ウォルマート・ジャパン/合同会社西友
人財部

 2008年から米ウォルマートグループの一員として、ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)の面でも大きな発展を遂げてきた西友。欧米ではすでにD&Iのリーディングカンパニーとして名を馳せるウォルマートの根幹にあるのは、創業時から受け継がれている「ウォルマート・カルチャー」という企業文化。顧客も従業員もすべての人を受け入れるマインドは、日本のスーパーマーケット業界の老舗である西友においても事業を推進するための指針として大切にされています。


 

山田 裕介 さん
ウォルマート・ジャパン/合同会社西友 人財部 組織開発/タレントマネジメント担当 シニアダイレクター

 

大学卒業後、GAP JAPAN株式会社に入社して、店舗のマネジメント業務に携わる。その後、アップルコンピューターにて同社製品の販売・営業を担当。その後H&Mにて日本立ち上げメンバーとして入社、その後人事責任者として人事業務全般をリードする。2018年4月にウォルマート・ジャパン/合同会社西友に入社し、Talent Acquisition担当 、 HRビジネスパートナー担当を経て現職。

 

優れたD&I事例やノウハウの豊富さに感銘を受けた

 

今回、話を伺ったのは、ウォルマート・ジャパン/西友の人財部組織開発/タレントマネジメントダイレクターを務める山田裕介さん。同氏はこれまで様々な外資系企業で働き、人事担当者として障がい者や留学生など多様なバックグラウンドを持つ人の採用制度を導入してきたD&Iの第一人者。そんな彼から見ても、ウォルマート・ジャパン/西友のD&Iに対する取り組みは新しい発見の連続だったといいます。

「私がウォルマート・ジャパン/西友に入社したのは2018年。まず驚いたのは、海外のグループ会社で実践しているノウハウや、取り組みの手法にまつわる内容が非常に厚かったこと。思わず「なるほど!」と手を打ちたくなるようなベストプラクティス(最善の事例)が、まだまだたくさんあることを知って、胸が熱くなったのを覚えています」

D&Iに対する考え方が日本国内における他の企業より大きく進んでいたことだけでなく、社内の学びから得たスキルを外部とのかかわりに反映していることにも感銘を受けたそう。

「例えば、LGBTQをはじめとするセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の方たちが自分らしくあることを讃えるレインボーパレードへの参加計画もそのひとつ。あらゆる個性を生かす環境づくりや、多様な組織や社会にも当たり前のように貢献していける。これは日本において希少な企業だなと強く実感しました」

 


 

 

多様性を受け入れる素地があったからこそD&Iがすんなり浸透

 

1963年に創立した西友は2002年にウォルマート・ストアーズ社(現:ウォルマート社)と業務提携し、2008年に同社の完全子会社化。当初は、カルチャーの変化に適応するための研修にすごく時間をかけたそう。D&Iに対するもともとの素地はあったものの、新しいバリューがすんなり受け入れられていった背景には、「ウォルマートと西友、それぞれが似たようなDNAを持っていたことが大きい」と山田さんは語ります。

「両社に共通していたのは、“お客様”がすべての発想の起点であること。そして、お客様のためにそれまでにないイノベーションを起こすことに積極的な企業であったこと。例えば、無印良品のような先見性の高いブランドを生み出したり、日本では絶対に成功しないと言われたEvery Day Low Price(毎日低価格)というウォルマートのビジネスモデルを導入して成功させたり。そして従業員同士のチームワークの強さと互いを称え合う風土。それぞれのベースに近い根幹があっただけでなく、新しい発想や価値観への適応力が高かったこともダイバーシティを進めていくうえでの後押しになったと思います」

ウォルマート・グループ全体でD&Iの取組みを強く推進する目的は、「Saving people money so they can live better(お客さまに低価格で価値あるお買物の機会を提供し、より豊かな生活の実現に寄与すること)」という企業理念をお客様に提供し続けるため。

「小売業界は、ネットビジネスの台頭等で非常に厳しい競合環境にあります。また、未曾有の災害などが増えている中、今後益々、多様な考え方や価値観を受け入れ、新たな発想で小売の未来を創っていく必要があるからです。ウォルマートには、創業以来、企業理念を達成するためのウォルマート・カルチャー(価値観と行動事例)が脈々と受け継がれており、それがウォルマートを世界最大の小売業に成長させた原動力です」と山田さん。

「具体的には、我々が大切にしている「お客さまのために尽くす」「すべての人を尊重する」「常に最高を目指す」「倫理観をもって行動する」という4つのバリュー(日々の行動を導く大切な価値観)と、それを実行するための12の行動。この中で特にダイバーシティとの関連が深い「すべての人を尊重する」ための行動では、様々な人や考え方、経験の違いを積極的に認知して、歓迎することを推奨しています」

近年ではウォルマートの国際部門全体で、D&Iをビジネスの成長土台にしていくことが戦略事項のひとつとして挙げられるほど、積極的な取り組みが行われているといいます。日本での取り組みは?

「ひとつは、少子高齢化による日本の労働人口の減少を補う人財の発掘。仕事の内容や勤務地といった条件や業務に全面的にかかわることができる、多様な働き手を増やしていくことが挙げられます。二つ目は、市場における新たな価値創出のスピードが加速していること。技術革新のグローバル化に後れを取らないためにも、多様な価値観を持つ人たちの力や発想が必要なんです」

 


 

経営陣の前向きな意欲が、声を上げやすい風土を作る

 

より深くD&Iを推進していくため、同社が行ってきた取り組みは大きく分けて3つ。ひとつめは組織風土の醸成。そのために行ったのは店舗ごとに「カルチャー・アンバサダー」を任命し、ウォルマート・カルチャーを日々の営みの中で実践する意識を高めたりベストプラクティスを自発的に発信し合う機会を作ったり、定例会や社長を交えたランチミーティングでD&Iのセッションを設ける機会を増やしていったといいます。

「当初のねらいは同社が大事にしている企業文化とバリューを浸透させることでしたが、アソシエイト(※)の一体感を高めたり、多様な個性を持つ人財の発掘にも一役買う結果に。加えて、経営陣が積極的にダイバーシティについて発言するようになったことで、アソシエイトが安心して声を上げやすい空気が生まれるようにもなりました」
※アソシエイト・・・ウォルマート・ジャパン/西友では働く仲間という意味を込めて、従業員のことをアソシエイトと呼んでいます
 

二つめは人事制度の整備と運用。同社ではテレワークやフレックス制、育児休暇を推進しているほか、有給休暇も1時間単位で取ることができるため、多様なライフスタイルに合わせた働き方が選べるとのこと。ただ制度を用意するだけでなく、実際の使用率が高いことにも定評があるそうです。

三つめはアソシエイト個々の能力を最大限に引き出すための推進策。例えば、障がいがある方の採用も積極的に行っている特例子会社・西友サービスでは、水産加工や印刷物の作成といった職務ごとに必要な専門能力を磨く教育研修を実施。物事の得意不得意や、さまざまなバックグラウンドにかかわらず、誰もが協力しあえる職場環境づくりを目指しているそうです。

多様な取り組みを行う中で、同社が特に力を入れているのは女性管理職の比率を上げること。

「まずは2020年までに20%、長期的なゴールとしては50%の達成が目標です。アソシエイトの7割以上を占める女性がスキルをのばし活躍する機会を増やすべく、店舗における女性リーダーを育成するための「ウーマン・イン・リテール」プログラムを導入。店舗役職者候補の選抜・育成・登用を行っています。2019年からは女性が管理職を目指すためのプログラム、「ジャパン・ウーマン・イン・リーダーシップ」もスタートしました」

 


 

D&Iは息を吸うようにできてこそ意味がある

 

毎年3月8日の国際女性デーに合わせて行われる催しも、女性の活躍推進施策のひとつ。例年では国際女性デー1日のみでしたが、今年は「国際女性マンスリー」と銘打ち期間を3月全体に拡大。しかし、新型コロナウイルスの影響を受け、一時は中止も検討したと山田さんは当時を振り返ります。

「内容は各店舗や本部で活躍している女性アソシエイトによるビデオメッセージを社内ツールで配信するというものでしたが、世間は自粛ムードでしたからね。さすがに迷って人事の最高責任者に相談したら「人にフォーカスしたアクションは、非常時においても止めるべきではない」と逆に背中を押されたんです。おかげで取り組みは成功し、アソシエイトの方たちからも嬉しいフィードバックをもらえました。「企業は人なり」とよく言われますが、心からアソシエイトを大事にする精神を持つ人たちが強い西友を作っているのだと、改めて実感しました」この出来事がきっかけで、「D&Iは考えてやるものではなく、息を吸うようにできてこそ意味があると再認識した」ともいいます。これまで以上にD&Iを当たり前のものにしていく施策として考えているのは、インクルージョンの理念をより深く浸透させること。

「どれだけ社内の多様化が進んでいってもそれを受け入れる体制、すなわちインクルージョンが進まないことには多様性の良さが出ませんからね。海外のウォルマートでは理解を深めるためにさまざまな取り組みを実施しているのですが、私が一番必要だと思っているのは無意識の偏見をなくすためのトレーニング。無意識の思い込みから視点を解放することで、偏見で正しい成果や人の見方が変わってしまうといった問題を防いでいければと考えています」


 

 

最後にdiversity works読者に向けて、自分らしい働き方、そして「こう生きたい」という願望を叶えるためのアドバイスをいただきました。

「大切なのは、個々の違いを力に変えていくこと。弊社のように多様なバックグラウンドを持つ方々が力を発揮できる場は今後必ず増えていく。そのために私たちも日本のD&Iを牽引できるリーディングパンカニーになれるよう、全力を尽くしていきます。もし、何を目指したらいいのかわからないという方は、あえて苦手なことや、やりたくないことに目を向けてみるのもひとつの方法だと思います。自分の枠から一歩踏み出してみるだけでも、新しい気づきを得られるはずですよ」