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Update on :2022.10.31

誰もが「公平」と感じられる職場を目指して

西岡真帆さん/田中幸恵さん
清水建設株式会社
人事部ダイバーシティ推進室

2009年に「ダイバーシティ推進室」を設置し、積極的にD&Iに取り組んでいる清水建設にあって、2015年に女性初の室長として推進室に配属された西岡真帆さんと、2009年当時から推進室に所属している主査の田中幸恵さんという、2年前にも本サイトに登場していただいたお二人に、特にこの2年間の変化を中心にお話しを伺いました。

西岡真帆さん
清水建設株式会社
人事部ダイバーシティ推進室 室長

1995年4月、土木系総合職として清水建設に入社。都内の道路トンネル現場で施工管理を経験後、土木本部にてシールド関連の技術開発を担当。2001年から約13年間、土木技術本部にてコンクリートの専門技術者として全国の現場を支援。2011年に課長職に昇進。その後、コーポレート企画室経営企画部に異動し、2015年より現職。日本建設業連合会「けんせつ小町委員会」職場環境整備専門部会長。

田中幸恵さん
清水建設株式会社
人事部ダイバーシティ推進室 主査

1986年に4月清水建設株式会社に一般職として入社。
人事部にて従業員異動情報、出向者事務、社内表彰関連、任免事務、人事担当役員秘書等を担当。2009年、人事部ダイバーシティ推進室開設時より障がい者雇用・活躍推進、女性活躍推進、外国籍社員活躍推進を担当、2018年に主査、現在に至る。
障害者職業生活相談員、一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム ステアリングコミッティ

 

多様な人が利用する建物や施設を作る側が多様でないと多様なニーズには応えられない

 
「建設会社が社会に提供しているのは、みんなが安全・安心に暮らせる環境であったり、建物や施設であったり、いわば、ものをつくるのが私たちのミッションです。そのつくる側の人間が多様化されていなかったら、多様化するニーズには応えられません」と西岡さん。
大学で土木工学を専攻し、土木系総合職として入社。施工管理や技術開発を担当してきた西岡さんの言葉だけに説得力があります。かつては「日本人で、男性で、24時間いつでもどこでも働けます」といった従業員が多かったそうですが、2009年にダイバーシティ推進室が設置されて以降、女性、外国籍の方、障がいのある方、LGBTQの方をはじめ誰もが働ける会社であることを発信することで人員の構成も少しずつ変化し、研修などを重ねることで、会社の雰囲気もかなり変わってきたといいます。
西岡さんが一番大きく変わったと感じているのは、「女性が、例えば現場の工事長や所長といった役割を担うことに対する違和感や抵抗感が、今ではなくなっていること」。

ダイバーシティ推進室設立当初から所属している田中さんも、「昔はダイバーシティを進めましょう、と言うと、そんなの無理でしょ、ウチの会社では、と鼻で笑われるような反応が多かった」と振り返ります。それが、意識を啓発するようなさまざまな研修を積み重ね、また、会社のトップからも後押しするような発信もあり、今では進めていくべきこと、やらなければいけないこと、という認識が広がっているといいます。
そして社外の方から、「清水建設さんはダイバーシティが進んでいますよね」と言われることも増えてきて、「実態に合っているかはさておき、そう言われると社員たちも悪い気はしないので、ダイバーシティの推進は会社の評価にもつながることなんだ、とは思ってもらえているようです」と田中さん。
また、この間の変化について、障がい者雇用の担当もしている田中さんは、「以前と比べると最近は、障がい者の方たちも、『ああしてほしい』『こうしてください』と言葉にしてくれるようになりました。これは、さまざまな活動を通して、自分たちも仲間として歓迎されているんだ、と思ってもらえているからなのでしょう」と嬉しそうに語ってくれました。ダイバーシティ推進室の取り組みによって、社内の風土は着実に変わってきています。

 

男性の育児休業を支援する「パタニティ休業制度」を実施

 
2021年6月に育児・介護休業法が改正され、男性の出生時育児休業、いわゆる「男性版産休」が2022年10月から実施されることになりました。清水建設では、それより1年先んじて、2021年10月から「パタニティ休業制度」をスタートしました。どのような経緯があったのでしょうか。

「井上和幸社長自らによる、男性育休の取得を推進していきたいという強いリーダーシップのもと、まず、2021年3月から、お子さんが生まれた男性社員に育児休職を取得しませんか、そしてその上司に対しては、育児休職を取得させてあげてください、というメッセージが書かれた手紙を社長から送る取り組みを始めました。これによって、社内でも話題に上るようになり、男性育休取得への意識が浸透していきました」(西岡さん)

その結果、前年の男性の育休取得率が6%台だったのが、2021年度には取得率18.5%に一気に上昇したといいます。そこで、その成果を社長に報告したところ、もっと取得率が上がるような対策を、という宿題を出され、改正育児・介護休業法の施行より1年の前倒しとなる2021年10月から「パタニティ休業制度」を実施しました。

「この制度は、育児休業を希望する男性従業員に対して、お子さんが生まれてから8週間以内の期間に最大4週間まで有給で休暇を取れるものです。これまでの育児休業制度は、子どもが2歳になるまで日数や事由の制限なく無給休暇を取得できるというものでしたが、従業員へのヒアリングやアンケートの結果も踏まえ、有給休暇扱いとして経済的負担を軽減しました。
また、休むことで他の人に負担がかかるのではないか、この仕事は自分しかできないから、といった声もかなりあって、安心して業務から離れられる職場環境づくりをルール化しました。例えば、パートナーの妊娠がわかった早い段階で従業員は必ず上司と面談し、育児とキャリアについて相談をします。その上で、育休を取得することになった場合、早いうちから担当業務の見直しや部門レベルでの代替要員の検討を行います。それによって、対象者が気兼ねなく育児に専念できる環境をつくっています」(西岡さん)

 

障がいのある従業員にヒアリングすることで見えてきた気づき

 
障がい者への取り組みは、この2年の間でどのような変化があったのでしょうか。

「障がい者の方々の話をいろいろ聞いたことで、実はこんなことで苦労していたんだといった気づきがありました。例えば、出入り口となる自動ドアに、衝突防止サインとして白いマークが付いていたんですが、視野狭窄の方などにはそのマークが認識しづらく、何度もドアにぶつかったという方がいました。あるいは、薄暗くて階段の段差がわからなくて、眼鏡が壊れるほど転倒した方がいて、張ってあるカーペットの色を変えることにしました。また、本社オフィスには車椅子の方も使える〈誰でもトイレ〉が2箇所あるのですが、その二つが全く同じデザインになっています。身体に麻痺がある人がトイレを使用する場合、左半身麻痺の人と右半身麻痺の人とでは使いやすさが違うということを初めて聞きました。そうすると、全く同じデザインのトイレが二つだと、例えば、左半身麻痺の人には両方とも使いやすいけれど、右半身麻痺の人には両方とも使いにくいというアンバランスな状況が生まれてしまいます。既設のトイレとは異なるデザインのトイレの増設を進める対策を考えています。
もう一つ挙げると、弊社には特例子会社はなく、障がい者の方たちがいろいろな部署に散らばって働いているのですが、そうすると、障がい者同士のつながりが少し希薄になり、誰がどこで働いているのかもわからない、といったことにもなります。そういう状況に対して、障がい者同士のコミュニティを作ろうよという動きが、当事者たちの希望によって起こってきました。聴覚障害者の集まり、パラアスリートの会などができ、障がいのある方たちが主体的にコミュニティを作ったところに進化を感じています」(田中さん)


 

まだまだ道のりは長いが、手応えを感じてきているD&I推進

 
清水建設ひとすじでキャリアを積み、ダイバーシティ推進室の室長、主査としてD&Iを推進してきた西岡さんと田中さんに、あらためてD&Iへの思いを、社内の変化や課題なども交えて語ってもらいました。

「もともと私自身、女性の技術者として入社し、将来は現場の所長になりたい、と言うと笑われるような空気の中で、思うところもあって、女性活躍推進には特に取り組んでいるわけですが、ポイントは〈公平〉ではないかとすごく感じています。今でも男性従業員の中には『女の子にそれはやらせられない』『大変だからこれは男性に頼む』といった感覚が根強くあり、それを徐々に解消していくために、例えば、アンコンシャスバイアスの話をしてみたり。あるいは、同期の男性と女性がいた場合に同じように対応していますか? とあらためて聞いてみたり。以前だと、『何を言ってんだ』みたいな感じだったのが、ハッとする人も増えてきて、公平への認識のレベルが少しずつ上がってきている手応えを最近は感じています。誰もがそれぞれの能力を発揮し、仕事も家庭も人生も楽しめるように、ひとりひとりに寄り添える会社になっていってほしいです」(西岡さん)

「機会均等の視点で言うと、これまで女性や障がい者の人たちは、圧倒的にチャンスが与えられていなかったと思うんです。そして、チャンスが与えられていないにも関わらず、いざ〈登用〉という話になると、『経験が少ない』などと言われて登用されない。今はその壁にぶち当たっているわけですが、まずはそこが違っていたよね、という共通認識は持っておいてほしいと思っています」(田中さん)

田中さんが「壁」と表現した女性の登用については、今年度に入って積極的に取り組んでいるといいます。

「現在、社員の女性比率は約17%で、女性の管理職比率は3.3%です。今までこの課題についてはあまり触れてこなかったのですが、今年度からはあえてそれを表に出して、何が原因なんだ、これからどうするんだ、といったところをはっきりさせて、ジェンダーギャップを解消していくために、宮本洋一会長や女性の社外取締役・社外監査役らとともに全国を行脚しながら意見を吸い上げています。また、女性管理職比率を、2025年までに5%、2030年までに10%という新しい目標値を設定しています。性別などに関係なく、実力のある人がその実力にあったポジションに就くのが当たり前になっていってほしいです」(西岡さん)

「意思決定機関の中に、当たり前のように多様性が反映されるようになると、今後のビジネスモデルも変わってくるかもしれないですよね。200年以上の歴史を誇る清水建設が、さらに成長し続けていくためには、多様性は不可欠だと思っています」(田中さん)

 

建設業が好きな人に来てほしい

 
最後に、就職活動中の読者の方たちに、お二人からメッセージをお願いします。

「建設事業に携わるわが社は、建物や社会インフラなど、いろいろな人たちが利用するものを作っています。だから、いろいろな視点からいろいろな検討があってしかるべきで、そういった本業のところでダイバーシティの理念が浸透し、より良いもの作りに反映していくことが、最終ゴールだと考えています。そのためにも、ひとりひとりの従業員の多様性を尊重していくことが重要だと思っています」(田中さん)

「建設業が好きっていう思いを持っている人に、来てほしいなっていうのは強くあります。会社が安定しているから、給料が高いからといった理由で会社を選択するのもあるでしょうが、〈仕事〉っていうのは、やっぱり大変なときは大変なんです。その大変な状況を乗り越えるためには、〈好き〉っていう気持ちがすごく重要だと思うんです。建設業に興味を持ち、これから好きになるのでも構わないのですが、ぜひそういう人に選んでいただきたいと思っています」(西岡さん)
 




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