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Update on :2020.08.26

「建設業が好きだから」と多様な人財に選んでもらえる会社を目指して

西岡真帆さん
清水建設株式会社
人事部ダイバーシティ推進室

2009年からダイバーシティ推進室を設け取り組みを継続している清水建設。「建設業は男性の仕事と思われがちですが、人材の多様性に着手しないと企業の持続的な成長はありません」と話す、ダイバーシティ推進室長の西岡真帆さんと田中幸恵さんに、2017年に経済産業省による「新ダイバーシティ企業100選」にも選出された取り組みについておうかがいしました。  


西岡 真帆さん

人事部ダイバーシティ推進室 室長

1995年4月、土木系総合職として清水建設に入社。都内の道路トンネル現場で施工管理を経験後、土木本部にてシールド関連の技術開発を担当。2001年から約13年間、土木技術本部にてコンクリートの専門技術者として全国の現場を支援。2011年に課長職に昇進。その後、コーポレート企画室経営企画部に異動し、2015年より現職。日本建設業連合会「けんせつ小町委員会」職場環境整備専門部会長。


女性が「現場の所長になりたい」と言っても笑われなくなった


土木系女性総合職の2期生として入社し、勤続27年目になる西岡さん。建設現場や技術職としてキャリアを積み、2015年からダイバーシティ推進室長を務める。

「私は大学でも土木工学を専攻し、社会のインフラをつくりたいという思いでこの業界に入ったのですが、現場監督をしていた新入社員時代、「将来は現場の所長になりたい」と言うと、「何を言ってるんだ」と笑われました」

しかし、最近では建設現場で働く女性を目にする機会も増え、初の女性所長が生まれるのもそう遠くないと予想できる。

「まだ、”女性初の”と冠を付けたがる時点で完全に平等とは言えませんが、少なくとも女性が「所長になりたい」と言ったら、「がんばれよ」と自然に応援してもらえる風土になりました。以前は、女性に対して男性と同じように働かないと認められない、という風潮が男女ともにありました。しかし最近ではイクボス育成の効果もあり、周りの受け止め方が変わっていると感じますし、男性でも育児休職をとる人が増えてきました」


効果がすぐに見えにくいダイバーシティ推進は「やっちゃいなよ」精神で進める


すぐに数字的な効果が見えない点が、社内でダイバーシティを推し進める上では難しい壁だ。「このような社員のために、こういった制度をつくりたい」と言っても、「それを利用する人は何人いるんだ?」とすぐには受け入れてもらえなかった。新社屋をつくるときに障がい者用の施設をつくりたいと言ったら、「何人利用するんだ?」と返されたことがあった、と田中さんはいう。

「かつては現場でも女性専用のトイレをつくりたいと言うと、「何人利用するんだ?」と言われたことがありました。しかし、インフラを整えて初めて見える需要があります。すでにあるもので間に合っているだろう、という考えを変えていきたい」


建設現場に設置されている女性用トイレ


実際に、トイレに行くことを躊躇したために体を壊した社員もいた。女性専用トイレがあれば利用する社員も増える。入社を希望する女性社員も増えるかもしれない。つくったからといってすぐに利用する人がいなくても、「利用したい」と思ったときにそこにあることが重要だと考えるからこそ、西岡さんは「やっちゃいなよ」精神で日々、奮闘しているという。


内側からもみほぐしていくコミュニケーション研修


「やっちゃいなよ」精神で推し進めた取り組みの一例に、外国籍社員とその上司との泊まりがけの研修プログラムがある。

「合宿の呼びかけをしたとき、外国籍の方からは「なんで外国人だけ」、上司からも「忙しいのになんでそんなこと」という後ろ向きな姿勢でしたが、終わってみると「もう1泊したかった」なんて言われました」

差別をしないという好意から上司は外国籍社員を日本人社員と同等に扱っていた。しかし例え日本の大学を出ていても、異なる常識からストレスを感じていた外国籍社員も多くいた。泊まりがけの研修で腹を割って話し合ったことで、日々の仕事が円滑に進むようになったという。現在は「日本人のようにしろ」とは言わず、個性を発揮することを強く奨励している。

現場を支える技能労働者不足が深刻になっている建設業では、積極的に外国籍従業員の活躍が進められている。清水建設では2010年度から文系・理系問わず外国籍総合職の新卒採用を開始し、初年度は2名の入社があった。その後順調に採用数が増え、2021年度4月は17名の新卒外国籍社員を迎えた。

2019年12月には本社に礼拝室(プレイヤールーム)を設置した。主にイスラム教徒の従業員の利用を想定しているが、特定の宗教に限定せず、祈祷・瞑想等での利用も可能になっている

「技術系の研修はたくさんあるのですが、コミュニケーションを深めることを目的とした研修やマインドチェンジの研修は、これまでほとんどありませんでした。

外国籍従業員だけでなく、あらゆる属性の社員が活躍できる環境にするには、組織全体の意識と体質を変えていく必要がある。1万人もの従業員が在籍する企業として、社内全体のコミュニケーションを深めるための仕組みづくりに取り組んでいる。


まだまだやりたいことはあるが、ゴールはDI推進しなくても良い世界


清水建設がダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)への取り組みを本格化させたのは、2010年に策定した長期ビジョン「Smart Vision 2010 」がきっかけだ。人材の多様性に着手しないと企業の持続的な成長がない、という思いからその前年にダイバーシティ推進室が設けられた。当時の取り組みは、女性・障がい者・外国籍の活躍の3本柱だった。

「毎年取り組みのテーマを決めています。今年は男性の育児休暇取得ですが、D&I は100人いたら100通り。その他にもまだまだ取り組みたいことがたくさんあります。

例えば介護。制度は設けているが皆が満足できるような環境になるよう、さらに推進をしたいと考えています。またLGBTに関してもオールジェンダートイレを設置するなどインフラを整えたり研修をしたりしていますが、これからも理解促進を進めインクルーシブな風土を整えていきたいです」


働きやすいだけではなく、やりがいを感じられる仕事を見つけてほしい


「働きやすいからだけではなく、好きだから、という視点でも選んでほしいですね」

「自分らしくはたらく」を軸に仕事選びをしたい学生や第二新卒を中心とする求職者にメッセージをお願いすると、こんな言葉が返ってきた。

「清水建設であれば、女性活躍やDI推進が進んでいるから、だけではなく、建設業が好きだから、という人にきてほしい。そのうえで、仕事の成果をあげるのに不自由があれば改善します。すべての人が能力を発揮できる環境を整えます。」

「仕事なので男女関係なくチャレンジするのは当たり前」とはっきり言う西岡さん自身も、技術職として働いていたとき、「○○に関しては西岡に聞け」と言われるまでの信頼を得た。働きやすさを求めたことはなかったが、我慢せずになんでも言える恵まれた環境であったという。

もちろんすべての人が理解のある上司や同僚に囲まれているわけではない状況も理解している。企業CM では建設現場で働く若手女性社員の相談役として出演もしているが、実話をもとにしたストーリーであり、実際に色々な立場の社員から相談を受けることも多い。

 

女性は寿退社するのが当たり前だった時代から働きやすさは変わったという声もある。数字には見えにくいDI推進だが着実に変化はしている。そして、最終目標はDI推進をしなくてもよい環境。

「いつかはダイバーシティ推進室がなくなるのがゴールです。推し進めているうちはまだ課題がたくさんある。すべての社員が自分の大事にしたいことを大事にしながら働ける環境にしたい」

「好き」や「やりがい」で仕事を選べる社会を目指して、今後も草の根活動を進めていきたいと話してくださった。

 




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