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Update on :2022.03.29

障害がある自分だからこそ、できることがある

小澤綾子さん
日本アイ・ビー・エム株式会社
Talent Acquisition

20歳の時に、運動能力が低下する難病・筋ジストロフィーと診断され、生きていく意味を見出せないまま苦悩の日々を送っていた頃もあったという小澤綾子さん。日本IBMで人事の仕事をしながら歌手、講演活動など多方面で活躍している現在の小澤さんを見ていると、そんな過去があったとは思えません。障害と共に生きることの意味、そして日本IBMのD&I活動についてお伺いしました。

小澤綾子さん
日本アイ・ビー・エム株式会社
Talent Acquisition所属


2006年入社。IT エンジニアとしてキャリアを積み、人材育成に興味を持ち、2017 年に社内人材公募に応募して人事に異動。入社式をはじめとする全社イベントのプロジェクトリーダーを務める。20 歳のときに進行性難病筋ジストロフィーと診断され3年前から車椅子に乗っている背景を持ち、社内でもPwDAコミュニティを立ち上げ活動している 。プライベートでは、バリアフリーな社会の実現を目指し、歌手として様々な活動と講演を行っている。
 

就職活動を通じて障害がありながら働くことの厳しさを知る

 
筋ジストロフィーは、遺伝子の変異によって筋力が低下していく病気です。進行し筋力が低下すると、身体の各部分の運動機能に障害がみられるようになります。厚生労働省によって難病に指定されています。20歳のとき病気を宣告され、「将来的には車いす、寝たきりになる」と言われた小澤さん。奇しくも就職を意識する時期とも重なり、障害が進行していく中で、働くのは無理だと思ったことも一度や二度でなかったそうです。それでも、他の多くの学生と同じように、会社説明会に行き、エントリーシートを提出し、就職活動に励んでいたそうです。

「エントリーシートを送っても、書類選考でほぼ落とされました。ようやく最終選考に進んでも、病気で採用できないと言われたこともありました。面接のときは『いつまで働けるのか』『何ができないのか』と病気のことばかり聞かれることが多く、『何ができるのか』『何をしたいのか』といった前向きな質問をしてくれる企業は少なく、障害がありながら働くことの難しさ、厳しさを知りました。障がい者向けの会社説明会に出掛けたときは、任せてもらえる仕事は限られていて、障がい者は、他の学生と同じように働くことを期待されていないのではないかという、物足りなさと寂しさも感じました」
そんな辛い就職活動を続けられたのは「障害がありながら働いている人のロールモデルになりたい」という強い想いがあったからです。
もともとクリエイティブな仕事をしたかったことから、マスコミ、広告業界、また病気のことから製薬会社を志望していた小澤さんにとっては、IT企業である日本IBMに入社することになるとは、夢にも思っていなかったそうです。
「たまたま日本IBMの説明会に行ったら、そこで初めて『小澤さんは何ができるの』と『できないこと』ではなく『できること』を聞かれました。『言葉にして伝えれば受け止めてくれる人がいて、何でもやらせてもらえそう』という第一印象を受けました。選考が進み、障害のある先輩社員に会う機会をいただきました。障害がありながら働くことについてお伺いしたところ、話すたびに不安が解消され、入社を決意しました」
日本IBMが女性が働きやすい会社ランキングの上位だったことも、背中を押された理由だったそうです。
 

ITシステムを通じて幅広い業界に貢献できる喜び

 
▲社長賞を獲得した入社式でのひとこま


入社後はシステムエンジニアとして、社内アプリケーション開発や保守を担当。そのときも障害が理由で配属に不利になることはなかったそうです。入社して数年でプロジェクトマネージャーに昇格。
「チームメンバーは中国出身の社員が多く、最初はコミュニケーションをとるのにも苦労し、意識の違いから喧嘩をしたこともありましたが、一緒にプランを立ててシステムを作れたのは良い経験になりました」
仕事を通じて人材育成に興味を持つようになった小澤さんは、4年前、社内公募制度を活用して人事部に異動。現在はイベントのプロジェクトマネージャーを務めています。
「今年の入社式では社員を含め1,000人規模のイベントを企画・実行しました。準備期間が例年よりも短く、タイトなスケジュールでしたが評価が高く、社長賞をいただくことができました。参加した新入社員からは『忘れられない日になりました』『自分も誰かを幸せにするプロジェクトに関わりたい』などの声をいただき、本当に嬉しかったことを昨日のことのように覚えています」
他にも内定者のモチベーションを上げるプログラム企画も担当しているそうです。就職活動を始めたときは、「IT企業は視野にも入っていなかった」という小澤さんが、今はそのIT企業の成長を支える人事の仕事に携わっているのですから、人生とは不思議なものです。
「学生のときに憧れていた仕事とは違いますが、人事という仕事はこれが絶対に正解というのが定まっていないので、答えを探す面白さがあります。もちろん上手くいくこともありますが、失敗することもあります。だから、すごくクリエイティブな仕事だと思っています。またITシステムはあらゆる企業に使われているので、システムを通じて、学生時代、志望していた業界にも貢献していると思うとうれしいです」

▲様々なプロジェクトに積極的に参加

 

個々の違いを自然に受け入れる文化

 
▲プライベートではライブ活動や講演活動を通じ、「生きること」を伝えています。


小澤さんはプライベートでは、「筋ジスと闘い歌う」をテーマに掲げ、学校、病院、老人ホームなどで講演・ライブを行い、全国各地で「生きること」を伝えています。その活動はTVや新聞などメディアでも多く取り上げられています。順調にキャリアを積んでいるように見える小澤さんですが、入社以降、病気が快復しているわけではありません。むしろ病状は進んでいます。
「入社後に杖を突いて歩くようになり、その杖の数も1本から2本になり、3年前からは車いすを使っています」

それでも前向きに生きられるのは、仕事環境に恵まれていることもその要因のひとつのようです。
「仕事上に辛かったことはあまりなく、障害がある、ないではなく、ひとりの社員、そして戦力として周囲が接してくれていることを肌で感じています。体調が悪かったり、通院するときもありますが、それは誰にも起きることとして会社全体が受け入れてくれています」
同社では全フロアに車いす用トイレがあるなどバリアフリー環境が徹底していることに加え、ちょっと不便を感じたらそれに対応することが、社風として根付いているそうです。
「オフィスのデスクは首が疲れない高さに調整してくれますし、食堂の机も調整してくれます。杖をついての移動が大変になったとき、事業所間を走るシャトルバスに優先席を設けてもらいました。声が出なくなった後輩のためには、チャットだけで仕事できるよう工夫してくれたり、プレゼンテーションのときにも、読み上げソフトを使うなど、何か不便なことがあれば要望を出せば、働く環境をしっかり整えてくれます。制度があっても使う人、会社側が両方が成熟していないと難しいと思いますが、当社には『個々の違いを自然に受け入れる文化』があり、そういう点では恵まれていると感じています」
 

行動することで未来を切り拓くことができる

 
▲障害のある方を応援するアライコミュニティのメンバーとしても活動。


現在、小澤さんは障害のある方を応援するアライコミュニティのメンバーとしても活動しています。
「世の中には色々な障害を持っている人がいることを知ってもらいたくて、イベントに参加したり、入社式で障害のある先輩社員を紹介したりしています。障害のない若手社員からも応援する声があり、非常に励まされています」
筋ジストロフィーの宣告を受けたとき、自分が生きていく意味を見つけることができず、悩んでいた小澤さんですが、今は夢を持って生きているそうです。
「当社ではさまざまな障害のある人がたくさん働いています。彼らと仕事をしていると、ビジネスに集中して働いているときは、障害があってもなくても、車いすに乗っているとか杖を突いているのかは関係ないと感じています。今、健康でも、将来障害を持つかもしれません。だから障がい者を遠ざけるのでなく、障害がある人もない人も、もっと一緒に楽しめる世界を作っていきたい。障がい者の代表としてそう声を上げ続けたい。それが今の私の夢です」
そんな小澤さんから、就職活動中の読者の方にメッセージをいただきました。
「宣告を受けしばらくの間は、障害があるから何もできないと思い込んでいました。社会人となりいろいろな人と接しているうちに、『自分も人の役に立ちたい』『自分にしかできないことがきっとある』と思えるようになって、それからは『あれもやりたい、これもやりたい』という気持ちになり、それに向けて行動しました。行動すると手を差し伸べてくれる人が現れます。そして、それが自分自身の成長を促してくれます。行動することで未来はきっと切り拓けます。ですから、怖がらずにどんどんチャレンジしてください」