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Update on :2020.09.17

マイノリティのためではなく、全社員のためのD&I

中根 弓佳さん
サイボウズ株式会社
執行役員

100人100通りの「働き方宣言制度」や「複業採用」など、ユニークな施策に注目が集まるサイボウズ。1997年創業のITベンチャー企業だが、働き方改革に乗り出した当初の目的は、人材の流出防止・優秀な人材の採用だった。一時は28%だった離職率も5%にまで下がり、就職人気ランキングの順位も年々上がっている。女性、障がい者、LGBT、など一部の属性だけを対象としないD&I推進に関して、執行役員であり人事本部長の中根さんにお話をうかがった。

中根 弓佳(なかね ゆみか)さん

サイボウズ株式会社 執行役員 人事本部長兼法務統制本部長

1999年、慶応義塾大学(法学部法律学科)卒業後、関西の大手エネルギー会社に入社。2001年、サイボウズ株式会社に入社。知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を行った後、人事においても制度策定や採用を中心とした業務に従事。法務部長、事業支援本部副本部長を歴任し、財務経理などを含め、これら全般を担当する事業支援本部長に就任。2014年 8月より執行役員、2019年1月より人事本部長 兼 法務統制本部長(現任)。

きっかけはひとりのママを引き止めるために

中根さんがサイボウズに入社したのは2001年。まだ社員は50人ほどのITベンチャーだった。「インターネットを大衆化したい」そんなエンジニアの思いに惹かれ、大手エネルギー会社から転職を決めた。会社は積極的にM&Aを繰り返し、中根さんも知財法務部門にて著作権訴訟対応、契約、経営、M&A法務を担当した。しかし、確実に成長する事業と反比例するように人材の流出がとまらなかった。

「入社当時は人事ではなかったのですが、ぎすぎすした雰囲気に課題感は感じていました。朝出社すると寝袋で寝ている人がいたり、陰から他のチームの文句が聞こえてきたり、仕事は楽しかったものの、働きにくさはありました」

離職率が28%と過去最高になった2005年、「このまま人が抜けるのは困る」と働き方改革に取り組みはじめた。

2005年には30%近くあった離職率は、現在5%以下に落ち着いている。


「具体的なきっかけは、ひとりの女性社員の出産でした。非常に優秀なので辞めてほしくないと、彼女を引き止めるために短時間労働制度をつくったのですが、その時に制度の使用条件を出産や育児に絞らなかったのが英断だったと思います」

人事の中に「学校に通いたい」という希望をもっている社員がいたこともあり、育児以外の時短制度のニーズに気づいていたという。

中根さん自身も2007年と2009年に出産により育児休暇を取得。復職をした2010年に人事へのオファーを受けた。社内では、働く時間と場所の多様性の実現を目指し、副業とテレワークへの取り組みが開始していた。

 

900人900通りの働き方宣言

2013年には短時間労働制度を「時間」と「場所」を軸に9分類した。そうすることで「自分はこれ」と選択がしやくすなり、さらに「長時間働く人がえらい」という空気がなくなった。「この人が望む働き方は?」と互いに考えるようになり、個性を認め合うことでチームワークが強化され、離職率も改善されてきた。

そして2018年4月には、分類を撤廃し、「働き方宣言制度」の運用を開始した。ラベル分けされた中から選ぶのではなく、全社員が自分の働き方を文章で記述し、周囲に宣言する方法だ。曜日ごとに時間や場所を細かく設定している人もいれば、「基本的にオフィス」「基本的に在宅」「必要があれば残業します」などざっくりと決めている人もいる。また、副業のために週3日勤務としている人もいる。

「エンジニアが中心の会社だからできるんでしょ?ベンチャーだからできるんでしょ?と言われると悔しいですね」

サイボウズはすでに900人の社員がいる。それだけの社員の働き方をそれぞれ認め合うには、「システム(制度)」「ツール(情報共有クラウドなど)」、そして「カルチャー(風土づくり)」のチームワークインフラを整える必要がある。

「確かに、そもそもサイボウズはITツールを作っている会社でもあるため、全体的なITリテラシーが高く、それをうまく使えるという強みはあります。しかし、システムの導入やカルチャーづくりはIT企業でなくてもできるのではないかと思います」

ツールはお金を出して導入し、使い方を教育すればいい。システム(制度)は機能するものを取り入れればいい。難しいのはカルチャーだ。

「システムやツールは西洋医学の薬みたいなもので飲めば治ります。一方でカルチャーは漢方のようなもので効果が現れるまでに時間がかかります。どれが欠けてもいけません」

 

多様な個性を活かすにはまず嘘をつかないこと

サイボウズがカルチャーとして大事にしている4つの言葉がある。「理想への共感・公明正大・多様な個性・自立と議論」だ。

「個性があるから意見がたくさんあって当然。多様な個性を活かすには嘘をつかない、隠さないこと。違う価値観が出たら議論します」

と話す中根さんに、現在どれほどカルチャーは耕かされたのかと聞いてみると、「まだ20%くらい(笑)」と返ってきた。

「無意識の偏見は誰しもが持ってしまいがちだと思いますが、仲間のひとりひとりを知っていけば国籍やジェンダーなど気にならない世界ができると思っています」


カルチャーを耕すための施策として、従来から社内のコミュニケーション促進を目的に活動していたメンバーがいたが、2018年1月にチームとなり、より活動が積極的に。社員同士の食事会や営業と開発をつなぐための合同誕生日会、MEETUPイベントなどを開催したり、各々が開催しやすい仕組みを支援したりしている。現在はオフラインの活動が自粛されているが、オンラインでも繋がれるよう工夫をしながら取り組んでいる。例えば、今年度の創業記念パーティは、朝から夜まで1日かけてオンラインで国内外の拠点をつないだ。まずはアメリカからの朝食レポートで始まり、子どもたちも参加し、各国のカルチャーを知る機会にもなった。

 

給料UPだけが希望ではない。公平性より個性を重視する報酬パッケージ

働く時間も場所もそれぞれ。900通りの働き方を認め合おうとしたとき、難しいのは評価制度だ。サイボウズにフルコミットしたい社員もいれば、複業しながら貢献したい社員もいる。当然、同じ報酬にはできない。

「評価に手をつけるからこそ、多様性を認める制度にできます」

なんとサイボウズでは900人分、それぞれの報酬パッケージが作られている。報酬の考え方やプロセス、評価する軸等は決まっている。ただし、同じアウトプットをしたからといって同じ報酬になるとは限らない。それは、求める評価の形がそれぞれ違うからだ。

「給料は上がらなくていいので子どもが病気の時には早く帰らせてください、など、必ずしもすべての人が給料UPによる評価を求めているわけではないと気付きました」

成長機会だったり時間であったり、求める報酬の形は求める働き方分ある。そこでサイボウズでは、ひとりずつ「あなたが希望する報酬パッケージ」を聞くことにしている。すべて希望通りにいかないこともあるが、「個人の幸福度」 と 「チームの生産性」のバランスが取れるところで報酬の形が決められるようになっている。

「次に取り組みたいのは契約的なところですね。いわゆる正社員、つまり無期雇用がいいとは限りません。個人の価値観や気持ちのいい距離感は人それぞれ。チームとの繋がりは多様でいいのではないかと思っています」

複(副)業自体も2012年より許可されているが、2016年にはサイボウズを複業先として選んでもらう「複業採用」も開始した。1人の人を会社でフルに囲う必要があるとも、サイボウズの仕事をするかしないかという「0か1か(ゼロイチ)」では考えていない。「自分はここまでやります」と言い、ほかの人が助ける。それがサイボウズの考えるチームワークだ。

 

まだサイボウズは900人分の経験しかしていない

最後に「こう生きたい」を軸に仕事を選びたいZ世代へのメッセージをお願いした。

「自分が気持ちよくあることを大切に、最大限のパフォーマンスを出せるところを選んだら良いと思います。まだサイボウズも達成できていないことが沢山あります。それは900人分の経験しかしていないからです。気づいたことは言い合い、議論をし、改善するところは変え、進化していく、そんなチームにしたいです。是非皆さんも他人と違う自分の価値が大事にされ、自分らしく貢献できる場所を探してほしいですね」

例えサイボウズを選んだとしても、合わなければやめて違うチームを選べばいい。自ら選択肢を増やすような働きかけをしてほしい。大事なのは理解しようとする気持ちであり、公の場でも正しいと大きな声で言い、建設的に議論し、問題解決できる風土づくりを目指すこと。答えはひとつとは限らない。ゴールはないが、”チームワークあふれる社会を創る”という理想に向けて進化していきたいと話してくださった。