diversity works > 人を知る > 視覚障がい者にできる仕事の幅はもっと広げていけることを社会に示したい
Update on :2021.08.27

視覚障がい者にできる仕事の幅はもっと広げていけることを社会に示したい

石川さゆりさん
株式会社資生堂
人事部 人事企画グループ

資生堂は、化粧品の国内シェア1位、かつ、グローバルに事業を展開する創業149年の老舗企業。その長い歴史の中には、人との違いを互いに認めて尊重し合う風土を目指す、D&Iマインドが深く浸透しています。その新しい取り組みのひとつとして進められているのが、視覚に障がいのある方を対象にした職域拡大プロジェクト。この企画の発案者である石川さゆりさんに同社での働きがいと、同プロジェクトの仕事を通じて得た気づきについて話を伺いました。

 



石川さゆりさん
人事部 人事企画グループ


2003年 (株)資生堂入社。人事部や資生堂グループ会社にて人事業務を担う。現在は視覚障がいのある方の職域開発を目的としたプロジェクトを推進中。1981年生 2人の女の子のママでもある。

 

多様な人とどう向き合うかという発想が文化として根付いている


資生堂のD&Iの入口となったのは1970年代に始まった女性活躍の推進。当時、女性が主な顧客であったという特性上、また、社員の女性比率が高かったことなどもあり、女性の管理職が増えていったのは自然な流れでもあったのでしょう。また、視覚に障がいのある社員が入社した1980年代には、視覚障がいの方へ美容情報を届ける媒体、「おしゃれなひととき」の刊行がスタート。会社のグローバル化が進むようになってからは、外国人雇用やLGBTQに対する理解や取り組みも広く浸透していったといいます。

「資生堂のD&Iの軸となるのは、「People First」。性別、年齢、国籍、障がい、セクシュアリティなど問わず、生活者起点ですべての人をお客さまとして考えるからこそ、「多様な方々とどう向き合っていくか」という発想が、当たり前の文化として根付いているのではないかと思います」と石川さん。

石川さんが資生堂に入社したのは23歳の時。志望の動機は、同社が視覚障がいに理解のある企業であったこと。だんだんと目が見えなくなる遺伝性の病気を患っているため、「いつか目が見えなくなっても働き続けられる会社に入りたい」という想いが第一にあったといいます。

「重視したのは、視覚障がいについての理解や、雇用実績があるかどうか。資生堂は「視覚障がいに理解のある会社」と当事者の間では有名で、就職を志望する人も多かったのです。私が就職活動をはじめたころにはすでに障がい者採用を行っていて、視覚に障がいのある先輩も数名在籍していました。ここなら病気のことに負い目を感じず、長く働き続けられる。そう思えたことが、一番の決め手になりました」

 

誰にでもチャンスが与えられる


入社以降、ずっと関わっているのは人事の仕事。社員の人たちが働きやすい職場環境を整える、縁の下の力持ちのような役割であるため仲間に頼られる場面も多く、「日々、大きなやりがいを感じています」とはにかむ石川さん。障がい者採用での入社であっても、任される仕事内容に特別扱いは無いとのこと。「キャリアを伸ばしたい」「いろいろな仕事に挑戦してみたい」という希望さえ出せば、チャンスが与えられる可能性があるという点にも、働きがいを感じているそうです。

特に印象に残っているのは、入社一年目のときに「障がい者能力発揮支援プログラム」の立ち上げにかかわったこと。プログラムでは、ガイドブックの作成や当事者として様々な部門・事業所で啓発の研修を実施した。
障がい者だからという色眼鏡で見るのではなく、本人がどうしたいかをきちんと聞いてほしい、ルーティーンでこなす仕事だけではなく、チャレンジして成長する機会を与えてほしい、ということを活動を通して伝えていったという。

 


障がい者を固有の制度ではなく、配慮で支えるというのも同社の方針。ひとりひとりの社員と個別に話し合ったうえで、業務を進める上で必要なことを補う形でのサポートを行っている。

 

仲間同士で理解を深めるには話し合いときっかけが必要


ひとりひとりの社員が持つ、多様なアイデアを形にしていける企業風土も同社の大きな強み。現在、石川さんが携わっている視覚障がいの方の職域拡大のためのプロジェクトも、ご本人が自ら発案した取り組み。発端になったのは、2019年に社内で行われた「ビューティーイノベーションコンテスト」。新しいアイデアを事業所ごとに提案し合う催しの中で、石川さんのアイデアは日本代表に選ばれ、グローバル全体で二位を獲得。この評価が同プロジェクトをスタートする後押しに。自ら発信し、企画や人を動かしていく立場になったことで、仕事に対するやりがいもより大きくなったそうです。

「まだ楽しむよりも「どうしたらいいんだろう?」という気持ちの方が強いですが、一歩ずつ乗り越えていけば成長していけると信じて、前向きに取り組んでいます。今では、新しい業務や人との関わりの中で色々な気づきを得たことで、少しずつ自信や手ごたえを感じられるようになってきました」

 

 
その気づきのひとつが、ともに働く仲間たちにも障がい理解促進が必要ということ。D&Iに対する理解の深い同社でも障がいのある方との接し方に慣れていない人はまだまだ多く、石川さんが取り組みを始めた当初は周囲との距離を感じることもあったといいます。

障がいの程度や困りごとは人によって異なるもの。どのような配慮が必要かは当事者本人に聞かないとわからないものであり、当事者自身も話さなければ相手に伝わりません。お互いを理解し合い心地よく働くためには、やはり初めの一歩となる会話のきっかけ作りが必要とのことでした。どのようなサポート体制を敷いていくかを人事の立場からもしっかり検討することは、今後の課題でもあるそうです。

「誰もが働きやすい環境を枠組みとして整備していくことは、視覚障がいの方の職域を広げることにも、きっとつながっていくと思うんです。ゆくゆくは、視覚障がいの方ができる仕事の幅はもっと広げていけるということを、社会に示す活動にしていきたいです」

 


 
最後に、自分らしい生き方を軸に仕事を選びたいと考えるZ世代へ向けて、メッセージをいただきました。

「就活は自分を見つめるいい機会。企業の担当者と話すことは、ただ会社を知ることだけではなく、自分の強みや方向性を見出すきっかけにもなるはずです。人との違いがあったとしても、負い目に感じる必要はありません。自分が就活していた時よりも、D&Iは広く浸透してきています。弊社のように、ひとりひとりの社員と向き合ってくれる会社なら、きっと「頑張りたい」という想いに応えてくれるはずですよ。まずは「自分はこういう人間」ということに胸を張って、自身の強みを探し、伸ばす努力をしてみてください」





企業情報:株式会社資生堂