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Update on :2022.12.28

NHKという組織を使ってやりたいことを実現してほしい

大石理恵さん
日本放送協会
人事局 障がい者採用担当

突然ですが、皆さんは日本で最初にテレビ放送されたコンテンツがどんなものだったかご存知でしょうか。正解は、NHK古垣徹郎会長による挨拶。1953年2月1日のことでした。
日本で最も歴史のあるテレビ放送局、そして日本で唯一の公共放送機関であるNHK。その長い歴史の中で、ダイバーシティや働き方改革といった考え方はどのように取り入れられ、どのような変化をもたらしたのでしょうか。15年以上にわたりNHK記者を務め、現在は人事担当として活躍する大石さんにお話を伺いました。

 

大石理恵 さん
人事局 障がい者採用担当

2004年に記者としてNHKに入局。松江放送局を経て、2009年広島放送局に異動。2010年男児を出産。2018年に東京に異動し、2021年から人事局にて採用を担当。

 

大石さんは広島県の出身。NHKに入ったきっかけも、広島にあります。

「祖父が原爆の被害者だったので、原爆や戦争についての報道をやりたかったんです。ディレクターと迷いましたが、記者という仕事を選びました」

数ある放送局の中でNHKに惹かれたのは、NHKが地域目線・地方目線を大事にしている雰囲気を感じたから。

「当時からNHKは東京一極集中ではなく、地域に密着しているように思えたんです。実際に働いてみてもやっぱりそうでした」

と大石さん。広島への思いは、小さな頃から強かったのでしょうか。

「大学4年間は東京でした。よく言われることですが、広島を出てみてはじめて、地元の良さに気づいたんです。原爆の取材をしたいと思うようになったのも、東京に出てからです。東京に出て、自分のやりたいことが明確になりました」

こうして大石さんは、決意を胸に2004年にNHKに入局。記者としてのキャリアをスタートさせます。

「最初の勤務場所は島根県の松江放送局。広島放送局に異動になったのは2009年のことでした。記者時代は警察、選挙、災害など一通りを担当しました。広島では、経済担当として、地元の大企業の取材もしていましたね。私が入局した当時の記者といえば24時間呼び出しがあって、それができなければ記者ではないという時代でした」

情報をいち早く視聴者に届ける。大石さんはそんな職務を全うしながら、2010年に男の子を出産します。

「今は24時間体制ではなく、決まった勤務時間で働く人が増えています。私も出産してからは家事や育児があったので、そのようなスタイルで働くようになりました。自分でもやってみてわかったのですが、24時間対応ができなくても、決まった時間で集中して仕事をすれば、成果をあげることはできます。家事でも育児でも趣味でも、仕事以外の時間を持つことで、自分の発想を広げることになったり、仕事のヒントをつかんだりすることも多いんです」

「そうは言っても、実家にもかなり助けてもらいましたけどね」と笑いながら当時を振り返る大石さん。少しずつ変わってきているというNHK記者という仕事について、大石さんはこう説明します。

「NHKが変わったというよりも、世の中が変わってきたのかなと思いますね。女性の地位向上とか、働き方改革とか。取材する人、制作する人は、世の中に敏感でなければいけません。たとえ面白いコンテンツができたとしても、それが世の中の流れとかけ離れた働き方でつくられたものだとわかったら、視聴者の方の見方も変わってしまうと思うんです。例えば『あさイチ』という番組は、世の働き方が変わってきた中で生まれた生活者目線の番組ですが、視聴者の方にも好評を得ています。視聴者のD&I意識が高まっているので、メディア側としても、意識をアップデートしていかないと」

そして大石さんは、2018年に東京に異動となります。所属先は報道局ネットワーク報道部。

「ニュースWEBという媒体で、ネット記事を書いたりしていました。Twitterで情報を発信することもありましたね」

場所や媒体が変われど、社会人になって以来歩み続けてきた記者の道。そんな大石さんが人事局への異動となったのは、2021年のことでした。

 

記者から人事担当に

 

「私なんで人事局にきたのかなって(笑)」

畑違いの記者と人事。なぜ人事の仕事を任せられたのかは、自分でもわからないと大石さんはいいます。

「ただ、今までは、私に限らずひとつの仕事だけを突き詰めるというケースが多かったんです。今はそれだけじゃなくて、複数の業務を経験することを大事にしようという流れがあって。その流れの中の異動だったのかな、と。実際に記者業界を出て、はじめて見えたこともたくさんあります」

大石さんにとって、新たな経験となった人事という仕事。現在主に担当しているのは、次のような仕事なのだそう。

「今は渋谷の放送センターで障がい者、キャリア採用、地域職員の採用を担当しています。週の半分は在宅、半分が渋谷という感じです。採用というと春というイメージがありますが、インターンなども含めると、一年中やることは尽きないですね」

地域採用とは、一体どのような雇用形態なのでしょうか。

「例えば広島なら広島、福岡なら福岡をベースに働く職員です。元々NHKは全国職員がメインで、地域職員は少数派で、私も全国職員の一人として各地で仕事をしてきたのですが、ここ数年は、地域職員を増やしていこうという動きになってきています。地域職員を増やすことで、より地域に根ざした放送やコンテンツをつくっていこうと。全国職員と地域職員どちらもいることが、多様性にもつながると思うんです」

では続いて、NHKの障がい者雇用についてお聞かせ下さい。

「NHKでは、障がいのある方だけを対象にした採用はやっていません。障がいのある方もそうでない方も、同じ枠組みで採用しています。公式ホームページでも公表していますが、NHKの採用のキーワードは『あなた×NHK=∞(無限大)』。あなたの個性ややりたいことを、NHKという組織を使って実現して下さい、という風に呼びかけています。もちろんこれは障がいがある方も同じです。
障がいがある方には、選考段階から配慮事項を聞き取って面接を進めます。『障がいがあるからこの業務はできない』とは考えず、どうしたらできるようになるか、どんな配慮が必要かを一緒に考え、最終的に内定を出すという形です」

障がいのある方は、実際にどんな業務に就かれることが多いのでしょうか。続けて大石さんにお伺いしました。

「希望が多いこともあり、マネジメント部門に所属することが多いですね。ただ担当者としては、それだけでは充分ではないと思っています。記者やディレクター、アナウンサーなど、放送や現場に近い部門にも、もっと障がいのある方を増やしていきたいんです」

そして大石さんは、こんな例があったことを誇らしそうに教えてくれました。

「東京パラリンピックリポーターから、大阪局のアナウンサーになった女性がいるんです。聴覚障がいのあるアナウンサーの第1号です。彼女が人工内耳をつけてリポーターをする姿を、皆さんすごく印象深く見てくれていて。そういう方を、職員としてちゃんと育てていく。それが私たちの目の前にある大きな目標ですね」

 

自身が経験してわかった多様性の大切さ

 

「これは個人的なことなのですが」。大石さんは、そう前置きした上で、こんなお話も聞かせてくださいました。

「2年前に突発性難聴になったんです。普段は補聴器をつけて生活しています」

人の話を100%聞き取れないかも知れない。集団面接で話を聞き取れなかったらどうしよう。片耳が聞こえづらくなった大石さんは、そんな不安に苛まれたといいます。

「そんな時に、視覚障がいのある先輩記者からメールをいただいたんです。『まだまだできることはたくさんある。他者への想像力も鋭くなります』。色んな苦労をしてきたであろうその方からのその言葉が、すごく心に響いたんです。ジェンダーにしても、障がいにしても、色んな経験をしている方が誰かの支えになる。多様性が大事ということの背景には、そういうこともあると思うんです。今でも不安になると、その言葉を思い出しますね」

耳が聞こえづらくなった経験が、不安で押しつぶされそうになった経験が、今度は別の誰かを救う。やがてそんな未来が訪れるであろうことは、想像に難くありません。

「障がいのある方が働きやすい環境になることは、障がいのない方にとっても働きやすい環境になることだと思うんです。最近では、障がいの内容ごとに、合理的配慮の事例を紹介した冊子を用意しました。例えば聴覚障がいがある方の場合、周りにアクリル板があると声がさらに聞き取りづらくなってしまうので、対面の会議でもオンラインのシステムを活用したり、会議中の音声を字幕化したり。どこまでが合理的配慮でどこからが特別扱いなのか、その線引きがどこにあるかを例示したものです」

そしてこういった変化は社内の風土だけでなく、制作するコンテンツにも現れているようです。

「NHKの番組にしても多様性を推進しようとするものが増えています。内部から見ていて、面白く感じていますね。NHKは公共メディア。ちょっと大げさかもしれませんが、公共メディアを名乗る以上は、社会を映し出す鏡ぐらいのつもりでやらないと。そのための努力やアップデートは怠ってはいけないと思っています」


それでは最後に、読者の皆様へのメッセージをお願いいたします。

「多様な人材がいなければ、多様なコンテンツやサービスは生み出せないという思いで、私たちは採用をやっています。個性や経験、キャリア、そういうものに価値をおいています。障がいのある方ももちろんその対象です。ぜひ応募を検討していただきたいと思います。NHKは公共メディア、公共性を大事にする組織です。視聴者の役に立ちたい、社会を良くしたいという熱い思いを持った方をお待ちしております」

 




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