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Update on :2023.10.30

100周年に向け個の可能性を無限に広げる

安野晋平さん / 鈴木ひなさん
株式会社ポーラ
執行役員 / 人事戦略部ワーキングイノベーションチーム

100周年まで、あとわずか。1929年に個人事業として創業して以来業績を伸ばし続け、今や日本を代表する化粧品会社となった株式会社ポーラ。

ポーラといえば2020年、日本の大手化粧品会社として初となる女性社長が就任したことでも話題になりました。かねてより女性躍進をはじめD&I推進に力を入れており、2015年には「ダイバーシティ経営企業100選」を受賞。2022年には「D&Iアワード2022」において、最高評価である「ベストワークプレイス」に認定されています。

今回お話を伺ったのは執行役員の安野さんと、人事戦略部の鈴木さん。お二人はALLYグループのメンバーという立場で、ポーラのD&I推進活動に携わっています。


安野晋平さん
株式会社ポーラ
執行役員

2002年ポーラ化粧品本舗(現 株式会社ポーラ)入社。
営業支援、宣伝、商品企画などを経て、地域の営業組織責任者であるセンターマネージャーを歴任。(センターマネージャー在任中の2018年、長女が生後半年のタイミングで育休を取得。)
その後、2019年より経営企画部長として創業100周年に向けた中期経営計画策定などを担当し、2022年に執行役員就任。
ALLYグループメンバー



鈴木ひなさん
株式会社ポーラ
人事戦略部ワーキングイノベーションチーム

2021年株式会社ポーラに入社。
人事戦略部ワーキングイノベーションチームにてDEIを担当。
ALLYグループの運営メンバーとして毎月の企画運営も行う。


ALLY参加を決めた「公」と「私」の理由


最初にお話を伺ったのは、ポーラ歴20年以上になる安野さん。安野さんは就活当時のことをこう振り返ります。

安野さん「私がポーラに新卒で入社したのは、今から20年ちょっと前のことです。当時は、就職氷河期と言われる時代でした。その頃は、多くの企業が就活生を数多いる学生の一人という目線で見ていました」

1993年頃から2004年頃にかけ、バブル崩壊の影響による就職難、いわゆる就職氷河期が訪れました。日本中の企業が採用を渋った結果極端な買い手市場となり、1999年には有効求人倍率が0.48倍にまで落ち込みました。

安野さん「そんな中でたまたま参加したのがポーラの説明会でした。社員の方とコミュニケーションをさせていただく中で、ポーラは私を安野個人として、一人の人として接してくれているように感じたんです。化粧品会社に就職するということで周りには驚かれましたが、何をやるかより、誰と働くかで会社を決めました」

個を尊重するという方針は、実際の働き方にも表れていると安野さん。

安野さん「コロナ以前はフル出社、コロナ禍においてはリモート中心というのが基本的な働き方でした。今はどうなっているかというと、「出社を前提としない働き方」という基本方針以外の詳細は、あえて決めていないんです。自分らしく生産性を高めていくための働き方を、自分自身でデザインして下さいと委ねられています。何日間は必ず出社してくださいという定めもありません。ただ自由である分、責任も伴ってきます。企業と社員の信頼関係がなければ成立しない、ポーラらしいやり方だと思いますね」

安野さんは本業の傍ら、なぜALLY活動に参加されるようになったのでしょうか。

安野さん「社内でALLYグループが立ち上がったのが、2021年の夏頃でした。その時に社内中に声がかかり、私も一人の社員として応募させていただきました。参加を決めた理由としては『公』と『私』によるものがあります」

ではまず「公」の理由から教えていただけますか。

安野さん「2029年に、ポーラは100周年を迎えます。そしてアライグループが立ち上がった2021年というのは、100年周年に向けた中期経営計画がちょうどスタートした年でした。現在ポーラでは『私と社会の可能性が信じられる、つながりであふれる社会へ』を100周年に向けたビジョンとしていますが、このビジョンを新たに掲げたのも2021年のことです」

安野さんは当時経営企画部の部長で、まさにビジョンを作る立場だったと言います。

安野さん「100周年に向けたビジョンの方向性に導かれるように、その頃からAllyグループをはじめとしたワーキンググループが社内で次々と立ち上がりました。私もビジョン達成のために旗を降っているだけでなく、実際にその中に飛び込んでみたいと思ったんです」

一方の「私」の理由というのは、どんなものだったのでしょうか。

安野さん「私には今6歳になる娘がいます。2021年当時はまだ、娘は4歳で保育園の年少さんでした。その娘が家で『◯◯ちゃんは女の子だから』『◯◯君は男の子だから』なんて話をしていたんです。今の日本社会はまだ、4歳児にそんなことを言わせるんだなと感じました。ただ私自身、バイアスのような発言には気をつけていたし、フラットでいるべきだと思っていますが、改めてこういうテーマについて深く考えてきたわけではありません。娘がLGBTQ+当事者である可能性もあるし、この先周囲との関係性で悩むことがあるかもしれない。そうしたときに子どもにとっての一番の理解者であるため、ALLYグループに参加したいと思ったんです」

ポーラ社員としての安野さん。親としての安野さん。そのどちらもが、今の安野さんの個を形成しています。公と私の重なりについて、安野さんはこんなお話も聞かせてくれました。

安野さん「6年前、娘が産まれて少しした時に、育児休業を取得したんです。その当時私は管理職でしたが、それまで男性の管理職で育休をとった人はいませんでした。そのため、育休を取得したいと伝えた時は『え?』という周囲の声もゼロではありませんでした。ただ自分が育休をとることで、今後同じような境遇の人に道を作れるんじゃないかという思いもあったんです。周りの人や上長にその思いや考えを伝えたところ、よく理解をしてもらえて、背中を押してもらえました。今は男性の育児休業の取得率も上がっていますし、期間にしても3ヶ月目安に伸びていますが、私の場合は半月ほどの短期。それでも一時的に仕事を離れ一人の生活者として過ごすことで、色んな観点を持つことができました。子供の前では何にもできない。そんな気付きも大きかったんです。いざ職場に戻ったら、周りから『よく人の話を聞くようになりましたね』『温かみが出てきましたね』なんて言われましたね。それまでどう思われていたんだって話ですが(笑)」

こうして育休から復帰し、娘さんへの想いもあってALLYグループの一員となった安野さんですが、グループでは普段どんな活動をしているのでしょうか。

安野さん「『しっかり正しく理解する』をテーマにしたディスカッションがメインの活動になります。これまでに学べたことはとても多いですね。世の中ではよく『ダイバーシティ=イノベーションの源泉』といった表現をしますし、私もそういう教科書的な解釈をしていました。でもそれはあくまでも結果であって、DE&Iの本質は人権尊重そのものなんです。個を個として尊重しリスペクトし合うことで、個の可能性が無限に広がっていく。その結果として、企業としても骨太な競争力が培われていく。私はALLYグループに参加するまで、その結果の部分だけを語ってしまっていました」

ALLYグループが社内に誕生して、安野さんとしてはどのような変化を感じていますか。
安野さん「具体的な変化についてはこの後鈴木さんにお話ししてもうおうと思いますが、発足から1年で人事制度まで変えてしまったのですから、とてつもない影響力を感じていますね。社内の風土として、職制や役割、セクションにとらわれずに『この指とまれ』をする社員もすごく増えていると実感しています。社員による勇気ある発信があって、それに賛同する仲間が集まって、共にアクションを起こしていく。その素晴らしさを日々教えてもらっています」

では最後に、安野さんから読者の皆様にメッセージをお願いいたします。

安野さん「仕事をしていれば、良い時楽しい時ばかりでなく、悪い時や苦しい時も必ず訪れます。それはどんな方でも、どんな職種でも同じです。そのためどんな状況でも、自分自身の仕事が社会をより良くすることにつながっているんだと自信を持てるブランド、企業で働くことが大切になると思います。最近では色んな企業がパーパスを表明しています。それをしっかりキャッチアップして、丁寧に見て、心から共鳴できる企業をぜひ見つけて下さい。そんな企業であれば、きっと理解し合える多くの仲間が待っているはずです。そして、どこかの企業に就職した後も、一人の生活者としての目線を持ち続けてほしいと思います。所属するという意識ではなく、会社を良い意味で利用して、自分個人の個性や感性を全面に出していって下さい」




ポーラに入社して「私なんて」が減った


続いてお話を伺ったのは人材戦略部の鈴木さん。鈴木さんはインターンを経て、2021年にポーラに入社をしました。安野さん同様、入社の決め手となったのは個の尊重だったと言います。

鈴木さん「一目惚れでした。大学3年生の頃からずっと、ポーラ関連で参加できるものはできる限り参加したし、全インターンにも参加しました。ポーラは、個を見てくれる会社です。新入社員だから、若手だから、学生だからだからといった枠組みではなく『鈴木さんはどう思う?』ということをとても大切にしてくれます。インターンの頃から、それをすごく感じていました。この会社なら、私らしくいられるかもしれない。今自分が引け目に感じているようなことも、受け入れられるかもしれない。この先同じようなことで悩んでいる方のために、働きかけができるかもしれない。そう思って入社をしました」

鈴木さんは人材戦略部のダイバーシティ担当者として、またALLYメンバーとしてポーラのDE&I推進活動に携わっています。これまで反響が大きかった施策としては、どんなものがありましたか。

鈴木さん「2022年の1月に、福利厚生の適用範囲を同性パートナー、事実婚パートナーにも広げました。これについては社内だけでなく、X(旧Twitter)でも大きな反響がありましたね。こういう制度がある、またはこういう準備を進めているということには、社内外を問わず反響をいただいています。会社として取り組む意義があるものだと感じています」

今後はどのような方針で取り組みを進めていこうとお考えですか。

鈴木さん「今までポーラは、女性活躍に重きを置いてきました。今後はそれだけに留まらず、個性活躍というテーマに取り組んでいきたいと思っています。属性のマイノリティに注目してフォローをしたり配慮をしたりという段階から、さらに一歩進んでいきたいんです。これまでの施策は、どちらかといえば特定の誰かを助けるためのものでした。そこから一歩進み、個の可能性を自身も周囲も見出していけるような取り組みができれば、誰かのためではなく皆のためのダイバーシティになります。誰もが自分の可能性を諦めず、能力を発揮し、主体的な選択ができる環境。その実現を目指していきたいと思っています」

学生時代から、インターンとしてポーラに関わっていたという鈴木さん。ダイバーシティに関しても、当時から興味があったのでしょうか。

鈴木さん「いえ、今でこそダイバーシティに携わっていますが、学生時代はまったくの無知でした。社会人になってから、ポーラに入ってから学び始めたかたちです。ただ興味を持つきっかけとなったのは、学生時代の親しかった先輩でした。その先輩がある日、SNSで生物学的には女性だけど、心は男性であるとカミングアウトしたんです。その時私は、すごく戸惑ってしまいました。ネガティブな感情はなかったけれど、自分自身がどうしていいのかわからなかったんです。今思えば、わからなければ本人にどうしたらいいのか聞けばいいだけの話です。でも当時私がとった手段は、触れずに過ごすことでした。それがずっとモヤモヤしていて、そのモヤモヤは社会人になっても晴れませんでした」

そんなときにたまたま、ポーラの社内でALLY活動があるということを知ったと鈴木さんは言います。

鈴木さん「ALLY活動があると教えてくださった方に、『何もわからないけど、興味がある』と正直に伝えました。そうしたら『一緒にやってみよう』と誘ってもらえたんです。今は人事という立場としてもALLY活動に携わっていますが、今後はこういった有志の活動についても力を入れていきたいです。とは言っても人事としてこういうことをやってください、こういう団体を作ってくださいと強制するのではなく、あくまでも社員の思いを尊重したサポートができればと思っています。今でも有志グループには支援金や発表の場を会社から提供していますが、もっと盛り上げていきたいですね」

ALLYグループでは、具体的にどんな活動をされているのでしょうか。

鈴木さん「毎月第三火曜日にミーティングをしています。ALLYの参加者は全部で約60名。全員が参加できるわけではありませんが、できるだけ都合を合わせてもらっています。テーマは例えば『カミングアウトされた時の対応』『多様性に不寛容の是非』『世界から見た日本の包摂度』など回によって様々で、正解を見出すことが目的ではなく、それぞれのメンバーがどう思うかということを大切にしています。他にもALLYであることを表明するロゴを作ったり、社内で流す動画を作ったり、時には外部の方をお招きしてお話することもあります」

ALLYの活動が活発になることで、社内にはどんな変化がありましたか。

鈴木さん「ALLYメンバーは、誰かを助けたいという思いよりも、自分ごととしてそれぞれのテーマに臨んでいます。最近ではミーティングに参加するだけでなく、そこで得た知識を事業部に持ち帰って、例えば接客にこう活かせるんじゃないかといったように、自身の業務に反映する方が増えてきました。自分の能力で何ができるか、自分の思いで何ができるかという段階にシフトしていると感じますね」

では最後に、鈴木さんから読者の皆様へメッセージをお願いいたします。

鈴木さん「私はポーラに入社して『私なんて』と思うことが少なくなりました。誰にだってマイノリティ性や自信がないこと、悩みはあると思います。学生時代の私はそれを隠そうとしていましたが、ポーラに入ってからはそれを踏まえた上で、補い合ったり活かしたりということができるようになりました。そして悩んだ経験、受け入れた経験、乗り越えた経験というのは、いつか同じ境遇にいる誰かを救うことにつながるはずです。そういう風に生きられたら、素敵だなと思います」





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