世界を代表する格付け会社として、100年以上に渡り、クライアントの意思決定を支援してきたムーディーズ。世界40ヶ国以上の拠点と14,000人の従業員を擁し、その存在感はまさにグローバルと言えるでしょう。
DE&IはムーディーズのDNA。世界各国あらゆる拠点で専門的知見を蓄積してきたムーディーズは、自社にとってのDE&Iの位置付けをそう表現します。そこまで言い切れる理由とは一体どんなものなのでしょうか。グローバルでチーフ・インクルージョン・オフィサーを務めるマルティネス・ガルシアさんと、ムーディーズ・ジャパンで代表取締役を務める清水さんのお二人に、お話を伺いました。
フランシスコ・マルティネス=ガルシアさん
Moody’s Corporation
チーフ・ダイバーシティ、エクイティ・アンド・インクルージョン・オフィサー(CDO)
2023年1月にチーフ・ダイバーシティ、エクイティ・アンド・インクルージョン・オフィサー(CDO)に就任。データ主導のアプローチでDE&I戦略を策定し、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの達成に向けて組織を推進する。
清水 直樹さん
ムーディーズ・ジャパン株式会社
代表取締役
ムーディーズ・ジャパン株式会社の代表取締役を務め、ムーディーズ・ジャパンを取り巻く事業環境に即した経営、社内外(兄弟会社であるムーディーズ・アナリティックスを含む)の関係者・経営幹部との関係を構築・維持する。グローバル・ビジネスラインでは日本におけるコマーシャルグループ(リレーションシップ・マネジメント・チーム)を統括し、事業開発を牽引するとともに、資本市場における社債発行体顧客との取引関係や格付アドバイザリー・社債引受幹事会社等(インターミディアリー)との関係を統括する。
自分らしくいられることに安心感を
「ムーディーズでは、真のインクルージョンとムーディーズの一員であるという従業員の意識を育む企業文化を目指しており、従業員一人一人のユニークな視点と貢献を重視しています。多様性と公平性は、インクルージョンが浸透した職場を築くために不可欠であると考えています。私たちは、お互いの本質を受け入れ、誰もが自分らしくいることを奨励し、恐怖や評価に縛られないことを推進しています。これを私たちは「Intentional Inclusion (意識的なインクルージョン)」と呼んでいます」
今年の1月にチーフ・インクルージョン・オフィサーに就任したマルティネス=ガルシアさんは、ムーディーズがDE&Iに取り組む意義をこのように説明します。
「意識的なインクルージョンは全ての人々のためのものであり、それは私たちの組織のあらゆるレベルと側面で響き渡っています。リスクにまつわるビジネスのグローバルエキスパートとして、このアプローチは私たちの意見を強固にし、提供するサービスや製品をより革新的にし、職場を親しみやすい環境にし、お客様に対する私たちの対応を改善します。私たちは、私たちの14,000人のイノベーター全員がインクルーシブなマインドセットを持ち、それを全ての行動で模範とすることを期待しています」
多様性を力に。マルティネス=ガルシアさんご自身の生活も、多様性に満ちたものであると言います。
「私はメキシコ出身で、現在はアメリカで働いており、フランス人の男性と結婚し、多文化的な二人の父親がいる家庭で二人の小さな子供たちを育てています。私のアイデンティティ、過去の経験、そしてユニークな状況は、困難と強みの両方をもたらしてきました。しかし、ムーディーズで自分自身の本当の姿を表現する自由を持っていることは、非常に幸運だと感じています。チーフ・インクルージョン・オフィサーとして、私はすべての従業員が自分らしい姿でいることに安心感を覚えるようにしたいと思っています」
日本でこの記事をご覧になっている皆様の中には「自分らしさ」を軸に企業探しをしている方がたくさんいらっしゃいます。そんな皆様に、マルティネス=ガルシアさんからメッセージをお願いいたします。
「ムーディーズでは、インクルージョンは単なる目標ではありません – それは私たちの推進力です。それは私たちのチームの可能性を広げ、優れたビジネスパフォーマンスへの道を開き、私たちが大きなインパクトをおこすことを可能にします。 ムーディーズは、120年以上の歴史をもち、統合的なリスク評価会社として市場をリードしています。そして、真の成功はインクルージョンから生まれると認識しています。人々がベストでいられる・ベストを尽くせる(そしてもっと革新する!)のは、自分の意見に耳が傾けられ、価値が認められ、尊重されていると感じるときです。このインクルーシブな文化へのコミットメントは単なる良い習慣ではありません – それは私たちが築いている未来であり、あなたのキャリアと、私たちのビジネスのためのより明るい展望を約束します」
DE&Iは個人的にも人生のテーマ
続いてお話を伺ったのは、ムーディーズ・ジャパンの代表取締役を務める清水さん。現在40ヶ国以上に拠点を持ち、約14000人の従業員を擁するムーディーズにとって、DE&Iと向き合うのは必然だったと清水さんは説明します。
「それぞれの拠点で、様々な国籍や文化を背景に持つ人が働いています。ダイバーシティは、ビジネス開始当初から今にいたるまで、会社が自ずと向き合わざるを得なかった課題であり、自分達が育んできた文化だったのだと思います。ムーディーズは格付け会社として、自分たちの意見をお客さまに提供する立場です。それゆえ我々は既存の考え方だけにとらわれず、常に新たな視点を持ち、中立的な立場でなければいけないと考えています」
ムーディーズがムーディーズであるために必要だったDE&Iの精神。そしてそれは日本でも変わらないと清水さん。
「ムーディーズ・ジャパンの格付け評価は必ずしも日本仕様というわけではありません。事業上の取引や財務活動を国内外で展開されるお客様にとって、どこの拠点でも、世界中で共通言語として使えるというのが、ムーディーズのビジネスのバリューでありセリングポイントです。そのため日本でオペレーションをしていても、日本の中では仕事が完結しません。日本拠点で対象とするお客さまは日系企業や外資系の日本拠点がメインですが、実際の仕事は海外とのたくさんのやりとりがあって、成立しています。国籍も違う、考え方も違う人たちが、ひとつひとつの格付け評価やそれをサポートするオペレーション業務に関わっているんです」
「ちょっと大袈裟かもしれませんが、DE&Iは個人的にも人生のテーマです」と清水さんは続けます。
「高校時代に、アメリカの南部ジョージア州に交換留学をする機会がありました。当時はまだまだ人種差別が色濃かった時代で、アジア人は結構からかいの対象でした。言葉も通じない。友達もできない。その時はまだ『社会にはダイバーシティが重要なんだ』なんて高尚な問題整理ができるほど大人ではありませんでしたし、強い挫折感を覚えました。コミュニティが変わったりマイノリティの立場になると、人はいとも簡単に心が折れ、自分の位置付けがこんなにも変わるのだなと意気消沈の日が続きました。強烈な体験でしたね」
そして1年後帰国した清水さんを待っていたのは、さらなるカルチャーショックだったのだとか。
「それでも留学後半はスポーツやアジア人役の舞台芝居にキャストされる等の交流がきっかけでアメリカ生活に馴染めて、終わってみればそれなりにかぶれて帰ってきたんです(笑)。アメリカは、良い意味で自分を出せる国です。自分で自分らしさを追求して良いんだということを学んで帰ってきました。しかし日本は、同質性を求められる。1年の留学でしたが、帰国した私は日本の基準から外れてしまっていました」
留学当時は、誰に対してもお人好しで笑い上戸を自分のキャラクターとしていたと回顧する清水さん。アメリカでは愛されたそのオープンマインドと笑い声がどういう訳か日本では受け入れられず、自然と控えるようになり内向きになっていき、大学進学してもその傾向は続いたと言います。そんな清水さんが再び自分らしさを取り戻したのは、ムーディーズの前の職場でのことでした。
「前職は金融機関で、残業の多い職場でした。そんな中で私は、一人で早く帰るということを繰り返していました。先輩も上司もいる中で、それなりのエネルギーを使って、おそるおそる帰る。それは自分なりの挑戦であり、自分なりのダイバーシティでした。まわりに同調せず、成果物を出せたときの喜びや気持ちよさは、今でも忘れられません。次第に自分がイメージしている自分像と周囲の評価が一致していったことで自信を取り戻していったことを記憶しています」
既存のやり方や慣習にとらわれなくてもいい。皆がもっとそう思える社会になったらいい。その後ムーディーズへの転職を決めた清水さんの胸には「この会社で組織的にDE&Iに携わりたい」という思いがあったと言います。
「ムーディーズは私が入社するずっと前からDE&Iに力を入れている会社ですが、特にそこに惹かれて入社したわけではありませんでした。たとえそうでない会社でも、自分を出せる自信はあったんです。ただ実際に入ってみたら、DE&IはDNAだとまで言い切っている。その波に乗れたかなとは思います。高校生や社会人なりたての頃に比べたら、社会の取り組みとして活動できるようになったかなって、少しながらの成長を感じています(笑)」
そう言って笑う清水さん。留学中の清水さんもまた、こんな風に笑っていたのかもしれません。
「そうは言っても人間はやっぱり、同質なものに傾きがちです。どんなにDE&Iが大切だと言っても、DE&Iを追求していくことは必ずしも楽なものではありません。その過程で、お互いに自分と違うものと向き合わなければいけない瞬間も訪れます。楽しいこと、知見が広がるだけではなく、ときに自分が受け入れられていないと感じたり、逆に他人を面倒に感じることだってあると思います。すぐに飲み込めるものもあれば、自分とは違うかもというものも当然ある。ただそのコンフリクトを経てそれを乗り越えた先に、次の境地があります。これからも推進活動を継続して、もっと皆が自然にこういう話をできるようにしたいと思っています」
では「自分らしく働く」ということをテーマに就活をしている、読者の皆さんへのメッセージをお願いいたします。
「自分らしく働くということは、働く本人と雇用側双方にとって大事なテーマだと思います。そして社会に出る、会社で働くという活動は、自分らしさを本当に自分で理解できているかを確かめに行くことでもあります。業務を遂行できる知識を身につけ、成果をだせるよう取り組みつつ、多様な個人やグループ、仕事へのアプローチや考え方等のダイバーシティに直面することで、自分らしさは磨かれていき、時に新しい自分に出会う経験もすることでしょう。本当にやりたいことや自分の個性・強みを自己認識できるようになったら、今度はそれをとことん追求して欲しい。これこそがダイバーシティに取り組む意義だと思います。仕事における最大のパフォーマンスは、働く人たち全員がそれぞれの自分らしさを受け入れられ、自らを発揮できることを実感できる環境にあってこそはじめて生まれるものだと考えるからです」
最後に、タレント・チームのBlair Zhangさんからもコメントをいただきました。
「ムーディーズは、単なる企業ではなく、14,000人のイノベーター(革新者)の集団です。世界40カ国以上でプレゼンスがあり、お互いを尊重し、深い洞察力と学習意欲をもち、問題解決に積極的な姿勢を持つプロフェッショナルを求めています。一緒に未来を創造しましょう」