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Update on :2021.10.28

障がいがある自分だって、誰かのアライになれる。 そう思えるようになったことが、成長の証です。

上東野薫さん
株式会社セールスフォース・ドットコム
セールスディベロップメント本部 営業戦略室

米国カリフォルニア州に本社をおく、株式会社セールスフォース・ドットコム。クラウドベースの顧客管理・営業支援を提供するCRM(顧客関係管理)ソリューションのリーディングカンパニーです。「平等(イクオリティ)」は、同社が掲げるコアバリューのひとつです。国籍、文化、経験、ジェンダー、障がいの有無を含め多様性を持つことは、企業が成功を収め、革新的であり続けるために欠かせない要素であるとしています。今回はそんなセールスフォース・ドットコムの上東野薫さんに、同社で働く魅力についてお伺いしました。

上東野 薫(かとうの かほり)さん
株式会社セールスフォース・ドットコム
セールスディベロップメント本部 営業戦略室


業務は主に内勤営業のデータ分析を担当。
Abilityforceに参加したきっかけは採用担当してくれた社員に誘われたことです。現在はAbilityforce JapanのCommunications Leadを担当しており、社内外の情報発信促進のため活動をしています。
 

小学校6年生の誕生日前日に「てんかん」と診断されて…

 
千葉県出身の上東野さん。上東野と書いて「かとうの」と読みます。ご本人いわく「親戚以外同じ苗字に会ったことがない」ほどの珍しい苗字です。千葉県の学校では吹奏楽が盛んで、子どもの頃から吹奏楽に親しむ人も多いとか。上東野さんもそのひとり。小学校時代はクラリネットが好きで、毎日一生懸命に練習していたそうです。そんな上東野さんがてんかんと診断されたのは小学校6年生。くしくも誕生日の前日だったそうです。
「自分は健康だと思って、今まで過ごしていたので、まさに寝耳に水でした」
その日から、上東野さんの生活は一変しました。大好きな部活を辞め治療に専念。血中濃度が安定するまで学校を休むことも珍しいことではなくなりました。なにより辛かったのが、周囲の態度が急に変わったことでした。
「私がてんかんだと分かると、病気がうつるのではないかと露骨に避けられるようになりました」
てんかんは身体をピクンとするものから倒れるものまで発作症状は様々ですが、伝染の心配はありません。正確な情報が届かず、誤解から不安が生まれ、偏見の原因となってしまったのでしょう。そのため上東野さんも「自分が迷惑な存在ではないか」と自分自身を責めたことも一度や二度ではなかったそうです。そこで、上東野さんは学校以外のつながりを見つけて、なるべく外部との交流も増やすことにした結果、徐々にポジティブに考えられるようになったそうです。
 

高校卒業後に通った就労移行支援事業所で運命の扉が開く

 
高校卒業が迫り、大学へ進学するか就職をするかギリギリまで迷った上東野さんでしたが、障がい者の就労支援・雇用支援を行う就労移行支援事業所に通うことに決めました。そこでビジネスマナーをはじめ、仕事に必要なプレゼンやロールプレイ、さらには実地研修を経て、求人票にあったセールスフォース・ドットコムの求人内容を見て「この会社なら」と思い就職を希望しました。
「障がい者を特別視しないで、勤務時間や仕事内容に枠を設けることなく、能力とやる気次第でさまざまな仕事を任せてくれるところに魅力を感じました」
同社では障がい者採用の時点で、障がいの特性、心身の健康状態を十分把握したうえで、業務内容と本人の持つスキルに大きなギャップはないかできる限り確認しています。それも安心の材料になったようです。
 

入社後はバックオフィスの一員として営業チームをサポート

 
現在、上東野さんはセールスディベロップメント本部営業戦略室に所属。バックオフィス部門で、営業チームのためのデータ分析や資料作成など、営業チームが効率よくビジネスを進められるようサポートするのが役目です。
「支援事業所で勉強していたとき、Excelを使ったデータ分析が得意だったので、今それを活かせるので満足しています。営業チームの成績が、自分が分析し計算した通りの数値が出たり、作成した資料などが活用されていると、自分が役立っているという実感がします」
高校卒業するときは、就職先に特に希望はなく「お給料がもらえればいい」くらいの気持ちしか持ってなかったというのだから、環境が変われば人は変わるものです。
上東野さんは10~15人程度のチームのメンバーと仕事をしていますが、学生時代と一番違うのは、「自分が障がい者ということを必要以上意識しなくなった」ことだとか。
「学生時代は障がいがある私のことを気にかけて、私が何かしようとすると周囲の人が手助けをしてくれました。親切心からのことなのですが、自分ができることを手伝ってもらうと、自分が何もできない人間と思われているのではないかという疑心暗鬼に陥りモヤモヤとした気分になりました。入社してからは、私が本当に困っているときは別ですが、普段は普通の社員のひとりとして接してくれるので、すごく心が軽くなりました」
障がいがあろうがなかろうが、社員のひとりとして、自立した人間として扱う。できそうでいてなかなかできないことです。それができるのも、同社が「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「平等(イクオリティ)」のコアバリューを掲げ、従業員一人ひとりが自分らしく、生き生きと働ける職場、社会を目指している成果のひとつなのかもしれません。

「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「平等(イクオリティ)」が同社のコアバリュー

 

障がいがある自分も、誰かを力づけたり、手助けができる

 
上東野さんは社内のAbilityforceのメンバーとしても活躍しています。Abilityforceは、障がいのある人たち、障がいのある家族を持つ従業員、そしてそのアライ(当事者をサポートする支援者)をつなぐイクオリティグループ(マイノリティのコミュニティを支援する従業員主導の組織)です。そこで上東野さんはコミュニケーションチーフとして情報発信促進のための活動をしています。
「Abilityforceの目的は、すべての従業員が自身の能力や才能を存分に発揮できるような企業文化を育むことです。社内のアクセシビリティや設備に対する従業員の意識を変えるべく、さまざまな取り組みを行っています」
Abilityforceがあることは、入社前に聞いていたそうですが、参加したのは入社して半年後からでした。
「中高生時代は、障がいがあることで、卑屈になって自分の世界に閉じこもりがちでした。そのことを周りに話してみると、似たような悩みを抱えていたり、経験していることを知って、自分が話すことで誰かを力づけたり、手助けができるならと思い、参加する決意をしました」
以来、上東野さんは障がい当事者の話を聞くイベントなどに年間10~12回参加しています。
「話すことは障がいがありながら、具体的にどんな風に働いているかとか、職場環境や人間関係など多岐に渡りますが、私が一番言いたいことは、障がいを持っていようがいまいが、人間そんなに変わらないということです。五体満足健康優良児でも苦手なことは少なからずありますよね。個人の健康状態のことを障がいと考えるのではなく、やりたいこととできることのミスマッチが起きることを障がいと考えています。私自身障がい者ですが、サポートしてもらうだけの存在ではなく、私も誰かのアライであると前向きに考えて発信できるようになったのは、入社してから成長した証だと思っています」

Abilityforceの活動では「障がいを持っていようがいまいが、人間そんなに変わらないんです」と常々語っているそうです。

社会人となり人間としても成長した上東野さんから、読者の皆さんにメッセージをいただきました。
「障害のことを考えたり、周りから『無理だよ』と言われるとネガティブになることが多いと思いますが、自分のやりたいことを信じ、それを周りにも話すことが一歩前に進むことです。当社で働くようになり、障がいのことを意識することがあまりなくなり、障がいを自分の一部として考えられるようになりました。入社前は私の身体のことを心配して就職に反対していた家族も、今は応援してくれるようになりました。当社は障害の有無に限らずひとりの人間として見てくれます。平等(イクオリティ)が価値観として根付いている会社だと思いますし、自分らしくいられる環境だと思っています。もし興味を持っていただけたならば、勇気を持って当社のドアをノックしてください。お待ちしています」