
北村 裕介さん
野村ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進室ダイバーシティ&インクルージョン推進課
映像製作会社、産業科学技術系の翻訳会社でプロジェクトマネージャーとして勤務した後、2015年3月から野村證券株式会社に勤務。2010年より、本業と並行してLGBT映画祭を中心にLGBTの関連イベントで約7年プロボノ活動に従事する。現在はサステナビリティ推進室ダイバーシティ&インクルージョン推進課に所属。職場での多様性の理解推進のため、ダイバーシティ推進企画、社員ネットワークの事務局を担当。国家資格キャリアコンサルタントを取得。ゲイであることをオープンにして働いている。
D&Iは社内だけの問題ではなく
社会を豊かにするための課題である
野村ホールディングスが掲げるD&Iの定義は、「様々な価値観、経験、働き方などの多様性を尊重し、互いに認め合う。ひとり一人の社員が、安心してやりがいをもって働く環境を整備していく」こと。組織を超えて他者と協働することは、企業の競争力を高めるために必要なことであり、持続可能な企業を目指すうえでもD&Iは不可欠なものと考えているそうです。
トップダウンによるD&Iの推進とともに、社員がボランティアで活動するボトムアップの取り組み。その推進の中枢を担うのが、北村さんが所属するサステナビリティ推進室。
「同部署のD&Iの方針は「新たな価値を生み出すために、多様性を尊重し、組織や立場を超えて協働する」という企業理念の価値観の1つに組み込まれています。また「社会課題の解決を通じて持続的な成長を実現する」という経営ビジョンのもとESG(※)の考えに沿って、社内だけでなく社外にも目を向けてD&Iを浸透させていくこと。まだまだ社内風土の醸成は必要ですが、様々な社会課題に取り組んでいくことは、社会から求められていることであり、企業としての役割であると認識しています」
[注釈]
※環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字を取った造語。企業の長期的な成長のためには、この3つの観点に基づいた取り組みが重要と言われている。

3つのネットワークの合同MTGの様子
ボトムアップの取り組みで社内のD&I推進を支えるのは、約2000名の社員がボランティアとして自主的に参加・運営を行う「社員ネットワーク」です。「ウーマン・イン・ノムラ(WIN)ネットワーク」は女性のキャリア推進、「ライフ&ファミリー(L&F)ネットワーク」は健康・育児・介護、「マルチカルチャー・バリュー(MCV)ネットワーク」は多文化、LGBTA、障がい者をテーマに、情報発信や啓発イベントをそれぞれが企画・運営。今年で発足から10周年を迎えるのを機に、将来の展望に合わせて方向性を一新する予定だといいます。
「社内風土の醸成だけではなく、活動の目線を社外にも広げ、多様な人々が安心して暮らしていける社会の創造を目指すことが、これからのネットワークの新しい目的です。各地域のレインボープライドをはじめ、チャリティランなど社内外のイベントに協賛してきた実績はありますが、これからはさらに一歩踏み込んで、自社だけではなく他社との協働による業界自体の風土醸成や、コミュニティへの支援とともに一緒に社会を変えていくというスタンスでいこう。もっと取り組みを掘り下げていこうと、チームメンバーと意見を出し合っています」

社員ネットワークの活動の様子
違いを受け入れ、
共に声を上げてくれる
仲間がたくさんいる
現職に就く以前から、「よりよい社会になるために何かしたいという思いがあった」という北村さん。大学卒業後は映像制作会社へ就職。映像という広告を通して社会を変えるメッセージを発信したいという思いはあったものの、すぐ仕事に直結する環境ではなかったそう。
そこで関心を持ったのが、映像制作業界ならではのスキルや人脈を生かしたプロボノ活動。本業と並行しながら「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」(現:レインボー・リール東京)の協賛担当を務めるなど、社会に貢献するためのNPO活動に取り組んできたといいます。活動を通じ、様々な企業の担当者と接点を持つなかで知ったのが、「ダイバーシティを推進する仕事」の存在でした。
「そんな仕事があるならぜひやりたい!と思っていたときに、たまたま野村證券で担当のポストが空いているという話を聞いたのが、当社を志望したきっかけです。いずれはゲイであることをオープンにして働きたいと思っていたので、D&Iへの理解があることも後押しになりました」
北村さんが野村證券に入社した2015年ごろは、LGBTを含めたD&Iに取り組んでいる企業はそう多くはありませんでした。そのため社内でダイバーシティの推進活動が盛んに行われていることや、自分がゲイであることが目立たないくらい多様なバックグラウンドの方が働いていることは、とても画期的な光景だったといいます。
「特に感動したのは、「アライ」と呼ばれるLGBTの理解者を増やす取り組みが行われていたこと。当事者が声を上げるのも大切ですが、声を受け入れてくれる理解者がいることは、とても心強かったですね。入社してすぐにカミングアウトをしたのですが、周囲のアライの方々が働きやすい職場づくりをしてくれたおかげで、居心地よく働くことができています。すごく嬉しかったのは、社内イベントの申請を出しに行った時の出来事。これまでは自分が先頭に立ってあれこれ説明する立場だったのが、社員ネットワークのアライの仲間が私の前に立ってLGBTの現状や催しの必要性を訴えてくれる。その背中をみながら、熱意をもって向き合ってくれていることを肌で感じて、すごく胸が熱くなったのを覚えています。同時に私自身も、自分とは違うバックグランドを持つ方々のアライとして、課題解決に向き合っていきたいと、より強く思うようになりました」

社内セミナーの様子
あらゆる社会課題を解決して
すべての人が笑顔にならないと幸せと思えない
大学のころからジェンダーやフェミニズムを学び、ご自身の母親や前職での女性の先輩たちが、女性ならではの課題でキャリアに苦労してきたのを間近で見てきたという北村さん。周囲の人たちの歯がゆい思いを知るだけに、同社に入社してからの職務で女性活躍の研修や社内のジェンダーをはじめとする様々な問題に携われるようになったことで仕事へのやりがいも、さらに高くなったそうです。
「同質性の高い組織より、多様な人々がいきいきと働ける職場のほうが、LGBTの当事者にとっても働きやすくなる傾向が高いと思うんですよね。男女の課題を解決するだけでは、すべての人が幸せになるわけではないし、社会も変わりません。やはり、障がい者、外国人、エスニシティ、LGBTなど様々な属性の課題ととともに、多様な価値観、考え方や経験の多様性と並行して向き合っていくことが、肝要なのではないかと考えています」
様々な人がやりがいをもって、安心して働ける職場を作り上げていくことは、友人や家族のためであり、ひいては自分のためにもなると、北村さんは目を輝かせます。
そんな北村さんが次に目指すのは、ビジネスを絡めて社会貢献をしていくことです。
「毎年、内閣府が進めている「リコチャレ」という理系に関わる女性を増やすという趣旨に賛同して、女子中学・高校生に対して金融教育や、理系社員を紹介する取り組みをしています。また、LGBTはライフプランを立てる際に、カミングアウトが同時に起こるため、安心して営業担当や専門家に相談がしづらい状況があると考え、LGBT当事者向けに資産形成を考えるセミナーの企画を始めています。ダイバーシティに関連した社会課題に取り組む団体にいかに資金が回っていく仕組みを作るか、これも金融業界だからこそできることだと思います。そういう意味で、本業である、営業担当者たちと連携しながら、金融を通して野村グループだからこそできることに、もっともっと取り組んでいきたいと思っています。」
今も昔も原動力となっているのは、「人のため、よりよい社会になるために何かしたい」という熱い思い。本業のスキルを活かした社外活動を通じて道を切り拓き、ご自身にとって理想的な環境で職務を遂行する北村さんの生き様は、「生き方を軸に仕事を選びたい」Z世代の方々にとっても、ひとつのロールモデルになるのではないでしょうか。
最後に、北村さんからdiversity works読者にむけてメッセージをいただきました。
「ご自身の抱える課題を気にするあまり、将来のありたい姿を考えるのが難しくなっている方も少なくないと思います。しかし、現在はどんなバックグラウンドを持つ人でも、自分らしく働ける職場が少しずつ増えてきています。今向き合ってる課題は本当に苦しいかもしれない。でもまずは「自分が将来どうしたいか・何を大事にしたいか」というに想いや価値観としっかり向き合って、仕事選びを考えてほしい。いつかそれぞれの課題が解消したら、次に問われるのは「自分が何をしたいのか」という意志です。もし、考えても見えてこないようなら、少しでも関心のある仕事から始めてみるのもいいと思います。実際に働くなかで見えてくることもありますし、時間がかかってしまっても大丈夫です。また、やりたいことが仕事に結びつかなくても良いと思います。仕事だけでなくプライベートで、自分のやりたいことに紐づくことができれば、より幸せな働き方・生き方につながっていく、そう思います。」
企業情報:野村ホールディングス株式会社